

監修医師:
井林雄太(井林眼科・内科クリニック/福岡ハートネット病院)
動脈瘤様骨嚢腫の概要
動脈瘤様骨嚢腫(Aneurysmal bone cyst;ABC)は、良性骨腫瘍とも呼ばれており、骨に発生する、癌ではない良性の病変ですが、拡大・成長する傾向があり、発症すると、痛み・腫れ・骨の変形などが生じます。そのため、手術などによる治療が必要ですが、10〜15%程度は再発するともいわれているため注意が必要です。
動脈瘤様骨嚢腫は、身体のどの骨にも発生する可能性がありますが、膝関節・肩関節・骨盤・脊椎の周辺によく見られる傾向です。実際、膝関節・肩関節などの長い骨の端である骨端で60〜70%程度、脊椎で15%程度、骨盤で9%程度発生するといわれています。また、頻度は低いものの、頭や顔の骨にも発生する場合もあります。
動脈瘤様骨嚢腫を発症する年代は、成人よりも子供に多く見られ、一般的には生後20年以内に発症するといわれています。また、男性よりも女性にわずかに多く発生する傾向です。
ただ、動脈瘤様骨嚢腫自体は、年間100,000 人に1人未満に発症するなど、稀な疾患で、すべての原発性骨腫瘍の1〜6%程度となっています。
動脈瘤様骨嚢腫は、良性であるためがんのように転移することはありませんが、進行性すると痛みだけでなく、骨の強度が弱くなった結果、病的な骨折を引き起こす危険性もあります。また、脊椎に発生した場合には、神経圧迫によるしびれや筋力低下が生じる場合もあります。そのため、画像診断などを用いて、できるだけ早期に評価・診断をし、適切な治療を行うことが重要です。
動脈瘤様骨嚢腫の原因
動脈瘤様骨嚢腫の原因は、現時点では完全には解明されていませんが、以下のように考えられています。
異常な血管形成
骨内部の血管が異常に形成されることや、局所的に血が固まりにくくなるなどによって、骨内に血液がたまった空間を形成することが原因の1つと考えられています。
外傷
外傷などで骨にダメージが加わり、骨の内部に出血が生じた結果、それを修復しようとします。しかし、その際に、骨内の血流障害が生じることで、動脈瘤様骨嚢腫が発生する場合もあると考えられています。
ただ、すべての症例が外傷と関連しているわけではありません。
遺伝子変異
一部の研究では、動脈瘤様骨嚢腫が特定の遺伝子変異と関連しているという報告もあります。ヒトの細胞は22対、44本の常染色体と呼ばれる染色体を持っています。
常染色体は1〜22番までの番号が付けられていますが、その中で、16番目と17番目の染色体に異常が生じることで、細胞の増殖が促進された結果、動脈瘤様骨嚢腫が発症すると一説では考えられています。
ほかの骨疾患との関連
動脈瘤様骨嚢腫は、ほかの骨疾患に続発して発生する場合もあります。具体的には、動脈瘤性骨嚢胞を発症している20~30%程度は、ほかの骨腫瘍である軟骨芽細胞腫や巨細胞腫瘍が存在する場合は、これらに付随して動脈瘤様骨嚢腫が形成される場合があります。
動脈瘤様骨嚢腫の前兆や初期症状について
動脈瘤様骨嚢腫の前兆や初期症状については、以下のような特徴があります。
局所の痛み
初期症状としてよくみられるのが痛みです。この痛みの程度は、個人によって差がありますが、数週間〜数ヶ月にわたって徐々に出現するのが一般的です。
ときおり強い痛みによって、日常生活に影響を与える場合もあります。
腫れ
患部に腫れが生じる場合もあります。症状が進行すると、腫れが強くなるだけでなく、骨の変形や隆起が確認されるなど、外見的な変化が生じる場合もあります。
可動域の制限
上・下肢ともに、身体などがこわばって自由に動かなくなる硬直や、可動域の制限を感じる場合があります。
病的骨折
症状が進行すると、骨の内部が空洞化されて、骨の強度が低下した結果、通常の骨では折れない程度の負荷でも病的骨折を引き起こす場合があります。
そのため、少数であるものの、痛みや腫れが少しずつ進行するのではなく、病的骨折を生じた結果、突然痛みが出現する場合があります。
神経症状
嚢胞が神経を圧迫することでしびれや筋力低下などの神経症状を生じる場合があります。この神経症状は脊椎に動脈瘤様骨嚢腫を発症した場合に生じるのが多い傾向です。
その他
症状はないものの、定期的な医師の診察中や、レントゲン写真などによって、動脈瘤様骨嚢腫が偶然発見される場合もあります。
動脈瘤様骨嚢腫は主に10〜20歳代の成長期によく発症する疾患のため、成長期の子どもが上記のような前兆や初期症状を訴えた場合は、整形外科を一度受診しましょう。
整形外科は、骨や軟部組織の腫瘍を専門的に扱っているため、適切な評価と治療が行われるはずです。
動脈瘤様骨嚢腫は進行すると、痛みなどによって日常生活にも大きな影響を与えるため、少しでも気になる症状があった場合は、すぐに医療機関を受診しましょう。
動脈瘤様骨嚢腫の検査・診断
動脈瘤様骨嚢腫を正確に診断するためには、ほかの悪性腫瘍と区別するために、評価を適切に行い、正確な診断を行うことが重要です。そのためには、以下の検査を複合的に行うのが一般的です。
問診と身体評価
医師は、痛み・腫れの発症時期や、それらの症状の進行状況、外傷の有無などを詳しく確認します。また、身体評価では、患部の腫れや骨の変形、可動域の制限などを視診・触診などを行って確認します。
画像検査
動脈瘤様骨嚢腫の診断には、以下の画像検査を行います。
①X線検査(レントゲン)
X線検査(レントゲン)は、骨の損傷や骨の異常を診断できるため、動脈瘤様骨嚢腫を発症している場合、骨の内部に嚢胞状の空洞が形成されているのが確認できるだけでなく、周囲の骨が薄くなっている場合もあります。
②磁気共鳴画像検査(MRI検査)
磁気共鳴画像検査を行うことで、腫瘍の詳細な評価ができるだけでなく、嚢胞内の組織と液体を調べるのにも最適な検査です。
③コンピューター断層撮影検査(CT検査)
コンピューター断層撮影検査は、骨の細部構造を確認するために使用されるため、X線検査と比較しても、骨の内部に生じている嚢胞状の空洞をより鮮明に確認できます。
画像診断は、X線検査を確認したあとに、磁気共鳴画像検査を行うのが基本的なため、コンピューター断層撮影検査を行う頻度は少ない傾向です。
生検(バイオプシー)
ほかの骨腫瘍や悪性疾患を区別するために、生検(バイオプシー)を行う場合があります。病変部位から組織を採取して、顕微鏡で観察することで、動脈瘤様骨嚢腫の特徴的な組織構造を確認できます。
動脈瘤様骨嚢腫の治療
治療法は、動脈瘤様骨嚢腫の大きさや位置、患者さんの年齢や全身状態によって異なりますが、以下が一般的な治療です。
手術療法
治療は手術療法が中心となり、特に以下の方法で行われます。
①掻爬術(そうはじゅつ)
骨の中にさじ状の器具を差し込んで、嚢腫の内容を掻き出す方法です。この方法は、骨自体は残るため、手術後も運動機能障害を生じる可能性は少ないといわれています。
また、一般的には、掻き出して残った空間に、人工骨やセメントなどを充填することで、骨の強度を保ちます。
②切除術
嚢胞が存在する骨の大きな部分を切除する手術で、重度の骨破壊を引き起こしている場合や、動脈瘤様骨嚢腫を複数回再発した場合などに実施します。
広範囲に骨を切除する手術になるため、自分の骨の一部を移植する手術も同時に行われるのが一般的です。
硬化療法
腫瘍または腫瘍付近の血管に溶液を注射します。この治療法は、当日に帰宅できるメリットがありますが、腫瘍を除去するには、複数回の治療が基本的には必要です。
放射線療法
手術が困難な場合や、再発を防ぐ目的で放射線療法を行う場合がありますが、患者さんの多くは、成長期の子どもにあるため、骨成長への影響などを考えると、慎重に検討する必要があります。
動脈瘤様骨嚢腫になりやすい人・予防の方法
動脈瘤様骨嚢腫の発症は予測するのが難しいのが現状ですが以下の条件に該当する場合は注意が必要です。
年齢
動脈瘤様骨嚢腫は主に若年層に発症しやすい傾向です。この年齢層は、骨の成長が活発な時期で、骨内の血管や組織の異常が発生しやすくなるため、注意が必要です。また、男女比ではわずかに女性の方が多い傾向です。
外傷を経験した場合
骨や関節に外傷を受けた場合、骨内の血流が変化して、動脈瘤様骨嚢腫を発症しやすくなる危険性があります。そのため、外傷後に持続的な痛みや腫れがある場合は、すぐに医療機関で受診しましょう。
ほかの骨疾患を持つ場合
巨細胞腫や軟骨腫など、ほかの骨疾患がある場合、二次的に動脈瘤様骨嚢腫を発生する可能性があります。
遺伝的な要因が疑われる場合
動脈瘤様骨嚢腫には特定の遺伝子変異との関係が指摘されているため、家族に同様の疾患がある場合は、発症する危険性が高くなるかもしれません。
動脈瘤様骨嚢腫の予防に関しては、特定の方法が確立されているわけではありませんが、早期発見するために、骨に異常を感じた場合や、痛みが続く場合はすぐに医療機関を受診し、適切な検査を受けましょう。
また、骨の健康を維持するために、カルシウムやビタミンDを含む栄養バランスの取れた食事を心がけ、適度な運動を行うことで、骨密度を保ち、骨折のリスクを低減することが期待できます。
関連する病気
- 骨巨細胞腫(こつきょさいぼうしゅ)
- 骨肉腫(こつにくしゅ)
- 骨の感染症(化膿性骨髄炎)
- 骨の発育異常
- 多発性骨嚢腫
参考文献




