

監修医師:
江崎 聖美(医師)
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山梨大学卒業。昭和大学藤が丘病院 形成外科、群馬県立小児医療センター 形成外科、聖マリア病院 形成外科、山梨県立中央病院 形成外科などで経歴を積む。現在は昭和大学病院 形成外科に勤務。日本乳房オンコプラスティックサージェリー学会実施医師。
目次 -INDEX-
顔面骨骨折の概要
顔面骨骨折とは、顔の骨格を作る骨が壊れることです。 顔面の骨が折れるだけでなく、一部分の欠けやへこみ、ヒビが入ることも骨折といいます。 顔面骨折が起こりやすい部位は、下記のとおりです。 前頭骨(ぜんとうこつ) おでこの骨 眼窩(がんか) 眼球を納めている箱型の骨で、顔面骨のくぼみ部分 鼻骨(びこつ)、篩骨(しこつ) 鼻とその奥にある骨 頬骨(きょうこつ) 頬の骨、前方に突出している体部と側方に突出している弓部からなる 上顎骨(じょうがくこつ) 上の歯茎と鼻の付け根とその周囲の骨 下顎骨(かがくこつ) 下の歯茎と下あごの骨顔面骨骨折の原因
顔面骨骨折は、顔に衝撃が加わったときに引き起こされます。顔面骨が骨折することで衝撃を吸収し、大切な機能を持つ脳を守ってくれるのです。 顔面骨骨折の中で特殊なものに、眼窩底骨折(がんかていこっせつ)があります。眼窩底とは眼窩の奥にある薄い骨のことで、目に拳や膝、野球ボールなどが当たったときに骨折がみられます。顔面骨骨折の前兆や初期症状について
骨の周りには神経と血管が多く存在するため、骨折すると該当部位に痛みや腫れが現れるでしょう。そのほかの症状は、骨折の部位によってさまざまです。- 鼻血が出る
- 目の動きが悪くなる、物が二重に見える
- 眼球表面が内出血する
- 歯のかみ合わせが悪くなる、歯並びが変わる
- 顔の骨格が変わる
- 口が開きづらくなる
顔面骨骨折の検査・診断
顔面骨骨折の診断には、症状の把握と画像検査が必要です。X線やCTなどの画像検査をすると、骨折の有無や程度を判断できるのです。場合によっては、CTや眼科検査(視力や眼球運動検査など)を行うこともあるでしょう。顔面骨骨折の治療
顔面骨骨折の治療法は、部位によって異なります。前頭骨骨折
前頭骨を骨折していても、変形が軽度で頭蓋内に異常がなければ手術は不要です。一方で、前頭骨が大きく陥没している、頭蓋骨も骨折しており感染のリスクがあるといった場合には手術を要します。 手術の際は、額に傷跡を残さないよう毛髪内を切開し、骨を元の位置に戻します。そして、プレートを使って骨折部位を固定します。鼻骨骨折
鼻骨骨折の治療には、手術が必要です。成人の場合は局所麻酔で行うこともありますが、子どもや不安のある方は全身麻酔で行うことが一般的です。 1.手術の所要時間は10〜20分で、手順は下記のとおりです。 2.麻酔薬を含んだガーゼを鼻の中に入れ、30~60分ほど待つ 麻酔が効いたら、鉗子(かんし/はさみのような形をした手術用具)で鼻の骨を挟み、持ち上げながら元の位置に戻す 3.骨が元の位置に戻ったら、鼻の中にガーゼを詰め、鼻の外側からギプスを当てて固定する 局所麻酔の場合は、手術後1時間ほど休んだら帰宅できます。鼻に詰めたガーゼは3〜4日後に抜き、ギプスは7日後に外します。鼻骨骨折は早期に治療することで骨折前の形に戻りやすいとされていますが、2週間以上放置すると戻りにくくなり、手術中の痛みも増すため全身麻酔が必要になることもあるでしょう。眼窩底骨折
眼窩底骨折の多くは、経過観察ののち手術の要否を判断します。眼窩底骨折が認められても、複視(物が二重に見えること)や眼球陥没(眼球が落ち窪むこと)などの症状がなく、画像検査でも骨折の程度が軽症であれば、手術は不要と判断されるケースが多いでしょう。一方で眼窩底骨折により眼を動かす筋肉が挟まれてしまった場合は、緊急手術になることもあります。これは小児に多いケースです。 眼窩底骨折の手術は、全身麻酔で行います。損傷部位に応じて、鼻の中、口の中、下まぶたのまつ毛に沿った皮膚、下まぶた内側の結膜部などの切開が必要です。切開後、折れた骨を元に戻して固定するのが治療の基本となります。しかし骨が粉砕していて元に戻せない場合には、移植が必要です。移植に使用されるのは、自分の骨や軟骨のほか、シリコン、セラミック、チタンなどの人工材料があります。 手術後は、複視や眼球陥没が改善し、頬から唇にかけての知覚障害の回復促進が期待できるでしょう。ただし、骨折の程度によっても手術後の回復具合は異なります。また手術をせずに回復できる状態でも、早期回復のため手術を行うケースもあるようです。頬骨骨折
頬骨骨折には大きく2種類、体部骨折と弓部骨折があります。 体部骨折 隣り合った骨との縫合部で生じるケースが多い、体部(※)が内側に落ち込むので頬の突出感がなくなる 弓部骨折 弓部だけに衝撃を受けることで生じる、顔の側面がへこむ いずれの場合も骨のずれが軽度で、機能障害(複視や感覚障害など)が認められない場合、手術は不要です。軽度の機能障害であれば、自然に治まることもあるでしょう。ただし、機能障害がなくても骨のずれが大きい場合には手術が必要と判断されます。手術後、数週間〜数ヶ月は機能障害が残ることが多いようです。また重度の骨折では、機能障害が完全には治まらず後遺症として残ることもあります。頬骨体部手術
体部手術は、全身麻酔で行います。典型的な骨折の場合では、眉毛の外側、下まぶたの皮膚、口内の粘膜の3か所を切開し、3方向から頬骨の位置を戻します。骨が元の位置に戻ったら、周囲の骨と固定が必要です。このとき用いられるのは、金属製、もしくは時間が経つと吸収される素材のプレートやスクリュー(ねじ)です。頬骨弓部手術
弓部だけの骨折であれば、局所麻酔での手術ができます。側頭部の毛髪内を切開し、骨を元の位置に戻します。弓部骨折の多くは、プレートなどを使った固定は不要です。上顎骨骨折・下顎骨骨折
骨折による骨のずれがほとんどない場合は、顎間固定と呼ばれる方法のみで治療します。顎間固定とは、上下の歯をワイヤーやゴムで固定する治療法です。 手術が必要な場合は、全身麻酔が必要で手順は下記のとおりです。 1.手術の傷跡が目立ちにくい口腔内を切開する 2.骨を元の位置に戻し、プレートとスクリュー(チタンや吸収される素材のもの)で固定する 3.手術の後は上下の歯を固定する かみ合わせをよりよくしたいときには、手術の後に歯科矯正治療を必要とすることもあります。複数個所を同時骨折した場合
顔面骨は複数の骨がつながっているため、一度の衝撃で複数の部位に骨折が生じることもあります。たとえば二輪車の事故、高所からの転落などとても強い衝撃を受けたときです。このようなケースでは、救命処置が優先され、出血を止めるための緊急手術が行われることもあります。 また呼吸が困難になるような骨折(口、喉、鼻をつなぐ経路の骨折など)では、首の皮膚を切開して呼吸するための管を挿入する処置が必要な場合もあります。その後、折れた骨を1つずつ元の位置に戻し、プレートやスクリューで固定します。 複数個所を同時に骨折した場合は、骨格の変形が残ることも多いようです。そのようなときには、後日変形部位を修正することもあります。顔面骨骨折になりやすい人・予防の方法
顔面骨骨折を予防するには、日常生活で安全を確保することが大切です。- 車に乗るときは、シートベルトをする
- 車や自転車は、安全運転を心掛ける
- 運動するときは、準備運動をしっかりと行う
- スポーツするときは、必要に応じてマウスピースやヘルメットなど顔を守る用具を身に付ける
- 泥酔しない
- 転倒、転落しないように注意する
関連する病気
- 顎関節症(TMJ障害)
- 眼窩損傷(眼窩骨折)
- 鼻骨骨折
- 顎の骨折(下顎骨骨折)
- 頭蓋骨骨折顔面神経麻痺
参考文献




