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大腿ヘルニア
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

大腿ヘルニアの概要

ヘルニアとは、筋肉などの隙間を通って腸などが飛び出していることです。その中で、大腿ヘルニアとは、腸や腹部の一部が大腿部(太ももの付け根)にある筋肉や組織のすき間から外に飛び出してしまう状態を指します。この状態は中年以降の女性に多く見られ、立ち上がったり、重い物を持ち上げたりしたときにヘルニアが出やすくなります。大腿ヘルニアは、初期には痛みが少ないことが多いですが、重症化すると腸が締め付けられて血流が悪くなり、強い痛みや腸閉塞などの症状が現れます。特に、血流が途絶えると緊急手術が必要なケースもあります。診断は身体診察で主に行われ、診断された場合は早期の外科的手術が勧められます。(参考文献1)

大腿ヘルニアの原因

大腿ヘルニアの原因は、大腿部の筋肉や組織の弱い部分を通じて腹部の内臓が押し出されることです。この弱い部分は「大腿管」と呼ばれ、通常は血管や神経が通る小さな隙間ですが、筋肉や組織の強度が弱まると広がり、そこから腸などが飛び出してしまうことがあります。慢性的な咳、便秘、激しい運動、妊娠などお腹の中に強く圧力がかかる状態が続くとヘルニアになりやすくなると言われています。

大腿ヘルニアは、特に中年以降の女性に多く見られます。女性の骨盤の構造は男性に比べて広いため、自然と大腿部の筋肉が弱くなりやすいのです。また、妊娠や出産などにより腹圧が増すことも、大腿管の周辺組織が弱くなる要因となる可能性もあります。加齢も筋肉や組織の強度低下につながるため、年を重ねるほど発症しやすくなります。(参考文献1,2)

大腿ヘルニアの前兆や初期症状について

大腿ヘルニアの一般的な症状は、大腿付近の鈍い不快感や重苦しさです。腫れや膨らみが大腿部(太ももの付け根付近)に見られることもありますが、見られないこともあります。立ち上がったり、咳をしたり、お腹に力が入る動作を行ったときに、この膨らみが目立ちやすくなります。ただ、力むのを止めたり体を横にしたりすると腫れが一時的に小さくなることが多いです。

中等度~重度の症状としては、腸が締め付けられて血流が悪くなる「絞扼(こうやく)」という状態があります。この状態では激しい痛みが生じるほか、腸閉塞(ちょうへいそく)の症状として吐き気や嘔吐、腹部の膨満感が見られることもあります。絞扼は非常に危険で、腸が壊死する可能性があるため、放置すると命に関わることがあります。(参考文献2)

大腿ヘルニアの検査・診断

大腿ヘルニアの診断は、主に医師の問診と身体診察によって行われます。立った状態で大腿部や太ももの付け根付近を触診し、膨らみや腫れが見つかった場合、さらなる検査を必要としないこともあります。しかし、女性であったり肥満であったりする場合は診断が難しく、追加の検査が必要となることもあります。

画像検査として一般的に使用されるのは、超音波検査(エコー)やCT検査です。超音波検査は、患部にプローブを当てて内部の構造を確認する方法で、痛みもなく簡便であるため、外来での検査として広く使われています。超音波では、腸が飛び出している様子やその位置、ヘルニアの大きさがわかります。また、CT検査は腸や他の臓器の状態、大腿部の筋肉や脂肪組織の様子を確認することができます。(参考文献1,2)

大腿ヘルニアの治療

大腿ヘルニアの治療は、ほとんどの場合、早期の外科手術が推奨されます。自然に治ることはなく、放置すると絞扼が発生するリスクは小さくありません。絞扼を起こしてしまうと緊急手術が必要となり、そして緊急手術では腸を切除しなければならない可能性や死亡率が高くなってしまいます。

そのため、大腿ヘルニアと診断された場合は可能な限り早期に手術によって飛び出した腸や組織を元に戻し、ヘルニアの出口となっている大腿管を補強する必要があります。手術方法には、開腹手術腹腔鏡手術の二つの方法があります。開腹手術は、大腿部の付け根を切り開いて、飛び出した腸や組織を戻し、大腿管を縫い縮めて補強する方法です。一方、腹腔鏡手術は、小さな切開からカメラと器具を挿入し、モニターを見ながら行う手術です。いくつかの研究結果によると、腹腔鏡手術の方が再発率が低いとされています。(参考文献3)

大腿ヘルニアになりやすい人・予防の方法

大腿ヘルニアになりやすい人

大腿ヘルニアは、特に女性に多く発生する疾患です。統計によると、女性は男性よりも4倍リスクが高いとされています。発症の割合は他の種類のヘルニアと比べて少ないものの、特に大腿ヘルニアはそのうちの40%程度が絞扼(こうやく)するとも言われているため、注意が必要です。(参考文献2)

予防の方法

予防方法としては、大腿ヘルニアの原因となる状態を避ける、すなわち体幹や大腿部の筋肉を鍛えることや腹圧が急激にかかる行動を避けることが挙げられます。適度な運動を続けることで加齢による筋力低下を防ぐことができるかもしれません。また、重いものを持ち上げる時は姿勢に注意したり、慢性的な便秘や長引く咳などを予防・改善したりすることなども大腿ヘルニアの予防につながるかもしれません。しかし、こうした取り組みが本当に大腿ヘルニアを予防するかどうか、明確なことはわかっていません。(参考文献1,2)


関連する病気

  • 腹壁ヘルニア
  • 肺疾患

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