

監修医師:
岡田 智彰(医師)
目次 -INDEX-
後縦靱帯骨化症の概要
後縦靱帯骨化症とは後縦靭帯という靭帯が、骨になる骨化という状態になる難病疾患の1つです。脊柱のどこにでも発症する危険性がありますが、頸椎に発症するのが多い傾向です。
この後縦靭帯は、背骨の中を縦に走っており、椎骨と椎骨をつないで、脊椎を安定させる役割を持っています。しかし、靱帯が骨化してしまい脊髄や神経を圧迫する結果、痛みやしびれ、運動障害や感覚障害などの神経症状を引き起こす場合があります。
また、東アジアの人々に多く見られており、実際に日本での有病率は1.9~4.3% と報告されていますが、北米や欧州では0.1~1.7%と低い傾向で、中年以降の中でも、特に50歳前後で発症することが多く、男女比では2:1と男性に多いことが分かっています。
発症する原因は、遺伝的要因、代謝的要因、解剖学的要因などのように、多くの説が考えられており、その中でも遺伝的要因が有力視されていますが、現在のところはっきりとした理由は不明な状況です。
さらに、前縦靭帯を中心に骨化して、広範囲に分かれて脊柱靭帯の骨化をきたす強直性脊椎骨増殖症を約40%の割合で合併するともいわれています。
画像診断などでの重症度の確認や、症状の有無に応じて治療法は異なり、無症状の場合には保存的治療が行われることが多いですが、神経症状がある場合は外科的治療が必要となる場合もあります。
多くの場合、手術後は改善が見られますが、徐々に神経症状が悪化する傾向があります。
後縦靱帯骨化症を発症すると、日常生活に大きな影響を与えることが多いため、気になる症状が合った場合は、すぐに医療機関を受診して、適切な診断と治療が重要です。
後縦靱帯骨化症の原因
さまざまな原因によって発症するといわれていますが、現時点では正確な原因は解明されていません。しかし、その中でも以下のような要因が発症に関与していると考えられています。
遺伝的要因
現時点で、有力視されている原因の1つとして、遺伝的要因があります。実際に、後縦靭帯骨化症を発症した方の両親では26%、兄弟では29%というように、発症率が高いことが分かっています。
加齢
中年以降によく発症していることから、年齢とともに靭帯組織の柔軟性が低下して、骨化しやすくなる可能性があります。
代謝的要因
糖尿病と後縦靭帯骨化が関係している可能性があるともいわれています。実際に、糖尿病の場合、15%程度の割合で、後縦靭帯の骨化が認められたという報告があり、その割合は一般成人よりも多いことがわかります。
発症の割合に影響を及ぼす因子として、肥満・血糖値や血糖を下げるインスリンの値など、さまざまな方面から研究が行われていますが、現時点では詳細は不明です。
病理学的要因
身体の中で骨がつくられる場合には、カルシウム、リン、ビタミンDなどのように、さまざまな物質やホルモンが複雑に関係しています。しかしこれらの中で一部が異常をきたすと、骨の形成が異常になった結果、発症するともいわれています。ビタミンD抵抗性低リン酸性くる病や副甲状腺機能低下症では高率に発症することが報告されています。
後縦靱帯骨化症の前兆や初期症状について
病気を発症していても、初期段階では症状が軽度なため気付かれない場合もあります。しかし症状が進行すると脊髄や神経が圧迫されて症状が顕著に出現する傾向なため、早期発見して、適切な治療を行うことが重要です。そのため、以下のような症状がみられた場合は注意しましょう。
こわばりや痛み
首や肩のコリや痛み、首の動かしにくさなどを感じる場合があります。長時間同じ姿勢を取ると症状が悪化しやすく、首を動かした際に違和感を覚える時もあります。
これらの症状は、後縦靭帯が骨化することで、脊椎が固く動きにくくなることによって生じるといわれています。
しびれなどの神経症状
脊髄が圧迫されることで、しびれなどの神経症状が生じる場合があります。具体的には、手指や腕に痛みやしびれを感じるだけでなく、感覚が鈍くなる場合もあります。
筋力が低下する
脊髄が圧迫されると、上肢や下肢の筋力低下がみられた結果、日常生活に支障をきたす場合があります。
具体的には、手指が自由に動かないため、細かい作業ができなくなる、歩いてもバランスを崩しやすくなり、ふらつくことが多くなるなどの症状が認められます。
排尿障害
初期症状ではほとんど認められませんが、症状が進行すると頻尿や尿失禁などの排尿に関する問題が現れる場合があります。
上記の症状があって気になる場合は、整形外科や脊椎外科を受診しましょう。受診することで専門医の適切な評価や診断、治療が行われるはずです。
後縦靱帯骨化症の検査・診断
1つの検査によって診断されることはなく、以下のようにさまざまな検査を複合的に実施して診断するのが一般的です。
問診と身体診察
手足のしびれや痛み、筋力低下や歩行時のふらつきなどの症状の有無と、発症時期や進行具合を確認します。
これらによって、より詳細な評価が必要な場合は画像検査を行います。
画像検査
後縦靱帯骨化症の診断には、以下の画像検査を実施します。
①X線検査(レントゲン)
後縦靱帯の骨化を確認するために行う基本的な検査です。X線検査では、骨化した靱帯が白く映るため骨化の範囲や程度を把握できます。
②CT(コンピュータ断層撮影)
CTはX線検査よりも骨化の範囲など詳細な評価に優れているだけでなく、脊柱管の狭窄度を合わせて評価できることから、手術計画を立てる際にも役立ちます。
③MRI(磁気共鳴画像法)
神経の圧迫の程度や、神経症状の原因を特定するのに信頼性が高い検査とされています。
後縦靱帯骨化症の治療
治療は保存的治療と外科的治療に分かれますが、それぞれは、症状の重症度や骨化の進行度などによって、どの治療方法が良いのか選択します。
保存的治療
軽度の症状や、脊髄・神経への圧迫が少ない場合には、保存的治療が行われます。
具体的には、痛みやしびれを軽減するために、消炎鎮痛剤、筋弛緩剤などが処方される場合や、圧迫されている神経を保護する目的で、発症している部位に対して装具を着用する場合があります。
そのほかにも、脊椎の安定性を高める目的で理学療法士によるリハビリテーションを実施して、首や背中の筋力強化や、ストレッチを通じて可動域を改善させ、症状の進行を防ぎます。
外科的治療
症状が進行して、保存的治療では改善が見られない場合や、神経症状が重度の場合には、手術が検討されます。
手術方法は、前方法と後方法の2つが基本的ですが、場合によって、前方法と後方法の両方を含む複合手術が行われる場合があります。
前方法は、脊髄圧迫している骨化した靭帯を摘出し、その部位に自分の骨などを充填して固定します。一方、後方法は、骨化した靭帯の摘出は行わず、脊髄が存在している脊柱管をひろげる方法になります。
この2つの方法の中で、一般的には後者が選択される傾向です。
後縦靱帯骨化症になりやすい人・予防の方法
特定の遺伝的要因や生活習慣によって発症する危険性が高まるといわれているため、以下の要件に該当する場合は注意が必要です。
家族歴がある人
遺伝的な要因が強く関与している可能性がある疾患です。そのため、家族の中で後縦靱帯骨化症を発症している場合は注意が必要です。
中高年層
40〜60歳の中高年で多く発症するため注意しましょう。特に、女性より男性の方が発症率が高いため、性別にも注意が必要です。
糖尿病や肥満のある人
糖尿病や肥満などの代謝異常を持つ人は、骨や靱帯の変化が起こりやすいため、注意が必要です。
これらの要件に該当する場合は、後縦靱帯骨化症を発症しやすい傾向のため注意しましょう。効果的な予防法は確立されていませんが、バランスの取れた食事や定期的な運動を心がけ、肥満や糖尿病のリスクを軽減させましょう。
また、定期的な健康診断で後縦靭帯骨化症を早期発見することで、すぐに適切な治療を行えます。特に、しびれなどの神経症状が現れた場合は、できるだけ早くに医療機関を受診することで、進行を抑える治療が期待できます。
参考文献
- 難病情報センター「後縦靱帯骨化症(OPLL)(指定難病69)」
- 公益社団法人 日本整形外科学会「後縦靱帯骨化症・黄色靱帯骨化症」
- Ossification of the Posterior Longitudinal Ligament: Pathophysiology, Diagnosis, and Management
- 厚生労働省「069 後縦靭帯骨化症」
- 後縦靭帯骨化症の感受性遺伝子 ―発見と今後の展望―
- Ossification of the Posterior Longitudinal Ligament Etiology, Prevalence, Progression, and Surgical Strategies
- The Pathogenesis of Ossification of the Posterior Longitudinal Ligament
- Surgical Treatment for Ossification of the Posterior Longitudinal Ligament in the Cervical Spine