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踵骨骨折
岡田 智彰

監修医師
岡田 智彰(医師)

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昭和大学医学部卒業。昭和大学医学整形外科学講座入局。救急外傷からプロアスリート診療まで研鑽を積む。2020年より現職。日本専門医機構認定整形外科専門医、日本整形外科学会認定整形外科指導医、日本整形外科学会認定スポーツ医、日本整形外科学会認定リハビリテーション医、日本整形外科学会認定リウマチ医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター。

踵骨骨折の概要

「踵骨(しょうこつ)」はかかとにある大きな骨の正式名称で、踵骨骨折はこの骨に骨折が生じることを指します。かかとの骨は歩いたり、走ったり、ジャンプしたりする際に体重を支える役割を果たしており、健康な状態を保つことが移動能力にとって重要です。そのため、この骨折は適切に診断・治療しないと、長期間にわたり後遺症が残る可能性があります。踵骨骨折は稀であり、成人の骨折全体で約1~2%の頻度です。この骨折は高所からの落下や交通事故など高いエネルギーが加わることで起こることが多いのが特徴です。したがって、踵骨骨折があったらほかの部位にも骨折や損傷が見つかる可能性があります。骨折の状態は単純なひび割れから、手術が必要なほど粉々になる場合までさまざまです。

この骨折は慢性的な痛みや不快感、関節炎などの後遺症を引き起こす可能性もあります。そのため、原因や症状、診断方法、治療法を理解することが大切です。

踵骨骨折の原因

踵骨骨折は、主に強い衝撃によって引き起こされます。以下に一般的な原因を挙げます。

  • 高所からの落下
    高所(例:はしごや屋根など)から足で着地することで、かかとの骨に大きな力が加わります。この力が足首の骨(距骨:きょこつ)を踵骨に押し込み、骨折を引き起こします。
  • 交通事故
    自動車事故では、衝突時に足を床に強く押し付けた際、かかとの骨に過度な負担がかかり、骨折することがあります。
  • スポーツによる怪我
    ジャンプや急な方向転換が必要なスポーツでは、着地の失敗や足首の捻挫によってかかとの骨折が発生することがあります。
  • 軽度の衝撃による骨折
    稀ですが、足をひねった際に骨が小さく欠ける「剥離骨折(はくりこっせつ)」が起きることがあります。この場合、関節面に影響しないことが多いですが、痛みを伴います。

骨折の程度は、加わる力の大きさに左右されます。例えば、軽いひねりであればひび割れにとどまることがありますが、大きな衝撃では骨が粉々になることもあります。

踵骨骨折の前兆や初期症状について

早期に骨折を発見し、治療するためには、以下のような症状に気付くことが重要です。

  • 激しい痛み
    最初に感じるのは鋭い痛みで、動かしたり圧力をかけたりすると悪化することがあります。
  • 腫れ
    骨折部分に炎症や出血が生じ、かかとが大きく腫れることがあります。
  • 内出血(あざ)
    皮膚の下で血管が切れるため、かかとの周囲に変色が見られることがあります。足の裏に現れる血腫は Mondor sign と呼ばれ、踵骨骨折に特徴的とされています。
  • 体重を支えられない
    足に体重をかけるのが難しくなり、激しい痛みを伴うことが多いです。
  • 水ぶくれ
    重度の腫れによって、皮膚に水ぶくれができることもあります。

これらの症状は骨折の重症度によって異なります。けがの後にこれらの症状をいくつか感じた場合は、速やかに整形外科または救急科を受診することが重要です。

踵骨骨折の検査・診断

かかとの骨折を正確に診断し、適切な治療を行うために、以下のような検査が行われます。

  • 視診と触診
    医師が足や足首を調べ、腫れや圧痛、変形、内出血の有無を確認します。
  • 画像検査
  • レントゲン
    骨折の位置や骨のズレを確認するための基本的な検査です。粉砕骨折のように明らかな場合もありますが、ヒビが入ってもズレが小さいとハッキリ映らない場合もあります。このような場合、踵骨の頂点を利用した Böhler角 という角度を計測すると骨折が見つかりやすくなります。
  • CTスキャン
    複雑な骨折や関節への影響を詳しく調べる際に用いられることがあります。
  • MRIや骨スキャン
    繰り返しの負荷で起きる「疲労骨折」が疑われる場合に実施されることがあります。

適切な診断を受けないままでいると、慢性的な痛みや関節炎といった後遺症が残る場合があります。

踵骨骨折の治療

治療方法は骨折のタイプや重症度、患者さんの健康状態によって異なります。

手術を必要としない治療

骨がずれていない場合(非転位骨折)は通常、次のような方法で治療します。

  • 安静と足の挙上
    足を心臓より高い位置に保つことで腫れを抑えます。
  • 固定具の使用
    ギプスブーツを装着して足を動かさないようにし、治癒を促します。
  • 冷却療法
    氷を使って痛みや腫れを軽減します(1回20分を目安に)。
  • 痛み止め
    市販の鎮痛剤(例:イブプロフェンアセトアミノフェン)が推奨されることがあります。

踵骨の周辺にかなり強い腫れが起こること、場合によって組織の内圧が高くなりすぎて血流が保てなくなるコンパートメント症候群を起こす可能性もあることを説明して、その兆候が疑われたら再診するよう伝えます。また、受傷から数週間は患部に体重をかけないよう指示されます。なお、両側の踵骨骨折の場合は入院が必要です。

手術による治療

骨がずれている場合(転位骨折)や関節が影響を受けている場合は、手術が必要になることがあります。これは症例ごとに整形外科専門医が判断します。

  • 金属固定具の使用
    プレートやネジを使って骨を正しい位置に戻し、安定させます。
  • 骨移植
    骨片同士の隙間を埋めるために移植が行われることもあります。

手術後は、保護ブーツを装着したり、理学療法を受けたりして、徐々に体重をかける練習を始めます。回復には数カ月かかる場合があります。

踵骨骨折になりやすい人・予防の方法

次のような人々は、踵骨骨折のリスクが高まります。

  • 高齢者
    骨密度の低下により骨折しやすくなります。
  • スポーツをする人
    高い衝撃を伴うスポーツを行う人は、繰り返し足に負担がかかるため、骨折リスクが上がります。

踵骨骨折の予防

  • 筋力トレーニング
    足の筋力を鍛えることでバランス感覚を向上させ、転倒を防ぎます。
  • 適切な靴の着用
    クッション性の高い靴を履くことで、足への衝撃を和らげます。
  • 危険な活動の回避
    高所作業や激しいスポーツでは安全対策を徹底します。
  • 骨の健康管理
    カルシウムやビタミンDを十分に摂取し、骨の強度を保ちましょう。
  • 安全な環境作り
    家庭内の転倒リスクを減らすため、床の障害物を取り除きます。

関連する病気

  • 足関節疾患
  • 足底筋膜炎

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