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監修医師:
井林雄太(井林眼科・内科クリニック/福岡ハートネット病院)
目次 -INDEX-
股関節炎の概要
単純性股関節炎は、特に小児に多く見られる急性の股関節の炎症性疾患です。この疾患の発症年齢は3〜10歳程度・好発年齢は5〜7歳程度といわれています。医師からは「股関節の風邪」とも表現されることがあります。発症する股関節に左右差はなく、性別では男児が多い傾向です。外傷・アレルギー・風邪などの感染後、あるいは原因がみられない場合に、片方の股関節を痛がるのが特徴です。痛みに関しては、最初は軽度の痛みとして始まることもありますが、数日すると痛みなどの症状が悪化する場合があります。症状が強い場合は、股関節に生じる強い痛みで、股関節の動きが制限され、歩きにくくなる場合もあるため注意が必要です。
単純性股関節炎は、通常1〜2週間程度で症状が改善し、回復することが多いですが、1ヶ月近く長引くだけでなく、稀に再発する場合もあります。全体的に予後は良好なため、適切な治療を行うことが重要です。
股関節炎の原因
単純性股関節炎の原因は、以下のように考えられていますが、明確な原因はいまだ解明されていません。
ウイルス感染による免疫反応
風邪や上気道感染症などのウイルス感染が引き金となって、体の免疫反応が活性化される影響で、股関節に炎症を引き起こすと考えられています。つまり、ウイルスが直接的に股関節を感染させるわけではなく、あくまで免疫反応の一部として股関節周辺に炎症が発生するという考え方になります。
アレルギー反応
免疫システムにおいて、自分の体の一部を誤って攻撃してしまうことで炎症が発生する場合があり、この現象が股関節周辺の組織に発症しているという考え方です。アレルギー反応は、感染症にかかった後に発症することが多く、感染をきっかけに一時的な免疫異常が生じ、股関節に炎症が起こると推測されています。
外傷や股関節への過負荷
成長期の子どもの場合、骨や関節は急速に発達しますが、この発達過程による股関節への負担や、スポーツなどによる過負荷が原因で炎症を誘発し、単純性股関節炎を引き起こす可能性があります。
股関節炎の前兆や初期症状について
単純性股関節炎の主な前兆や初期症状は以下のような内容があります。
片側の股関節の痛み
単純性股関節炎の初期症状として最もみられるのが、突然生じる片側の股関節への痛みです。そのため、子どもが「足が痛い」や、「歩きたくない」などと訴える場合は、単純性股関節炎などの股関節に異常が生じている可能性が考えられます。
歩行困難や足を引きずる
股関節の痛みが強くなると、普段通りに歩くことが難しくなります。子どもが足を引きずったり、片足で立てない、または歩きたがらないなどの様子が観察された場合は注意が必要です。
股関節の可動域制限
股関節に炎症が生じた結果、股関節内に水がたまり、股関節を自由に動かせなくなります。可動域制限は、曲げる・伸ばす、開く・閉じる、捻じるなど、全ての方向に生じます。
発熱などの体調不良
単純性股関節炎の前兆として、発熱や体調不良が伴う場合があります。風邪や上気道感染症などのウイルス感染や免疫反応が原因で、単純性股関節炎を発症する可能性も考えられているため、感染症後に股関節痛などの症状が現れた場合は注意が必要です。
上記の内容に該当し、単純性股関節炎が疑われる場合は、整形外科を受診することが一般的です。整形外科では、レントゲンや超音波検査などを行い、股関節への炎症や異常の有無を確認し、適切な治療方法を提案します。気になる症状があり、少しでも早期に診察を受けることで、適切な治療を開始できるため、子どもが急に股関節の痛みや歩行困難などの訴えがあった場合は、早めに医療機関を受診しましょう。
股関節炎の検査・診断
単純性股関節炎は、子どもの股関節痛の中でよくみられる疾患ですが、ペルテス病・化膿性股関節炎などのように、似たような症状を引き起こすほかの病気と区別するために、正確な診断が重要です。
単純性股関節炎の検査・診断は一般的に以下のような内容が行われます。
問診と身体検査
股関節痛が発症した経緯や症状などについて詳しく問診します。そのほかにも、感染症・発熱の有無や、どのような動作で痛みが強くなるかなども合わせて確認します。
超音波検査(エコー)
超音波検査を行えば、股関節内部の状態を詳しく評価でき、関節液の貯留(水腫)の有無や、左右の関節液量の比較が可能です。
画像検査(X線検査やMRI)
骨や関節の異常を確認するためにX線検査やMRIを実施する場合があります。X線検査は、主に骨の異常や変形、骨折の有無を確認し、MRIではより詳細な状態を評価する際に必要な検査です。単純性股関節炎の際には、X線検査・MRIともに映らないことがありますが、股関節に関わるほかの疾患を除外するために検査する場合があります。
血液検査
単純性股関節炎は、血液検査でほとんど異常なデータになることはありません。ただ、他疾患など、感染が原因の場合には血液データの数値が異常値となるため、診断の補助として行われます。
これらの検査のように、単純性股関節炎を診断するための検査は少なく、ペルテス病・化膿性股関節炎など、ほかの疾患を併用して考えてから除外することで、単純性股関節炎と診断し、適切な治療を行うことが可能です。
股関節炎の治療
基本的に単純性股関節炎の治療は、保存療法が中心となり、手術などの侵襲的な治療はほとんど必要ありません。具体的な治療は以下の通りです。
安静と活動の制限
基本的な単純性股関節炎の治療は安静にすることです。股関節に負担がかかる動作を行うと痛みが強くなるため、症状が続いている間は安静にすれば、通常1〜2週間程度で症状が改善することがほとんどです。ただ、安静にすることが難しい場合や、痛みが強い場合は松葉杖を使用して免荷する場合もあります。
消炎鎮痛剤の使用
超音波検査の結果、関節に水が多くたまっている場合や、痛みが強い場合には、消炎鎮痛剤(NSAIDs)を使用することで、炎症を抑え、痛みを軽減できます。
温熱療法
痛みやこわばりを軽減する目的で温熱療法を行う場合があります。ホットパックなどを使用して、股関節周りの筋肉を温めることで、血流が良くなり、痛みが軽減されます。自宅などでホットパックがない場合でも、入浴や蒸しタオルなどで温めるなどの方法で代用も可能です。
股関節炎になりやすい人・予防の方法
単純性股関節炎は、以下の項目に該当する場合は発症しやすいため、注意が必要です。
風邪や感染症にかかりやすい子ども
単純性股関節炎は、上気道感染症や風邪を引いた後に発症しやすい特徴があるため、風邪やインフルエンザにかかりやすい体質の子どもや、季節の変わり目に体調を崩しやすい子どもは注意が必要です。
3~10歳の年齢層
単純性股関節炎は、3〜10歳程度の小児によく見られる疾患なため、この年齢層において股関節周辺に痛みの訴えや、炎症が生じた場合は注意が必要です。
アレルギー体質や免疫系が敏感な子ども
アレルギー体質や免疫系が過敏に反応する体質の子どもは、感染症への免疫反応が過剰になり、単純性股関節炎を発症しやすいといわれているため注意が必要です。
これらの内容に該当する場合は、単純性股関節炎を発症しやすいため注意が必要です。また、単純性股関節炎を予防する特別な方法はありませんが、3〜10歳程度の子どもが股関節の痛みを訴えた場合は、悪化させないためにも、無理をせずに休ませることが重要です。また、上気道感染症や風邪を引いた後に発症しやすいため、日頃から手洗いやうがいを徹底するなど、基本的な感染予防を徹底しておこないましょう。
関連する病気
- 変形性股関節症(骨関節症)
- リウマチ性関節炎