

監修医師:
副島 裕太郎(横浜市立大学医学部血液・免疫・感染症内科)
目次 -INDEX-
結核性脊椎炎の概要
結核性脊椎炎は、一般的に結核菌が肺に感染した後に、血液を介して脊椎に広がることで発症します。結核性脊椎炎、骨の破壊、炎症、激痛、そして重症化すると脊椎の変形や神経障害を引き起こします。この病気は、紀元前9000年のミイラからも発見されるほど古くから人類を苦しめてきました。
結核性脊椎炎の原因
結核性脊椎炎の直接的な原因は、結核菌 Mycobacterium tuberculosis の感染です。
結核菌は、主に空気感染(感染者の咳やくしゃみによって空気中に放出された結核菌を吸い込むこと)で感染します。
結核菌は、肺に感染した後、血液を介して脊椎を含む体のさまざまな部位に広がり、結核性脊椎炎を引き起こします。
結核性脊椎炎の前兆や初期症状について
結核性脊椎炎は、初期症状が非特異的です。ほかの病気と区別が難しいことが診断を遅らせる要因となります。
背中や腰の痛み
初期段階では、鈍痛で、安静にしていても痛みが続くことがあります。
発熱
微熱が続く、または断続的に高熱が出ることもあります。
疲労感
原因不明の倦怠感や脱力感が続くことがあります。
食欲不振
食欲が低下し、体重が減少することもあります。
寝汗
夜間に大量の汗をかいて目が覚めることがあります。
結核性脊椎炎が進行すると、以下の症状が現れることがあります。
神経障害
脊髄が圧迫されることで、手足のしびれ、麻痺、筋力低下、歩行困難、膀胱や直腸の障害などが現れることがあります。
脊椎の変形
脊椎が破壊されることで、後弯(せぼねが丸くなる)などの変形が現れることがあります。
膿瘍の形成
感染部位に膿が溜まり、腫れや痛みを引き起こします。
上記のような症状があるときは、整形外科(なかでも脊椎の専門医)を受診することをすすめます。
結核性脊椎炎の検査・診断
問診と診察
医師は、患者さんの症状、既往歴、結核への曝露歴などを詳しく尋ねます。また、脊椎の圧痛、可動域制限、神経学的異常などを確認する身体診察を行います。
血液検査
結核感染を示唆する炎症反応(赤血球沈降速度やCRP値の上昇など)を調べます。
ただし、血液検査の炎症反応だけでは結核性脊椎炎の診断はできません。
結核菌に関する検査
ツベルクリン反応
結核菌に対する免疫反応を調べる皮膚テストです。陽性反応は結核感染を示唆しますが、過去のBCG接種や非結核性抗酸菌症でも陽性になることがあります。
インターフェロンγ遊離試験 (IGRA)
結核菌に感染した細胞が分泌するインターフェロンγを測定する血液検査です。ツベルクリン反応よりも特異性が高く、BCG接種の影響を受けません。
画像検査
X線検査
脊椎の骨の破壊や変形などを確認します。初期の結核性脊椎炎では、X線検査で異常が見られないこともあります。
CT検査
X線検査よりも詳細に脊椎の状態を把握できます。骨破壊の程度、膿瘍の有無、脊髄の圧迫などを評価することができます。
MRI検査
結核性脊椎炎の診断に最も有用な画像検査です。早期の骨髄の変化、炎症の範囲、膿瘍、脊髄の圧迫などを高精度に描出することができます。MRI検査では、T1強調画像で低信号強度、T2強調画像で高信号強度を示す病変が特徴的です。造影剤を用いることで、病変の活動性を評価することもできます。
生検
確定診断のために、脊椎病変部から組織を採取し、病理検査と培養検査を行います。
病理検査では、結核に特徴的な肉芽腫と呼ばれる病変の有無を確認します。
培養検査では、結核菌を検出します。
遺伝子検査(PCR法)を行うことで、結核菌の遺伝子を検出し、迅速に診断することも可能です。
結核性脊椎炎の治療
薬物療法
結核性脊椎炎の治療は、抗結核薬(結核菌を殺す薬)による薬物療法が中心となります。
通常、複数の抗結核薬を組み合わせて使用します。
薬物療法の目的は、結核菌を完全に排除し、病気の進行を抑え、合併症を防ぐことです。
まずは一次抗結核薬(イソニアジド、リファンピシン、ピラジナミド、エタンブトールなど)の結核菌に対して強い殺菌効果を持つ薬剤を組み合わせて治療します。
二次抗結核薬(ストレプトマイシン、アミノグリコシド系、キノロン系など)は、一次抗結核薬が無効な場合や副作用がある場合に使用されます。
治療期間は、病気の重症度や患者さんの状態によって異なります。
結核菌の中には、薬剤に対して抵抗力を持つものがあり、薬剤耐性結核と呼ばれます。
薬剤耐性結核の治療には、二次抗結核薬を組み合わせて、長期間にわたる治療が必要です。
抗結核薬は、決められた期間、毎日欠かさず服用することが重要です。
服薬を中断したり、不規則に服用したりすると、薬剤耐性結核が出現するリスクが高まります。
DOTS(Directly Observed Treatment, Short-course)という、医療従事者または訓練を受けた人が患者さんの服薬を直接確認する方法を使うこともあります。
服薬遵守を向上させ、薬剤耐性結核の発生を防ぐ効果があります。
薬物療法以外の治療
安静
結核性脊椎炎の初期には、脊椎への負担を減らすために安静が必要な場合があります。
装具療法
コルセットやギプスなどの装具を装着することで、脊椎を固定し、変形を防ぎます。
手術療法
薬物療法が無効な場合、神経障害が進行している場合、脊椎の不安定性が強い場合、膿瘍が大きくなり、薬物療法で縮小しない場合、脊椎の変形が著しく日常生活に支障をきたす場合には、手術で感染した骨や組織の切除、脊椎の固定、神経の減圧などを行います。
結核性脊椎炎になりやすい人・予防の方法
結核性脊椎炎になりやすい人
結核性脊椎炎は誰にでも起こりうる病気ですが、特定のグループは発症リスクが高くなります。
免疫力の低下
HIV感染者、臓器移植を受けた人、免疫抑制剤を使用している人、高齢者などは、免疫力が低下しているため、結核性脊椎炎を発症しやすいです。
栄養不良
栄養状態が悪いと、免疫力が低下し、結核菌に感染しやすくなります。
結核の流行地域への渡航歴
結核の流行地域に滞在したことがある人は、結核菌に感染している可能性があります。
結核患者との接触
結核患者と密接な接触があった人は、結核菌に感染している可能性があります。
糖尿病
免疫力を低下させ、結核性脊椎炎のリスクを高めます。
喫煙
肺の免疫機能を低下させ、結核菌に感染しやすくなります。
結核性脊椎炎の予防方法
結核性脊椎炎の予防には、結核菌への感染を防ぐことが重要です。
BCGワクチン
BCGワクチンは、結核の発症を予防する効果があります。日本では、乳幼児にBCGワクチンを接種することが推奨されています。
結核の早期発見と治療
結核に感染している人が早期に治療を受けることで、結核菌の拡散を防ぎ、結核性脊椎炎の発症を予防することができます。
結核患者との接触を避ける
可能な限り、結核患者との接触を避けましょう。特に、咳やくしゃみなどの症状がある結核患者との接触は避けましょう。
結核性脊椎炎は早期発見と適切な治療が重要です。治療が遅れると、脊椎の変形や神経障害など、生活に大きな影響を及ぼす後遺症が残る可能性があります。
関連する病気
- 結核感染症
- 免疫不全状態
- 他の結核性疾患
- 慢性疾患や長期の栄養不良
- 膠原病やリウマチ性疾患
参考文献
- Khanna K, Sabharwal S. Spinal tuberculosis: a comprehensive review for the modern spine surgeon. Spine J. 2019;19(11):1858-1870.
- Dunn RN, Ben Husien M. Spinal tuberculosis: review of current management. Bone Joint J. 2018;100-B(4):425-431.