

監修医師:
副島 裕太郎(横浜市立大学医学部血液・免疫・感染症内科)
目次 -INDEX-
結核性関節炎の概要
結核性関節炎は、結核菌が関節に感染することで起こる病気です。結核菌は通常、肺に感染しますが、血液を介してほかの部位に広がることもあります。
関節に感染すると、炎症を起こし、痛み、腫れ、関節の動きの制限などの症状を引き起こします。治療が遅れると、関節の破壊や変形につながる可能性もあります。
結核性関節炎の原因
結核性関節炎の主な原因は、結核菌 Mycobacterium tuberculosis です。結核菌は、空気中に漂う飛沫核を吸い込むことで感染します。感染者の咳やくしゃみによって、結核菌を含む飛沫核が空気中に放出されます。結核菌は通常、肺に感染しますが、血液を介して体のほかの部位に広がることもあります。
関節に感染すると、結核性関節炎を引き起こします。
結核性関節炎の前兆や初期症状について
結核性関節炎の症状は、感染の初期段階では非特異的で、ほかの関節炎と区別が難しいことがあります。
関節の痛み
結核性関節炎の最も一般的な症状は関節の痛みです。痛みは、安静時にも感じられることがあり、夜間に悪化することがあります。
関節の腫れ
感染した関節は腫れ、熱を持つことがあります。
関節の動きの制限
関節の炎症により、関節の動きが制限されることがあります。
全身症状
発熱、疲労感、体重減少、食欲不振などの全身症状が現れることもあります。
結核性関節炎が進行すると、以下の症状が現れることがあります。
関節の変形
結核性関節炎が進行すると、関節の変形が起こることがあります。
関節の機能障害
関節の痛みや変形により、関節の機能が障害されることがあります。
膿瘍
感染した関節の周囲に「膿だまり」が形成されることがあります。
瘻孔
膿瘍が皮膚と繋がった状態になることがあります。
結核性関節炎は、身体のどの関節にも感染する可能性がありますが、最も一般的な感染部位は、脊椎、股関節、膝関節です。
上記のような症状があるときは、整形外科やリウマチ膠原病内科を受診するのがよいでしょう。
結核性関節炎の検査・診断
問診診察
症状、既往歴(結核になりやすい病気を持っていないか)、結核患者さんと身近に接したかどうかなどを確認します。
診察
関節の圧痛、腫脹、可動域制限、神経学的異常などを確認します。
血液検査
結核感染を示唆する炎症反応(赤血球沈降速度やC反応性タンパク質(CRP)の上昇など)を調べます。
ただし、血液検査だけでは結核性関節炎の確定診断はできません。
結核に関する検査
ツベルクリン反応
結核菌に対する免疫反応を調べる皮膚テストです。陽性反応は結核感染を示唆しますが、過去のBCG接種や非結核性抗酸菌症でも陽性になることがあります。
インターフェロンγ遊離試験 (IGRA)
結核菌に感染した細胞が分泌するインターフェロンγを測定する血液検査です。ツベルクリン反応よりも特異性が高く、BCG接種の影響を受けません。
画像検査
X線検査
関節の骨の破壊や変形などを確認します。初期の結核性関節炎では、X線検査で異常が見られないこともあります。
CT検査
X線検査よりも詳細に関節の状態を把握できます。骨破壊の程度、膿瘍の有無などを評価することができます。
MRI検査
結核性関節炎の診断に最も有用な画像検査です。早期の骨髄の変化、炎症の範囲、膿瘍などを高精度に描出することができます。
関節液検査
感染した関節から関節液を採取し、顕微鏡検査、培養検査、PCR検査などを行います。
生検
確定診断のために、関節の滑膜や骨組織を採取し、病理検査と培養検査を行います。病理検査では、結核に特徴的な肉芽腫と呼ばれる病変の有無を確認します。培養検査では、結核菌を検出します。
遺伝子検査(PCR法)を行うことで、結核菌の遺伝子を検出し、迅速に診断することも可能です。
結核性関節炎の治療
結核性脊椎炎の治療は、抗結核薬(結核菌を殺す薬)による薬物療法が中心となります。通常、複数の抗結核薬を組み合わせて使用します。薬物療法の目的は、結核菌を完全に排除し、病気の進行を抑え、合併症を防ぐことです。
まずは一次抗結核薬(イソニアジド、リファンピシン、ピラジナミド、エタンブトールなど)の結核菌に対して強い殺菌効果を持つ薬剤を組み合わせて治療します。
二次抗結核薬(ストレプトマイシン、アミノグリコシド系、キノロン系など)は、一次抗結核薬が無効な場合や副作用がある場合に使用されます。治療期間は、病気の重症度や患者さんの状態によって異なります。結核菌の中には、薬剤に対して抵抗力を持つものがあり、薬剤耐性結核と呼ばれます。薬剤耐性結核の治療には、二次抗結核薬を組み合わせて、長期間にわたる治療が必要です。
抗結核薬は、決められた期間、毎日欠かさず服用することが重要です。
服薬を中断したり、不規則に服用したりすると、薬剤耐性結核が出現するリスクが高まります。
DOTS(Directly Observed Treatment, Short-course)という、医療従事者または訓練を受けた人が患者さんの服薬を直接確認する方法を使うこともあります。
服薬遵守を向上させ、薬剤耐性結核の発生を防ぐ効果があります。
薬物療法以外の治療
安静
結核性脊椎炎の初期には、脊椎への負担を減らすために安静が必要な場合があります。
装具療法
コルセットやギプスなどの装具を装着することで、脊椎を固定し、変形を防ぎます。
手術療法
薬物療法が無効な場合、関節の破壊が激しい場合、関節の機能障害が著しい場合、膿瘍が形成され薬物療法で縮小しない場合などでは、感染した骨や組織の切除、関節の固定、人工関節置換術などを行います。
結核性関節炎になりやすい人・予防の方法
結核性関節炎になりやすい人
結核性関節炎は誰にでも起こりうる病気ですが、特定のグループは発症リスクが高くなります。
免疫力の低下
HIV感染者、臓器移植を受けた人、免疫抑制剤を使用している人、高齢者などは、免疫力が低下しているため、結核性関節炎を発症しやすいです。
栄養不良
栄養状態が悪いと、免疫力が低下し、結核菌に感染しやすくなります。
結核の流行地域への渡航歴
結核の流行地域に滞在したことがある人は、結核菌に感染している可能性があります。
結核患者との接触
結核患者と密接な接触があった人は、結核菌に感染している可能性があります。
糖尿病
糖尿病は、免疫力を低下させ、結核性関節炎のリスクを高めます。
喫煙
喫煙は、肺の免疫機能を低下させ、結核菌に感染しやすくなります。
結核性関節炎の予防方法
結核性関節炎の予防には、結核菌への感染を防ぐことが重要です。
BCGワクチン
BCGワクチンは、結核の発症を予防する効果があります。日本では、乳幼児にBCGワクチンを接種することが推奨されています。
結核の早期発見と治療
結核に感染している人が早期に治療を受けることで、結核菌の拡散を防ぎ、結核性脊椎炎の発症を予防することができます。
結核患者との接触を避ける
可能な限り、結核患者との接触を避けましょう。特に、咳やくしゃみなどの症状がある結核患者との接触は避けましょう。
結核性関節炎は早期発見と適切な治療が重要です。治療が遅れると、関節の変形や機能障害など、生活に大きな影響を及ぼす後遺症が残る可能性があります。
関連する病気
- 結核
- 脊椎結核(結核性脊椎炎)
- 結核性滑液包炎
- 免疫抑制関連の結核
- HIV感染症
参考文献
- Eric M. Ruderman and John P Flaherty. Mycobacterial Infections of Bones and Joints. Firestein & Kelley’s Textbook of Rheumatology, 114, 2013-2025.e4