

監修医師:
井林雄太(井林眼科・内科クリニック/福岡ハートネット病院)
大腿骨骨幹部骨折の概要
大腿骨骨幹部骨折とは、大腿骨(太ももの長い骨)の骨幹部(両端を除いた中央部分)を骨折する重大な外傷です。
大腿骨は人体で最も強く長い骨の一つで、大きな力に耐えることができます。しかし、自動車事故、高所からの転落、激しいスポーツによる外傷など、極端な負荷が加わると骨折する可能性があります。
大腿骨骨幹部骨折の原因
大腿骨骨幹部骨折は高エネルギーの衝撃による受傷が典型的ですが、高齢者の症例も増えています。一般的な原因として以下が挙げられます。
1. 交通事故
自動車、オートバイ、自転車などの衝突事故は、大腿骨骨幹部骨折の主な原因のひとつです。事故時の強い衝撃により骨が折れることがあります。
2. 高所からの転落
はしごからの落下やスポーツ中の高所からの転倒など、大腿骨に重大な外傷を与える場合があります。
3. 直接的な打撃
サッカーやラグビーなどのコンタクトスポーツや、身体的な衝突で太ももに強い衝撃を受けた場合、骨折することがあります。
4. 骨粗しょう症
高齢者や骨が弱くなっている人では、わずかな転倒や外傷でも骨幹部骨折を引き起こすことがあります。
5. 病的骨折
腫瘍や感染症に伴う炎症で骨構造が弱くなることで、軽微な外力でも骨折が発生する場合があります。
これらの原因を理解することで、予防策を講じたり、骨折のリスクを認識したりすることができます。
大腿骨骨幹部骨折の前兆や初期症状について
大腿骨骨幹部骨折は大きな事故などでの受傷が多いため通常は救急科を受診しますが、それ以外では整形外科を受診することが一般的です。一般的な症状は以下の通りです。
1. 激しい痛み
外傷直後から太ももに強い痛みを感じます。
2. 体重をかけられない
痛みと不安定感のため、骨折した足に体重をかけることができず歩行もできません。
3. 腫れとあざ
骨折部位の周囲に腫れやあざ(内出血)が生じます。
4. 変形
他方の脚と比べて変形したり短く見えたり、不自然な角度に曲がったりすることがあります。
5. しびれやチクチク感
神経の損傷を伴う場合は太もも、ふくらはぎ、足首、または足にしびれやチクチクした感覚を訴えることがあります。
6. 骨片の露出(開放骨折の場合)
骨が皮膚を突き破って露出し、著しい出血を伴うことがあります。
7. ショック症状
重症の場合、出血によるショック症状(心拍数の上昇、皮膚の蒼白、脱力感、混乱など)が見られることもあります。
外傷後にこれらの症状がある場合は、直ちに医療機関での評価と治療を受けることが重要です。
大腿骨骨幹部骨折の検査・診断
大腿骨骨幹部骨折の診断は、以下の手順で行います。
1. 病歴の確認
負傷の状況や治療に影響する可能性がある過去の健康状態について詳しく聞き取りを行います。
2. 身体検査
医師は、腫れ、あざ、変形、圧痛の有無を確認するために受傷した脚を診察します。また、開放創の有無をチェックし、鼠径部や足首の脈拍を触診して循環状態を評価します。
3. 画像診断
X線検査
大腿骨骨幹部骨折の診断に最も一般的に使用される検査です。X線は骨の構造を明確に示し、骨折の有無を判断します。
CTスキャンやMRI
損傷が複雑な場合や軟部組織の損傷を評価する必要がある場合、コンピュータ断層撮影(CT)や磁気共鳴画像法(MRI)が使用されます。
関連する損傷の追加検査
股関節や膝など、ほかの部位の損傷が疑われる場合、画像検査を追加することがあります。
4. 合併症の評価
医師は、出血(出血性ショック)や大腿骨周囲の神経や血管の損傷といった合併症の可能性を評価します。
迅速な診断が重要です。適切に治療されない骨折は、変形治癒(不正癒合)、非癒合(治癒不全)、慢性的な痛みの問題を引き起こす可能性があります。
大腿骨骨幹部骨折の治療
大腿骨骨幹部骨折の治療法は、患者さんの年齢、健康状態、骨折の種類、関連する負傷の有無などの要因によって異なります。
外科的治療
ほとんどの大腿骨骨幹部骨折は複雑なため、外科的処置が必要です。
1. 髄内釘固定術(IMN)
成人の大腿骨骨幹部骨折に最も一般的な手術法です。金属製の釘を骨髄腔に挿入し、小さな切開を通じて骨を安定化させ、早期の運動を可能にします。
2. 観血的整復内固定術(ORIF)
髄内釘固定術だけでは整列を達成できない場合、骨を外科的に整復させ、プレートやスクリューを使用して外部に固定します。
3. 外固定
開放骨折に伴う重度の軟部組織損傷がある場合、一時的に外固定装置を使用し、腫れが軽減してから最終的な外科的修復を行うことがあります。
4. リハビリプログラム
手術後のリハビリテーションは、筋力、可動性、機能を回復させるために重要な役割を果たします。
術後の経過観察には、整形外科医との定期的な診察が含まれ、X線で治癒の進行を確認し、回復中に発生する可能性のある合併症を評価します。
非外科的治療
骨が正しい位置を維持できる安定した骨折の場合、非外科的治療が考慮されることもあります。
1. ギプスや副子による固定
特に子供に見られる軽度の骨折に限定されますが、手術せずギプスや副木による固定で治癒可能な場合もあります。
2. 痛みの管理
回復中の疼痛を管理するために、イブプロフェンやアセトアミノフェンのような鎮痛薬が処方されます。
大腿骨骨幹部骨折になりやすい人・予防の方法
大腿骨骨幹部骨折を経験するリスクが高いのは以下のようなグループとされています。
1. 高リスク活動を行う若年成人
高衝撃のコンタクトスポーツ(フットボール、ホッケー)や、保護具なしでのオートバイ運転などのリスク行動に頻繁に従事する人々は、外傷にさらされる機会が多く、リスクが高くなります。
2. 骨粗しょう症を持つ高齢者
加齢とともに骨は自然に弱くなり、骨粗しょう症の影響を受けた人々は、軽微な転倒でも重大な負傷(大腿骨骨幹部骨折)を引き起こす可能性があります。
3. 骨の健康に影響を与える既存の疾患を持つ人々
骨の強度を弱める疾患(骨に影響を与えるがんなど)は、通常よりも軽い力でも骨折が発生する可能性を高めます。
大腿骨骨幹部骨折を予防する方法
大腿骨骨幹部骨折の多くは事故で起こります。外的要因を完全に防ぐことはできませんが、いくつかの対策を講じることでリスクを減らすことが可能です。
1. 活動中の安全対策
- 車両運転中は常にシートベルトを着用する。
- スポーツを行う際には、適切な防護具(例:フットボール用パッド、ヘルメット)を使用する。
- バイクやオートバイを利用する際は、ヘルメットやプロテクターを必ず着用する。
- 高所作業中は、安全ハーネスやガードレールを使用し、落下防止に努める。
2. 家庭での安全環境の整備
- 室内からつまずきやすい物(例:散らかった電源コード、敷物)を除去する。
- 浴室には手すりを設置し、階段にはしっかりとした手すりを取り付ける。
- 家庭用階段や床は滑りにくい素材を使用する。
3. 骨の健康維持
- 重量負荷運動(例:ウォーキング、ランニング)を定期的に行い、骨の強度を維持する。
- 食事から十分なカルシウムとビタミンDを摂取する。必要に応じてサプリメントを利用する。
- 禁煙し、アルコールの摂取を適度に抑えることで骨密度を保つ。
4. 定期的な健康診断
- 高齢者は骨粗しょう症のスクリーニング検査を受け、早期に適切な治療を開始する。
- 骨に影響を及ぼす疾患を持つ人々は、専門医の指導を受け、骨の健康状態を常にモニターする。
このように、大腿骨骨幹部骨折は重篤なけがではありますが、リスクを理解し、予防策を講じることでその発生率を大幅に減少させることができます。特にスポーツ愛好者や高齢者のようなリスクが高いグループでは、安全意識を高めることで、より良い生活の質を維持することが可能です。
関連する病気
- 骨粗鬆症
- 転倒症候群
- 骨盤骨折