上腕骨外顆骨折

監修医師：
井林雄太（井林眼科・内科クリニック/福岡ハートネット病院）

上腕骨外顆骨折の概要

上腕骨外顆骨折とは、上腕骨の下部外側にある上腕骨外顆とよばれる骨の骨折を指します。上腕骨外顆にはさまざまな筋肉が付着し、腕や指の動きを左右する重要な部分です。また、上腕骨外顆骨折は子どもに多い骨折であり、治療法を誤ると骨の成長に影響する可能性があります。

上腕骨外顆とは

上腕骨外顆は肘の外側にある骨が隆起した部分です。上腕骨外顆には、手首や指を伸ばすさまざまな筋肉が付着しています。上腕骨外顆骨折が起こると、折れた骨がこれらの筋肉に引っ張られ90度以上回転し、骨がずれてしまう特徴があります。

上腕骨外顆骨折の発生頻度

上腕骨外顆骨折は子どもにみられやすい骨折です。子どもの肘関節に関連する骨折のなかで、上腕骨顆上骨折に次いで頻度が高いとされています。4〜10歳の間での発症頻度が高く、ほとんどが男児に多い骨折です。発症初期の段階で治療方法を誤ると、偽関節とよばれる骨が癒合しない状態になることも少なくありません。

上腕骨外顆骨折の原因

上腕骨外顆骨折は子どもの遊びやスポーツ中の転倒転落で起こりやすい骨折です。具体的には以下のような原因で起こり得ます。

遊びやスポーツでの転倒

上腕骨外顆骨折は子どもに多い骨折であり、遊びやスポーツが原因で起こりやすいとされています。遊びやスポーツ中に転倒した際に、親指が外側に向いた状態で腕を伸ばして手をついてしまうことで上腕骨外顆に外力が加わり、骨折が起こります。上腕骨外顆骨折の原因で80％をしめているのが、転倒や転落による軽微な外力によるものです。

骨端線への外力

子どもには上腕骨の先端に骨端線と呼ばれる軟骨組織があります。骨端線は成長線とも呼ばれており、骨の成長に必要な役割を果たす場所です。具体的には軟骨組織が骨に置き換わることで骨が長軸方向に伸びていきます。骨端線は成人になるにつれ徐々に薄くなり、完全に消えてしまいます。また、骨端線は軟骨でできているため、強度が弱く損傷しやすい場所です。そのため、外力が加わると骨に比べ骨折しやすいとされています。

上腕骨外顆骨折の前兆や初期症状について

上腕骨外顆骨折は、特に転倒や転落など外的な衝撃によって発生することが多い骨折です。最初に現れる症状としては、以下のような痛みや腫れ、可動域の制限があります。症状を具体的に見ていきましょう。

痛みや腫れ

上腕骨外顆骨折の代表的な症状は痛みや腫れです。上腕骨外顆部に一致した強い痛みと、肘関節周囲に腫れを生じます。皮下出血を伴うこともありますが、あまり腫れない場合も少なくないため症状の見過ごしに注意が必要です。腕を動かすと痛みが強くなるため、幼児の場合、痛がって動かそうとしないケースが多いです。骨折部を触ると、圧痛や骨片の動きがわかることもあります。

動かしにくさや可動域の制限

動かしにくさから起こる運動制限や、動かせる範囲の可動域制限が起こります。痛みにより肘を曲げたり伸ばしたりする動きが制限されるため、腕の力を抜いた状態で保持することが特徴としてみられます。

受診できる診療科

上腕骨外顆骨折の診療科は、症状の進行具合や発生時の状況によって異なりますが、まずは整形外科または小児科を受診しましょう。また、必要に応じてリハビリテーション科などのほかの科と連携しながら、適切な治療を受けることが大切です。子どもは受傷時の状況を医師にうまく話せない可能性があるため、保護者が受傷時の状況を子どもから確認し、必要な情報を医師に伝えましょう。

上腕骨外顆骨折の検査・診断

上腕骨外顆骨折が疑われる場合、X線や超音波検査などを行い骨折の状態や損傷の程度、ほかの疾患との鑑別を行います。具体的には次の通りです。

X線検査

X線検査は上腕骨外顆骨折の診断でとても重要な検査方法です。複数の方向からX線撮影を行い、どの部位に骨折が生じているかを確認します。また、X線検査を通してどの程度骨がずれているかを確認することも可能です。X線検査では上腕骨小頭骨端核の位置や回旋を注意深く観察する必要があります。
また多くの場合折れた骨が90度以上回転し、上腕骨の骨折面に対して、関節軟骨面が向かい合っているケースがみられます。

超音波検査

肘内障（ちゅうないしょう）が疑われる場合には、X線検査に加え超音波検査も実施します。小児肘内障とは、腕の前腕にある橈骨頭（とうこっとう）が、橈骨頭を取り巻いている輪状靱帯（りんじょうじんたい）からずれてしまったことで起こる亜脱臼の状態です。俗に肘抜けとも言われます。小児肘内障も子どもに起こりやすい肘の怪我であるため、鑑別目的に超音波検査を実施します。

上腕骨外顆骨折の治療

上腕骨外顆骨折は骨癒合が悪い場所であるため、ギプス固定療法を治療として検討しますが、ずれが少しの場合でも手術が必要になることもあります。早期の適切な治療が予後に影響するため、整形外科医による慎重な評価と治療方針の決定が必要です。

ギプス固定療法

骨折部のずれが2mm以下で安定している場合は、ギプス固定療法が適応されます。約4〜6週間のギプス固定で骨癒合が得られやすいと考えられています。固定中は固定部にかゆみが出る可能性があり、管理には保護者の協力が不可欠です。また、経過中に骨癒合が得にくいと判断した場合には、手術療法を進めるケースもあります。

手術

骨折部のずれが大きい場合や、不安定な場合には手術を選択します。観血的整復固定術という、皮膚を切開して骨のずれを治し、金属のピンやワイヤー、プレートなどを用いて骨を固定する手術が一般的です。術後は肘関節を軽度曲げた状態で約3週間ほど三角巾で固定します。

合併症

初期の不適切な治療により骨がうまく癒合できない偽関節や、偽関節が原因で外反肘、遅発性尺骨神経麻痺などの合併症を発生することも少なくありません。
外反肘とは肘が極端に外側に曲がった状態を指します。肘を真っ直ぐ伸ばした際、正常では5〜15度程度外側にくの字になっているのが一般的です。外反肘は肘の角度が20度以上外側に曲がっている状態を指します。

外反の程度が強い場合、遅発性尺骨神経麻痺を生じることがあります。遅発性尺骨神経麻痺は、尺骨神経が徐々に麻痺し、手の小指側にしびれを感じる合併症です。尺骨神経が支配する手の小指側の感覚や、小指や薬指の動きが制限されるといった症状がみられます。
これらの合併症により、日常生活のあらゆる場面で支障をきたす可能性が高いため、早期の適切な治療を選択することはとても重要です。

上腕骨外顆骨折になりやすい人・予防の方法

上腕骨外顆骨折は子どもにみられやすく、転倒転落が主な原因となります。上腕骨外顆骨折になりやすい人と予防法については以下の通りです。

上腕骨外顆骨折になりやすい人

上腕骨外顆骨折は子どもに多い骨折であり、4〜10歳の年齢層に多いとされています。また、転倒転落が原因で起こるため、活発に遊ぶ子どもや、転倒転落のリスクが高いスポーツを行っている子どもは要注意です。

予防法

子どもに起こりやすい骨折であるため、保護者が注意を払うことで骨折を予防できるでしょう。高所での遊びは禁止することや、遊具の周りにはクッション性の高いものを敷くなど、危険なく遊べる環境を確保してあげることが大切です。
また、滑りにくく足のサイズに合った靴を履かせることや、つまずきの原因となるものを取り除き整理整頓を心がけることなど、少しの工夫が予防につながるはずです。
子どもの活動を過度に制限するのではなく、親がしっかりと見守りながら子どもが怪我なく遊べる環境を整えましょう。