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広範脊柱管狭窄症
林 良典

監修医師
林 良典(医師)

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名古屋市立大学卒業。東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、 NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。医学博士。公認心理師。日本専門医機構総合診療特任指導医、日本内科学会総合内科専門医、日本老年医学会老年科専門医、日本認知症学会認知症専門医・指導医、禁煙サポーター。
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呼吸器内科
皮膚科
整形外科
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循環器内科
脳神経内科
眼科(角膜外来)

広範脊柱管狭窄症の概要

広範脊柱管狭窄症とは、頚椎・胸椎・腰椎の複数の部分に渡って脊柱管が狭くなり、神経が圧迫される疾患のことで、現在では難病指定を受けている疾患です。広範脊柱管狭窄症は広範という言葉にあるように複数の脊柱管の狭小化が認められる必要があります。
具体的な診断の条件は、頚椎・胸椎・腰椎の中で、2ヶ所以上に脊柱管の狭小化が認められること、さらに神経症状(例:しびれ)が日常生活に支障を及ぼしていることが必要です。2ヶ所以上の狭窄部位は、頚椎と腰椎が多く、その割合は7割程度といわれています。
患者数は、平成2年度に報告された時点で1,274人となっており、年間で約2,300人と推計されています。男女比は2:1で男性が多く、60歳代など中年以降に多く認められる傾向です。その後、患者数は増加しており、令和2年度の医療受給者証の所持者数は5,125人となっています。

症状に関しては、脊柱管が狭窄される場所によって異なり、頸椎で神経が圧迫されると、上肢のしびれや痛み、手の使いにくさ、運動障害、筋肉のつっぱり、歩行障害、直腸・膀胱機能障害などの症状が出現します。また、胸椎、腰椎で神経が圧迫されると、下肢のしびれや痛み、歩行障害、直腸・膀胱機能障害だけでなく、歩行中に足が痛くなったりしびれたりして歩けなくなり、少し休むとまた歩けるようになる「間欠性跛行」と呼ばれる症状が出現する場合もあります。

広範脊柱管狭窄症の原因

はっきりとした原因は現在のところ不明ですが、以下のような原因が可能性として考えられています。

加齢

加齢に伴って、脊柱管の構造が変化したり、背骨の周りの靱帯が厚くなるなど、椎間板や関節が劣化することが一般的です。これらの劣化によって脊柱管が狭くなった結果、脊柱管内の神経を圧迫し、症状が出現する場合があります。

生まれつき脊柱管の幅が狭い

脊柱管は年齢を重ねるとともに狭くなる場合だけでなく、生まれつき脊柱管が正常よりも狭くなっている「先天性脊柱管狭窄症」の場合もあります。生まれつき脊柱管が狭い場合は脊柱管内の神経が圧迫されやすくなるため、症状が出現しやすくなります。

骨棘(こつきょく)の形成

加齢や腰への負担などによって、腰の骨が変形した結果、骨の一部がトゲのように尖ってしまう骨棘が形成される場合があります。この骨棘が形成されることで、脊柱管が狭くなり、神経を圧迫する原因となります。

腰椎の変性

腰椎の変性が生じると、脊柱管が狭くなる場合があります。例えば、腰椎が横に曲がってしまう側弯の場合は、曲がった方の凸の側は脊柱管の間隔が開きますが、逆の凹の側は間隔が狭まるため、神経を圧迫しやすくなります。

広範脊柱管狭窄症の前兆や初期症状について

広範脊柱管狭窄症の前兆や初期症状は、個人によって異なりますが、一般的に以下のような症状が見られます。

腰痛

腰椎が圧迫されている場合、初期には軽い腰痛がよく見られます。この痛みは神経の圧迫や筋肉の緊張などが原因で、長時間同じ姿勢を保つと痛みが強くなりますが、前かがみになると痛みが緩和することが特徴的です。

手足のしびれや運動障害

手足のしびれや、ボタンの掛け外しがしづらい、お箸がうまく使えないなどのように細かい動作が行いにくくなります。また、足もしびれだけでなく、つっぱり感が出る、足全体が重く感じる、歩行時につまずきやすくなるなどの症状がみられるため、日常生活に影響を及ぼします。

間欠性跛行がみられる

広範脊柱管狭窄症の典型的な症状で、歩行中に下肢のしびれや痛みが強くなるため、歩けなくなるものの、少し休憩を取れば、しびれや痛みが改善することが特徴です。どの程度の距離を歩けば症状が出現するかは、個人によって異なりますが、 症状が進むほど歩ける距離が短くなると言われています。

排尿・排便障害

初期症状では、あまりみられませんが、神経の圧迫によって、膀胱や腸の機能が低下し、尿意を感じにくくなったり、尿漏れが発生したりする可能性があります。また、排便をしにくいなどの症状がみられる場合もあります。

これらの症状が1つでも該当する場合は、整形外科脳神経外科の専門医を受診しましょう。広範脊柱管狭窄症を改善させるためには、正しく診断されることが重要です。症状が悪化してからでは、思うように改善しない場合があるため、気にある症状がある場合は、すぐに受診して検査・治療をしてもらいましょう。

広範脊柱管狭窄症の検査・診断

広範脊柱管狭窄症の検査・診断は下記の手順でおこないます。

問診

先程紹介した、広範脊柱管狭窄症の前兆や初期症状に該当する症状の有無を確認します。症状が該当する場合は、どの部位がいつから痛むか、症状の現れ方や経過などを詳しく問診します。その問診の中で、手が使いにくい、足のしびれが気になるなど、広い範囲に渡って症状が出ている場合は、広範脊柱管狭窄症を疑う可能性があります。

画像診断

広範脊柱管狭窄症に対しては、脊柱管が狭くなっていること、神経が圧迫されている状況を画像的に評価することが重要なため、以下のような画像診断を行います。

  • X線検査:X線は検査時間が短く手軽に実施できるため、初期診断によく用いられます。X線検査は脊柱の並びやバランス、骨の変形などを確認できますが、椎間板などは軟骨組織のため映りません。
  • CT検査、MRI検査:より詳しく骨や椎間板の状態を評価するために使用されます。特にCT検査は脊柱管の狭窄の程度を疑われる場合に有効です。また、脊髄や神経根の圧迫状態を確認するためにはMRI検査を行う場合があります。MRIは軟部組織の状態も詳しく評価できるため、神経の圧迫や炎症の有無などを評価する際にも適しています。
  • ミエログラフィー(脊髄造影):脊柱管の形状や障害を調べる検査です。具体的には、腰椎から針を刺して造影剤を脊髄腔内に注入し、X線で造影剤の拡散の様子を撮影することで、脊髄や神経根の圧迫程度を確認できます。

重症度の判定

神経症状や日常生活にどれくらい影響しているかなど、重症度によって今後の治療方針を決定します。なお、運動機能障害は、日本整形外科学会頸部脊髄症治療成績判定基準の上肢運動機能Ⅰと下肢運動機能Ⅱで評価・認定するのが一般的です。

広範脊柱管狭窄症の治療

広範脊柱管狭窄症の治療は、症状の重さや進行度に応じて、以下のように保存療法と手術療法に分かれます。

保存療法

症状が軽度〜中等度の症状の場合は、一般的に以下のような治療を行います。

  • 薬物療法:痛みやしびれの軽減を目的に、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やビタミンB12、血流を改善させるプロスタグランジン製剤、神経障害性疼痛に効くと期待されているプレガバリンなどが処方されます。
  • 装具療法:コルセットを装着して脊柱管の中で症状が出現している部分を固定することで、安定性を高め、神経への負担を軽減します。
  • 神経ブロック注射:痛みが強い場合は、神経ブロック注射を行い、必要に応じて薬物療法と併用することがあります。

手術療法

脊髄の麻痺症状が明らかな場合や、保存治療でも効果がみられない場合は、以下のような手術療法を検討します。

  • 椎弓形成術:主に頚椎で行われ、神経の圧迫を軽減するために、狭くなった脊柱管を広げます。
  • 椎弓切除術:主に胸椎や腰椎で行われ、胸椎・腰椎の一部を切除して脊柱管を広げ、脊髄の圧迫を解除します。
  • 拡大開窓術:主に腰椎で行われ、脊柱管内に突出した組織を切り取って内部を広げます。

手術によって、痛みが残っている場合や、筋力の低下がある場合は手術後にリハビリテーションを行う場合もあります。

広範脊柱管狭窄症になりやすい人・予防の方法

広範脊柱管狭窄症を発症する原因は、現時点では解明されていませんが、以下の条件に該当する場合は、広範脊柱管狭窄症を発症しやすい可能性があるため、注意が必要です。

  • 高齢者:主に60歳以上になると、加齢に伴い、椎間板や椎間関節が変性し、脊柱管が狭くなった結果、症状が出現する場合があります。特に男性の場合は、女性より発症する可能性が高くなるため注意が必要です。
  • 遺伝的要因:生まれつき脊柱管が狭い人の場合は、一般的な場合と比較しても症状が出現しやすい傾向です。

上記の条件に該当する場合は、腹筋や背筋を鍛える運動やストレッチを行い、特に腰部への負荷を減らすために適正体重を維持することで脊椎にかかる負担の軽減が期待できます。また、今回紹介した広範脊柱管狭窄症の症状に該当した場合、軽い症状でも早めに医療機関を受診し、専門的な診断と適切な治療を受けることが進行を防ぐために重要です。

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