

監修医師:
井林雄太(井林眼科・内科クリニック/福岡ハートネット病院)
狭窄性腱鞘炎の概要
狭窄性腱鞘炎は、手や指を使う際に腱が腱鞘と呼ばれるトンネル状の構造を通過する部分で炎症が生じる疾患です。
この炎症により腱鞘が狭くなり、腱がスムーズに動かなくなることが特徴です。特に指の付け根や手首に痛みや腫れを伴い、指の動きが制限される場合があります。俗に「ばね指」と呼ばれることもあり、指が曲がったまま戻りにくくなる症状が現れることがあります。
原因としては、手や指の使い過ぎや繰り返しの動作による負担が挙げられます。パソコン作業などが腱鞘に過剰なストレスを与え、炎症を引き起こします。また、加齢による腱鞘の柔軟性の低下や、糖尿病、関節リウマチなどの基礎疾患もリスクを高める要因です。
この疾患は、単に痛みを引き起こすだけでなく、日常生活の動作にも大きな影響を与えます。例えば、ペンを持つ、荷物を持つ、タイピングをするなど、手を頻繁に使う行動が困難になることがあります。放置すると症状が悪化し、腱鞘の硬化や指の変形につながるリスクもあるため、早期の対応が重要です。
治療法は症状の程度によります。軽度の場合、手の使用を控える休息や固定、湿布や抗炎症薬で改善することが期待されます。進行した場合は、ステロイド注射や手術が選択肢の一つです。
狭窄性腱鞘炎の原因
狭窄性腱鞘炎の主な原因は、腱や腱鞘にかかる過剰な負担です。手や指を頻繁に使用する仕事や趣味が原因となることが多く、特にパソコン作業、楽器演奏、料理、園芸などが挙げられます。また、繰り返しの動作によって腱鞘が肥厚し、腱の滑りが妨げられることで炎症が生じます。
加齢も要因の一つで、中高年層では、腱や腱鞘の変性が進行しやすく、狭窄性腱鞘炎の発症リスクが高まります。また、妊娠中や産後の女性は、ホルモン変化や浮腫(むくみ)によって腱鞘炎を発症しやすいとされています。特に初産の女性や体重増加がある場合にリスクが高いです。
糖尿病や関節リウマチなどの基礎疾患がある場合、腱鞘炎のリスクが高まることが知られています。これらの要因を複合的に理解し、日常生活の中で適切に手を休めることが予防の第一歩となります。狭窄性腱鞘炎の原因は、個々の患者さんの生活習慣や身体的特徴に依存するため、適切な診断と治療が重要です。
狭窄性腱鞘炎の前兆や初期症状について
狭窄性腱鞘炎の主な症状は、手指の付け根や手首における痛みや腫れです。この痛みは、指を動かす際に特に顕著になり、動作のたびに違和感を伴います。最初の段階では軽い不快感程度ですが、放置すると症状が進行し、日常生活に支障をきたすことがあります。
初期症状として、指を動かすときに「カクン」と引っかかるような感覚です。この現象は俗に「ばね指」と呼ばれ、腱が腱鞘内でスムーズに滑らないために起こります。特に朝起きたときや長時間手を使った後にこわばりが感じられることが多く、指を動かすのが困難になる場合もあります。
炎症がひどくなると、触れるだけでも痛みを感じる場合があり、指や手首の腫れが目に見えることもあり注意が必要です。さらに、炎症が慢性化すると、腱鞘が硬くなり、指の動きに大きな制限が生じることもあります。この状態では、ペンを持つ、タイピングをする、ドアノブを回すといった日常的な動作が難しくなる可能性があります。
狭窄性腱鞘炎の症状は、放置すればするほど悪化する傾向です。そのため、違和感や軽度の症状を感じた時点で早めに対処することが重要です。これらの症状を感じた場合は、早めに整形外科を受診しましょう。早期に医師の診断を受けることで、症状の悪化を防ぎ、適切な治療に繋げることができます。
狭窄性腱鞘炎の検査・診断
狭窄性腱鞘炎の検査・診断は、まず問診と触診で確認します。具体的には、指や手首のどの部分に痛みがあるのか、どのような動作で症状が現れるのか、症状がいつから始まったのかなどです。また、仕事や趣味で手を多用するかどうか、過去に似たような症状があったかも確認します。
触診では、痛みや腫れの部位を確認し、腱や腱鞘の状態を直接評価します。指を曲げたり伸ばしたりする際に引っかかる感じや動作制限が見られる場合、これは「ばね指」と呼ばれる典型的な症状であり、診断の重要な手がかりです。また、腱の動きに伴う痛みや腫れがある場合、これも診断に役立ちます。
さらに詳しい診断が必要な場合、画像診断が行われることがあります。超音波検査は、腱や腱鞘の状態をリアルタイムで確認できるため効果的です。炎症や腱鞘の狭窄を可視化でき、腱が腱鞘内でどのように動いているかも評価できます。MRI検査は、より詳細な画像が必要な場合に用いられ、ほかの疾患との鑑別診断にも役立ちます。
これらの検査を総合的に行うことで、狭窄性腱鞘炎の確定診断が下されます。また、基礎疾患として糖尿病や関節リウマチが関連している場合もあるため、必要に応じて血液検査が追加されることもあります。正確な診断を受けることで、患者さんに適した治療計画を立てることが可能です。
狭窄性腱鞘炎の治療
狭窄性腱鞘炎の治療は、症状の重さや進行度に応じて段階的に行われます。軽度の症状であれば、患部を休めることが最優先です。日常生活で手や指にかかる負担を減らし、サポーターやテーピングを使用して腱鞘の動きを制限することで、炎症の悪化を防ぎます。また、冷やすことで痛みや腫れを軽減することが可能です。医師の指示に基づき、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を内服したり、湿布を使ったりすることも炎症緩和に効果があります。
中等度以上の症状では、ステロイド注射が用いられることがあり、これにより炎症を迅速に抑えることが期待されます。ステロイド注射は、炎症を迅速に抑えるための有効な方法です。注射後数日以内に痛みが軽減し、腱の動きがスムーズになることが多いですが、効果が一時的である場合が多いです。
重症化した場合や保存療法が効果を示さない場合、外科的手術を検討します。手術では、狭くなった腱鞘を切開し、腱が自由に動けるスペースを確保します。この手術は比較的簡単なもので、日帰りで行える場合もありますが、術後は一定期間のリハビリが必要です。リハビリにより手指の機能を回復させ、再発を防ぐために適切なケアを行うことが重要です。
狭窄性腱鞘炎になりやすい人・予防の方法
窄性腱鞘炎は、特定の条件に当てはまる人が特に発症しやすい傾向です。まず、手や指を頻繁に使う職業の人はリスクが高まります。たとえば、デスクワークでパソコンを多用する人、調理師や美容師のように手作業が多い仕事に従事する人、またはピアノやギターといった楽器演奏を趣味とする人が挙げられます。
また、家事や育児で手を酷使する主婦や、ホルモンバランスの変化がある妊産婦も発症リスクが高いとされています。糖尿病や関節リウマチなどの慢性疾患を抱える人や、高齢で腱や腱鞘の柔軟性が低下している人も注意が必要です。
予防のためには、日常生活で手や指に過度な負担をかけないことが重要です。長時間の作業や繰り返し動作を避けるよう心がけ、作業中にこまめな休憩を取ることを習慣化しましょう。また、手首や指を柔軟に保つためのストレッチを行うことが効果的です。さらに、腱や腱鞘を保護するために、作業時にサポーターやテーピングを使用するのも予防策としておすすめです。
初期症状である手指の痛みや違和感を感じた際は、無理をせずに手を休ませ、必要に応じて整形外科を受診することが大切です。早期の対応で症状の悪化を防ぎましょう。
関連する病気
- デュピュイトラン拘縮
- 腱鞘炎
参考文献
- Physiotherapy Counseling for Trigger Finger Cases in the Posyandu Community in Rampal Celaket, Malang City
- Trigger Digits: Diagnosis and Treatment
- Symptoms, Diagnosis, and Treatments of Stenosing Tenosynovitis
- Conservative Management of de Quervain Stenosing Tenosynovitis: Review and Presentation of Treatment Algorithm