軟骨肉腫
西田 陽登

監修医師
西田 陽登(医師)

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大分大学医学部卒業。大分大学医学部附属病院にて初期研修終了後、病理診断の研鑽を始めると同時に病理の大学院へ進学。全身・全臓器の診断を行う傍ら、皮膚腫瘍についての研究で医学博士を取得。国内外での学会発表や論文作成を積極的に行い、大学での学生指導にも力を入れている。近年は腫瘍発生や腫瘍微小環境の分子病理メカニズムについての研究を行いながら、様々な臨床科の先生とのカンファレンスも行っている。診療科目は病理診断科、皮膚科、遺伝性疾患、腫瘍全般、一般内科。日本病理学会 病理専門医・指導医、分子病理専門医、評議員、日本臨床細胞学会細胞専門医、指導医。

軟骨肉腫の概要

軟骨肉腫は、軟骨を形成する細胞から発生する悪性腫瘍の一種です。
主に中年から高齢者に発生し、骨に発生する悪性腫瘍の中で2番目に多いとされています。この腫瘍は、通常では軟骨を作る細胞が悪性化して異常増殖することによって生じます。軟骨肉腫は骨の中でも骨盤、大腿骨や上腕骨、肋骨、肩甲骨によく発生します。

軟骨肉腫の原因

軟骨肉腫の原因は完全には解明されていませんが、以下の要因が関与している可能性があります。

1. 遺伝的要因

遺伝子変異が軟骨肉腫の発生に関与することが示されています。一部の症例では、遺伝性疾患である多発性骨軟骨腫症や軟骨腫症が背景にあることがあります。

a. IDH1/IDH2(イソクエン酸デヒドロゲナーゼ)遺伝子変異
IDH1/IDH2遺伝子変異は、軟骨肉腫の40~50%の症例で確認されています。これらの変異遺伝子は細胞内で代謝産物を異常に増加させ、腫瘍形成に寄与します。現在、この代謝異常をターゲットにした治療法が開発が進められています。

b. COL2A1遺伝子変異
COL2A1はII型コラーゲンをコードする遺伝子で、軟骨形成に重要です。軟骨肉腫ではこの遺伝子に変異が起こり、正常な軟骨細胞の形成が妨げられます。

c. 腫瘍抑制遺伝子の異常
p53遺伝子: 腫瘍抑制遺伝子p53の変異が一部の軟骨肉腫で見られます。p53変異は細胞周期の制御異常を引き起こし、悪性化を助長します。

d. 既存の良性腫瘍の悪性化
良性の軟骨形成腫瘍である軟骨腫や骨軟骨腫が悪性化して二次性軟骨肉腫を形成することがあります。
多発性骨軟骨腫症
概要:骨の表面に発生する骨軟骨腫が多数する疾患です。常染色体優性遺伝であり、EXT1/2遺伝子の変異が原因と言われています。1~2%の患者さんで既存の骨軟骨腫が悪性化して軟骨肉腫を発症します。骨盤や肩甲骨などの大きな骨に発生することが多く、軟骨肉腫に進展した場合は浸潤性が高いと言われています。
軟骨腫症
概要:良性の軟骨腫瘍である軟骨腫が骨に多発する疾患です。代表的な疾患にオリファント症候群とマフッチ症候群があります。その軟骨腫が悪性化して二次性軟骨肉腫になるリスクが高いとされています。軟骨肉腫の発症リスクは通常より高く、発症部位は骨盤や長管骨が多いと言われています。

2. 外傷や慢性的な刺激

明確な因果関係は不明ですが、長期間にわたる骨の刺激や損傷が関連する場合があります。

3. 放射線被曝

過去の放射線治療が原因で、放射線誘発性の軟骨肉腫が発生することがあります。多くは放射線照射後10~20年で発症します。通常より悪性度が高く、進行が速いと言われています。

軟骨肉腫の前兆や初期症状について

軟骨肉腫の症状は発生部位や腫瘍の大きさにより異なりますが、初期段階では多くが軽微な症状です。以下に主な症状を挙げます。
局所的な痛み
初期段階では軽い鈍痛があり、腫瘍の進行とともに痛みが強くなります。
夜間に痛みが増すことが特徴的です。
腫れやしこり
骨表面の腫れやしこりとして触知される場合があります。腫瘍が大きくなると、表面の皮膚が赤く腫れることもあります。
運動障害
腫瘍が関節近くにある場合、関節の動きが制限されることがあります。
神経圧迫症状
骨盤や脊椎周囲で腫瘍が神経を圧迫すると、しびれや麻痺を引き起こすことがあります。
骨折
腫瘍が骨を弱くするため、軽い外傷でも骨折(病的骨折)を起こす場合があります。

軟骨肉腫の検査・診断

軟骨肉腫の診断には、臨床所見、画像検査、病理検査を組み合わせることが重要です。

1. 問診・身体診察
症状の発現時期、痛みの性質、しこりの有無を確認します。

2. 画像検査
軟骨肉腫の特性を把握するために以下の検査が行われます。
X線検査
骨の中に「石灰化」や「骨が溶けたような像」が見られることがあります。
CT(コンピュータ断層撮影)
腫瘍の石灰化パターンや骨の変形を詳細に評価します。
MRI(磁気共鳴画像法)
腫瘍の性状や腫瘍の周囲組織への浸潤範囲を確認します。軟部組織への浸潤や神経圧迫の有無も評価可能です。
骨シンチグラフィー
骨全体を評価し、多発性病変や転移の有無を調べます。

3. 病理検査
腫瘍の確定診断には、腫瘍組織の生検(組織の採取)が必要です。
組織学的特徴:腫瘍細胞が軟骨を形成している像が確認されます。高悪性度の場合、細胞密度が高く、核異型や核分裂像が多くみられます。腫瘍の進行速度や転移のリスクに関連して、以下のように分類されます。

低悪性度(Grade 1)
増殖が遅く、転移しにくい。
中悪性度(Grade 2)
増殖速度が中程度。
高悪性度(Grade 3)
急速に進行し、転移リスクが高い。

軟骨肉腫の治療

軟骨肉腫の治療は、腫瘍の悪性度(Grade)、サイズ、発生部位、転移の有無、患者さんの全身状態などに基づき、個別に計画されます。軟骨肉腫の治療の主軸は外科的切除であり、放射線治療や化学療法は補助的役割を果たします。以下に治療法を詳細に解説します。

1. 外科的切除

軟骨肉腫の治療において最も重要かつ基本的な方法です。

広範囲切除

腫瘍とその周囲の正常組織を十分な範囲で切除します。腫瘍が完全に摘出されることが治療成功へと繋がります。
適応
低悪性度(Grade 1)の場合は、切除後の再発率が低いため広範囲切除で十分とされていますが、中~高悪性度(Grade 2~3)では、より広範囲な切除が必要です。
患肢温存術
四肢の腫瘍で、腫瘍周囲の正常組織を残しつつ腫瘍を切除します。
適応
患肢の機能を保つ手術です。腫瘍が小さい場合や機能の保存を目的とする場合に行われます。

患肢切断術

概要
腫瘍が広範囲に及び、温存手術では完全切除が困難な場合に選択されます。
適応
高悪性度の腫瘍や、周囲の主要な血管・神経への浸潤が著しい場合に考慮されます。神経や血管が侵されている場合、温存が困難で患肢切断術が検討されることもあります。

2. 放射線治療

軟骨肉腫は一般的に放射線感受性が低いため、単独での治療効果は限定的です。ただし、一部の症例では補助的に使用されます。
外部放射線治療
高精度放射線治療(IMRT)や定位放射線治療(SBRT)が使用されます。
炭素イオン線治療:軟骨肉腫のように放射線抵抗性の腫瘍に対して有効とされています。日本を含む特定の施設で行われており、今後の治療法として注目されています。
適応
手術が不可能な場合、手術後の局所再発予防、特殊型の軟骨肉腫(例: 中枢型軟骨肉腫)に対する治療、痛みを軽減する目的の緩和的治療として行われます。

3. 化学療法

軟骨肉腫の大部分は化学療法への感受性が低いため、化学療法は治療の主軸ではありません。ただし、高悪性度(Grade 3)の軟骨肉腫、遠隔転移(肺や肝臓など)が認められる場合、特殊型(脱分化型軟骨肉腫など)の場合に化学療法が検討されます。

軟骨肉腫になりやすい人・予防の方法

なりやすい人

遺伝的要因
多発性骨軟骨腫症や軟骨腫症などの遺伝性疾患を持つ人では慎重な経過観察が重要です。
また、既存の骨病変として軟骨腫や骨軟骨腫を持つ人や、過去の放射線治療歴のある人、骨や軟部組織に放射線治療を受けたことがある人も注意が必要です。

予防の方法

完全に防ぐことは難しいものの、以下の点に注意することで早期発見やリスク軽減が可能です。
定期検診
骨腫瘍の既往がある場合、定期的な画像検査を行い、悪性化の兆候を早期に発見します。
早期対応
骨の痛みや腫れを軽視せず、早めに専門医を受診しましょう。


関連する病気

  • 多発性骨軟骨症
  • Paget病
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