

監修医師:
田頭 秀悟(たがしゅうオンラインクリニック)
目次 -INDEX-
四肢麻痺の概要
四肢麻痺とは、両腕と両足どちらもが麻痺により動かなくなり、体の大部分の運動機能が失われた状態のことです。運動機能の障害だけでなく、感覚障害や自律神経の障害などを伴うこともあります。
そもそも麻痺とは、神経や筋肉の損傷により、体の一部または全てが思い通りに動かなくなる状態です。脳や脊髄、末梢神経といった神経系や筋肉に障害が起きることで発症します。
麻痺にはいくつかの種類があります。片側の手足が動かなくなる片麻痺、両足が動かなくなる対麻痺、手や足の一部だけが動かなくなる単麻痺などです。
また、症状の程度によって、運動および感覚が完全に失われた完全麻痺と、一部の機能が残存している不完全麻痺に分けられます。
四肢麻痺の程度は、損傷を受けた部位や程度によって異なります。完全麻痺の場合、首から下のすべてが、自分の意志で動かせなくなります。不完全麻痺の場合は、ある程度の運動機能が残っています。
いずれも、リハビリテーションを継続することで一定の回復が期待できますが、現状、元の機能を完全に取り戻すことは困難とされています。
四肢麻痺の原因
四肢麻痺の主な原因は首の脊髄の損傷(頚髄損傷)です。脊髄は脳からの信号を体の各部位に伝える役割を担い、そのうち頚髄は腕と足の両方の運動や感覚をコントロールしています。この部分が損傷を受けることで、四肢麻痺が起こります。
頚髄損傷の原因として最も多いのは外傷です。交通事故、転落事故、スポーツ事故などにより、首の骨が損傷し、中の脊髄が傷つく場合があります。瞬間的な強い衝撃や、首が急激に曲がることで起こります。
また、病気によっても四肢麻痺は生じます。頚椎の椎間板ヘルニアや脊椎管狭窄症などの変性疾患に加えて、腫瘍、感染症、血管の異常なども原因となることがあります。さらに、多発性硬化症や筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経変性疾患でも、進行とともに四肢麻痺があらわれることがあります。
外傷による場合は突然発症しますが、病気が原因の場合は、徐々に症状が進行することが多いのが特徴です。また、外傷の場合は頚椎の何番目が損傷を受けたかによって、麻痺の程度や残存する機能が異なってきます。
四肢麻痺の前兆や初期症状について
頚髄損傷による四肢麻痺は、損傷直後から急激に症状があらわれます。最初に手足の運動障害があらわれ、動きが悪くなったり完全に動かなくなったりします。同時に手足のしびれや感覚の鈍さ、痛みなどを感じることがあります。
そのほかにも、呼吸が苦しくなる、体温調節が難しくなる、筋肉が突っ張る、膀胱や腸の機能に異常が出るなど、さまざまな症状があらわれることがあります。
四肢麻痺は重度の障害となる可能性が高いため、事故などで首に強い衝撃を受けた後にこのような症状が出た場合は、すぐに救急車を呼びましょう。早期の適切な治療が、その後の回復に大きく影響します。
四肢麻痺の検査・診断
四肢麻痺が疑われる場合、神経学的検査や運動・感覚機能検査などが行われます。
神経学的検査
医師は、手足の筋力や感覚、反射などを詳しく調べます。検査の際に使用されるのは「ASIA機能障害尺度」という国際的な評価基準で、運動機能と感覚機能を細かく評価します。脊髄のどの部分が損傷を受けているか、また麻痺が完全か不完全かを判断することが可能です。
運動・感覚機能検査
両腕、両足の筋力を個別に評価し、どの部分までの機能が保たれているかを調べます。また、痛覚、触覚、温度感覚、位置覚などの感覚検査も行います。
画像検査
頚椎や脊髄の状態を詳しく調べるため、CTやMRIなどの検査を行います。CTでは骨の損傷の有無を、MRIでは脊髄そのものの状態や周囲の組織の様子を確認することができます。とくに脊髄の圧迫や浮腫(むくみ)の程度を詳しく評価します。緊急性の高い場合は、まずレントゲン検査で骨折や脱臼の有無を確認します。
その他の検査
必要に応じて電気生理学的検査(神経伝導検査や筋電図検査)を行い、神経の伝導状態や筋肉の反応を評価します。また、呼吸機能検査や膀胱機能検査なども、治療方針を決める上で重要な情報となります。
四肢麻痺の治療
四肢麻痺の治療は、発症直後の急性期の治療と、その後の機能回復や合併症予防のための長期的な治療に分けられます。
急性期の治療
外傷による四肢麻痺の場合、生命維持が最優先となります。呼吸や循環の管理を行いながら、脊髄への圧迫を取り除くため、必要に応じて手術を行います。また、脊髄の二次的な損傷を防ぐため、薬物療法も行われます。
リハビリテーション
麻痺の回復と機能改善のため、できるだけ早期からリハビリテーションを開始します。患者の状態に合わせて、関節の可動域を維持する運動や、残存機能を活かした動作訓練などを行います。また、呼吸機能を改善するための訓練も重要です。
合併症の予防と治療
褥瘡(床ずれ)や関節の拘縮、肺炎などの合併症の予防も重要です。また、排尿や排便の管理、自律神経症状への対応なども必要となります。
生活支援
日常生活の自立度を高めるため、車椅子や各種補助具の使用方法を練習します。また、必要に応じて環境整備や介護サービスの導入も検討します。患者と家族の生活状況に合わせて、サポート体制を整えます。
四肢麻痺になりやすい人・予防の方法
四肢麻痺は、主に事故による外傷や、頚椎の病気によって引き起こされます。外傷の原因として多いのは、交通事故、スポーツ事故、高所からの転落事故などです。
四肢麻痺を予防するには、交通安全の徹底や、スポーツ活動での安全対策が重要となります。
また、頚椎の病気による四肢麻痺を予防するためには、定期的な健康診断や首に負担をかけすぎない生活習慣が大切です。症状があらわれたら、早めに医療機関を受診しましょう。
参考文献