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横紋筋肉腫
木村 香菜

監修医師
木村 香菜(医師)

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名古屋大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、大学病院や、がんセンターなどで放射線科一般・治療分野で勤務。その後、行政機関で、感染症対策等主査としても勤務。その際には、新型コロナウイルス感染症にも対応。現在は、主に健診クリニックで、人間ドックや健康診断の診察や説明、生活習慣指導を担当している。また放射線治療医として、がん治療にも携わっている。放射線治療専門医、日本医師会認定産業医。

横紋筋肉腫の概要

横紋筋肉腫(Rhabdomyosarcoma)は、筋肉の細胞が悪性腫瘍となった、稀ながんです。将来的に、骨格筋(横紋筋)になる予定だった細胞から発生します。発生部位としては、頭頸部(とうけいぶ;頭や喉など)、泌尿生殖器系、四肢などが一般的ですが、肺や腹部、胸部の内臓にも発生することがあります。横紋筋肉腫は、乳幼児期や10歳以下の小児に多く発症しやすいとされていますが、稀に成人にも発症することがあります。日本では、1年で50〜100人の小児が横紋筋肉腫に罹患しています。
横紋筋肉腫は、腫瘍の進行が早いことが特徴なので、診断後は迅速な治療が求められます。特に小児においては、早期発見と治療が生存率を大きく左右するため、親や医療従事者が異変に気付くことが重要です。

横紋筋肉腫の原因

横紋筋肉腫の原因は完全には解明されていないものの、遺伝的な要因が関与していることが示唆されています。特に、PAX3-FOXO1PAX7-FOXO1などの特定の遺伝子融合が、特定の横紋筋肉腫のサブタイプと関連していることが知られています。
また、家族性がん症候群、リ・フラウメニ症候群(Li-Fraumeni syndrome)など、遺伝的な背景を持つ人々においては、横紋筋肉腫を発症するリスクが高いことが報告されています。これらの遺伝的異常は、細胞の増殖をコントロールする遺伝子に変異を引き起こし、その結果、細胞が異常に増殖し腫瘍を形成します。
最近の研究では、特定の環境要因が横紋筋肉腫の発症リスクを高める可能性も示唆されています。例えば、放射線被曝や特定の化学物質への長期的な曝露がリスク要因となる可能性が指摘されていますが、これらの因果関係は明確にされていません。さらに、胎児期や幼少期の特定の感染症や炎症も、腫瘍形成のきっかけとなることが考えられています。

横紋筋肉腫の前兆や初期症状について

横紋筋肉腫の前兆や初期症状は、腫瘍の発生する部位によって大きく異なります。一般的な症状としては、痛みを伴う、または伴わないしこりや腫れが見られることが多いです。例えば、頭頸部に腫瘍が発生した場合、鼻づまりや視力障害、眼球突出などが見られることがあります。腹部や泌尿生殖器系に発生した場合は、血尿や排尿困難、腹部の腫れなどが症状として現れることがあります。四肢に発生した場合には、しこりや腫れに加えて、運動時の違和感や痛みを感じることもあります。
また、場合によっては腫瘍が隣接する神経や臓器を圧迫することで、神経症状や臓器機能の低下を引き起こすことがあります。例えば、頭頸部に腫瘍が発生した場合、神経への圧迫により麻痺や感覚異常が生じることもあります。このような場合は、神経内科や脳神経外科と連携した治療が必要になることもあります。
こうした症状が見られた場合、早期に医療機関を受診することが重要です。特に子供の症状に注意し、異常が認められた場合には、小児科や腫瘍科を受診することを推奨します。大人の場合でも、整形外科や腫瘍科で専門的な診察を受けることが望まれます。早期発見が治療効果を高め、生存率の向上につながるため、異常を感じた場合には迅速に行動することが大切です。

横紋筋肉腫のの検査・診断

横紋筋肉腫の検査・横紋筋肉腫の診断には、画像診断と病理診断が欠かせません。まず、CTやMRI、PETスキャン、超音波検査などを使用して腫瘍の大きさや位置を正確に特定します。これにより、腫瘍の広がりや、隣接する組織や臓器への影響を詳細に把握することができます。
CT検査は、特に腫瘍の内部構造や骨への浸潤を評価するのに役立ち、MRIは軟部組織の詳細な画像を撮影することができるため、筋肉や血管との関係性を明確に示します。
超音波検査は、特に小児や胎児期の患者さんに対して放射線被曝を避けるために用いられることが多く、非侵襲的で迅速に腫瘍の存在を確認できる利点があります。また、PETスキャンは、がん細胞が正常細胞よりもブドウ糖(グルコース)を多く吸収する性質を利用した検査です。PETスキャンによって、がんの広がりの他、体内のリンパ節や他の臓器への転移がないかを調べることができます。
これらの画像検査により、腫瘍の性質やひろがりを多角的に評価し、治療計画を立てる上で重要な情報が得られます。
画像診断で異常が確認された場合、次に生検を行い、腫瘍組織の一部を採取して病理検査を行います。病理検査では、腫瘍細胞の種類や性質を確認し、横紋筋肉腫であるかどうかの確定診断が下されます。
さらに、遺伝子検査が行われることもあり、特定の遺伝子変異が見つかるかどうかを調べることで、腫瘍のサブタイプを特定します。これにより、より個別化された治療方針が立てられ、治療の効果を最大化することが可能です。横紋筋肉腫は進行が早いことから、早期診断が治療成功の鍵を握ります。
横紋筋肉腫はほかの腫瘍と比べて発生頻度が低いため、診断や治療において専門的な知識と経験が求められます。また、腫瘍の進行が早いケースが多いため、早期に治療を開始することが患者さんの予後に大きく影響します。加えて、横紋筋肉腫は特定の遺伝子異常に関連しているため、治療の個別化が必要になることがあります。これにより、従来の治療法に加え、遺伝子治療や免疫療法が検討されることもあります。

横紋筋肉腫の治療

横紋筋肉腫の治療は、腫瘍の大きさ、発生部位、転移の有無、患者さんの年齢などに基づいて個別に計画されます。治療の基本は、手術、放射線治療、化学療法の組み合わせです。可能であれば、手術で腫瘍を完全に切除することが最も効果的です。ただし、腫瘍が大きい場合や重要な臓器に近接している場合には、手術による完全摘出が難しいこともあります。このような場合、放射線治療や化学療法が併用されることがあります。
放射線治療は、腫瘍の縮小を目的として行われ、化学療法は、特に転移が見られる場合に使用されることが多いです。化学療法は、全身に広がっている腫瘍細胞を攻撃する効果があり、放射線治療や手術と併用されることで、腫瘍を効果的に制御することが期待されます。最近では、分子標的治療薬や免疫療法など、新しい治療法も注目されており、特定の遺伝子変異を持つ患者さんに対しては個別化された治療が検討されています。

横紋筋肉腫になりやすい人・予防の方法

横紋筋肉腫は、遺伝的要因や環境要因が影響を与えることが知られています。特に、家族にがんの既往歴がある場合や、遺伝子異常を持つ家系に属する場合、横紋筋肉腫の発症リスクが高まることがあります。加えて、放射線被曝や特定の化学物質への曝露もリスク要因として挙げられますが、これらの環境要因に対する直接的な予防策はまだ確立されていません
現時点での最も有効な対策は、早期発見です。特に、リスクの高い人々や小児においては、定期的な健康診断や異常が見られた際には、早急に医療機関を受診することがすすめられます。異変を感じた場合には、専門医の診察を早急に受けることが大切です。
また、がん発症リスクのある遺伝的背景を持つ場合には、予防的な遺伝カウンセリングや遺伝子検査を受けることが推奨される場合もあります。


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