

監修医師:
井林雄太(井林眼科・内科クリニック/福岡ハートネット病院)
目次 -INDEX-
肩関節脱臼の概要
肩関節脱臼は、腕の骨である上腕骨と肩甲骨からなる肩関節が外れてしまうことで、肩関節の動きが制限され、強い痛みが伴います。
肩関節は、関節を覆う関節包や靭帯、筋肉などの軟部組織によって、外れないように安定性を保っており、可動性が大きい特徴がある関節です。
しかし、可動性が大きい特徴がある一方で、上腕骨の関節部分である球状の上腕骨頭に対して、受け皿となる肩甲骨の関節窩の構造が小さいため脱臼しやすい関節でもあります。
実際、肩関節脱臼は、すべての主要な関節脱臼の約50%を占めるともいわれており、アメリカのデータでは、平均すると10万人あたり1年に23.9人の方が肩関節の脱臼を起こしているという報告があるほどです。
肩関節脱臼は、脱臼する時に靱帯や腱に引っ張られた結果、骨同士がこすれて骨折を発症する場合があります。また、靱帯や骨の損傷があると、脱臼がしやすくなる反復性肩関節脱臼となり、いわゆる脱臼ぐせとなる可能性があるため、適切な診断と初期対応が重要です。
肩関節脱臼の原因
肩関節脱臼は、後方外側から肩関節への直接的な衝撃が加わることで前方に上腕骨頭が外れる、前方脱臼が多くを占めています。
肩関節脱臼は、以下のような状況で発症しやすいといわれています。
スポーツによる外傷
肩関節脱臼の最も多い原因が、スポーツ中に発生する外傷です。特に、ラグビーやアメリカンフットボール、バスケットボール、柔道など、激しい接触や転倒が生じるスポーツでは、肩関節に強い外力が加わるため、脱臼する危険性が高くなります。
特に、肩関節を上げた状態で力が加わった場合や、後ろから手を引っ張られたりした場合に、不安定な状態となった上腕骨頭が関節面を滑って脱臼しやすい傾向です。
転倒や事故
転倒時に手をついたことによる衝撃や、交通事故で強い力が加わった際にも肩関節脱臼を発症する場合があります。
それ以外に日常生活でも、階段からの転落やバランスを崩して転ぶことで肩関節に外力が加わり、脱臼につながることがあります。
肩の構造的な弱さや関節の不安定性
肩関節の構造的に不安定である場合、脱臼しやすくなります。具体的には、生まれつき関節が緩い動揺肩(ルーズショルダー)の場合は、肩関節を少し動かしただけで脱臼を発症する場合があるため注意が必要です。
また同じように、以前に肩関節脱臼を経験した場合は、関節が不安定になり、再発する危険性が高くなります。
加齢による筋力低下
高齢者になると、筋力が低下し、肩を支える力が弱くなるため、肩関節脱臼を発症しやすくなります。
肩関節脱臼の前兆や初期症状について
肩関節脱臼は、放置すると肩関節が不安定になり、再発しやすくなる危険性が高くなるため、少しでも気になる症状がある場合は、すぐに対応することが重要です。
主な肩関節脱臼の前兆や初期症状は以下の通りです。
肩関節への強い痛み
肩関節脱臼でよくみられる初期症状は、肩関節に感じる激しい痛みです。特に肩関節を脱臼した瞬間は「ガクッ」とした感触を感じることが多く、力が入らず、少しでも動くと強い痛みが走ります。
また、脱臼した際に肩関節周囲の筋肉や靭帯が損傷した場合は、より痛みが増すこともあります。
肩関節の変形
肩関節脱臼を発症すると、不自然に肩関節が下がったり、形が変わったりすることが多いです。
具体的には、外から見ると肩関節の丸みが失われて、肩甲骨の外側の出っ張りが目立つようになったり、左右の肩の高さが異なるなどの状態が観察できます。
肩関節の著明な可動域制限
肩関節が脱臼すると、肩の構造が崩れて、関節の自然な動きができなくなった結果、肩関節が動かせなくなる場合があります。
また、肩関節を動かそうとしても、強い痛みが生じるため、自由に動かせない状態になります。
肩関節周辺のしびれ
肩関節の前方には神経が走っているため、脱臼時に神経が圧迫されると、肩関節や腕などにしびれや感覚の鈍さが現れることがあります。
肩関節周辺には、手につながる神経も近くを通るため、手の指にしびれがないかなども確認しましょう。
腫れや内出血
肩関節脱臼によって、筋肉や靭帯などの肩関節周囲の組織が損傷すると、内出血がみられたり、内出血がなくても関節の周囲が炎症を起こすことで腫れが生じる場合もあります。
これらの症状がみられた場合は、肩関節脱臼が疑われるため、整形外科を受診しましょう。
整形外科を受診すれば、脱臼の程度や関節周囲の損傷が確認できるだけでなく、関節や筋肉、骨に関する治療が行われるはずです。
肩関節脱臼の検査・診断
肩関節脱臼は、さまざまな検査を複合的に行い診断します。基本的には以下のような検査を行います。
問診と身体検査
肩関節を脱臼した原因や、現在の症状を確認するとともに、これまでに脱臼歴があるかなどについて詳しく問診を行います。
その後、身体検査として、肩関節の形状や変形の有無、触診での違和感や、動かした際の痛みなどを評価します。
X線検査(レントゲン)
肩関節脱臼を診断するには、まずX線検査を行い、肩関節がどの方向に脱臼しているかや、骨に損傷がないかを確認し、骨折が疑われる場合にはCT検査を行います。
CTスキャン
X線で確認が難しい骨の損傷などがある場合には、CTスキャンを行います。
CTスキャンを使用することで、骨の状態だけでなく、関節面の状態を詳しく把握できるため、手術の検討性の有無など、より詳細な情報が得られます。
MRI検査
MRI検査は、X線検査やCTスキャンでは確認しにくい靭帯や関節唇(かんせつしん)の損傷を確認します。場合によって、MRI検査を実施することで、肩関節脱臼を生じた際に発症した腱板損傷がみつかる場合もあります。
肩関節脱臼の治療
肩関節脱臼の治療は、基本的に以下の内容が行われます。
整復
肩関節脱臼の治療では、まず脱臼した関節を元の位置に戻すために整復を行います。整復は自己にて行うと、神経や血管を傷つけてしまう危険性があるため、医師へ必ず依頼しましょう。
固定療法
整復後の肩関節は、脱臼によって損傷した組織の修復を促し、再脱臼を予防する目的で、3〜4週間程度の固定を行います。
リハビリテーション
肩関節脱臼は、再発予防や肩の可動域の回復を目的としたリハビリが重要です。リハビリでは、理学療法士の指導のもと、肩周りの筋肉を鍛えることで、肩関節の安定性の向上を目指します。
また、固定後は肩関節の動きが悪くなっているため、少しずつ動かして、可動域の拡大を目指します。
手術療法
肩関節脱臼が繰り返される「反復性肩関節脱臼」や、肩関節脱臼によって、靭帯などの組織に損傷がみられる場合は、手術療法を検討します。
手術は、肩を支える靱帯の損傷を修復する方法、関節包を縫い縮める方法などがあり、手術後にリハビリを行うのが基本的な流れです。
肩関節脱臼になりやすい人・予防の方法
肩関節脱臼になりやすい人
ラグビー・柔道など、接触や衝撃の多いスポーツは肩関節に強い負荷がかかりやすく、脱臼のリスクが高くなります。
そのほかにも、肩関節がもともと緩い方や、以前に肩関節脱臼を経験した方は再発の危険性が高い傾向です。
また、高齢者になると、筋力が低下し、肩周りの筋肉や靭帯が弱くなるため、転倒や軽い衝撃でも肩関節が脱臼しやすくなるため、注意しましょう。
予防の方法
肩関節脱臼を予防として、肩関節周りの筋肉を鍛えることで、関節が外れにくくなり、脱臼の予防につながります。また、ストレッチなどで、肩関節周りの筋肉や靭帯を柔軟に保つことで、急な動きによる脱臼を予防できます。
高齢者の場合は、肩関節脱臼の予防として、転倒しないように家の中の段差をなくしたり、滑りやすい場所には滑り止めを設置するなどのように、生活環境の整備も重要です。
関連する病気
- 反復性肩関節脱臼
- 肩関節不安定症
参考文献