監修医師:
副島 裕太郎(横浜市立大学医学部血液・免疫・感染症内科)
化膿性関節炎の概要
化膿性関節炎は、細菌が関節内に侵入し、炎症を引き起こす病気です。関節は、骨と骨をつなぐ部分で、滑らかな軟骨と関節液で覆われていますが、化膿性関節炎になると、これらの組織が破壊され、強い痛みや腫れ、関節の動きの制限が現れます。
化膿性関節炎の原因
化膿性関節炎の原因は、細菌感染です。細菌は、血液を介して関節に到達するケース(血行性)と、傷口や手術の傷あとなどから直接関節に侵入するケース(非血行性)があります。代表的な細菌としては、黄色ブドウ球菌、肺炎球菌、インフルエンザ菌などが挙げられます。とくに糖尿病、関節リウマチなどの基礎疾患を持つ方は、化膿性関節炎を発症しやすいため注意が必要です。
化膿性関節炎の前兆や初期症状について
化膿性関節炎の初期症状としては、以下のようなものが挙げられます。
関節の痛み
炎症が起こっている関節に、安静時でも感じられる強い痛みがあります。
関節の腫れ
炎症によって関節液が溜まり、関節が腫れてきます。
関節の熱感
炎症が起こっている関節は、熱を持ちます。
関節の動きの制限
痛みや腫れによって、関節の動きが悪くなります。
発熱
細菌感染に伴い、38度以上の発熱が現れることがあります。ただし、高齢者では発熱がない場合もあります。
全身倦怠感
体がだるく、疲れやすいと感じるようになります。
これらの症状はほかの病気でもみられるため、自己判断せずに医療機関を受診することが大切です。上記のような症状があり化膿性関節炎を疑う場合は、整形外科を受診しましょう。
化膿性関節炎の検査・診断
化膿性関節炎を診断するためには、以下の問診・診察・検査を行います。
問診
いつから、どのような症状があるのか、既往歴や服用中の薬などについて詳しく聞かれます。
診察
患部である関節を目で見たり手で触れたりすることで、腫れや熱感、押したときの痛みなどを確認します。
関節液検査
炎症を起こしている関節に針を刺し、関節液を採取して、細菌の有無や炎症の程度を調べます。関節液検査は、化膿性関節炎の診断に重要な検査です。採取した関節液は、肉眼での観察、顕微鏡による細胞数の測定、グラム染色や培養検査(細菌の種類を特定するため)などを行います。
血液検査
炎症の程度を評価するために、赤沈(ESR)、CRP値、白血球数などを測定します。ただし、これらの炎症マーカーは感度が低く、数値が正常でも化膿性関節炎の可能性を完全に否定できるわけではありません。
画像検査
X線検査、超音波検査、MRI検査などを行い、関節の炎症や破壊の程度、骨髄炎の合併などを確認します。
X線検査
初期では関節炎の非特異的な変化(関節周囲の骨密度低下、関節液貯留、軟部組織の腫脹、関節裂隙の狭小化など)がみられる程度ですが、感染が進行すると、骨膜反応、辺縁性または中心性の骨びらん、軟骨下骨の破壊などがみられるようになります。
超音波検査
特に股関節などの深い関節の炎症を検出するのに適しており、関節穿刺の際の手引きとしても有用です。
MRI検査
関節や軟部組織の構造や膿瘍の範囲を明確にするのに優れています。また初期の骨びらん、軟部組織への炎症の波及、骨髄炎の合併などを評価することができます。
化膿性関節炎の治療
化膿性関節炎の治療は、おもに抗菌薬の投与と関節内の洗浄・排膿が中心となります。
抗菌薬の投与
細菌感染を抑えるために、原因菌に有効な抗菌薬を、点滴注射で投与します。抗菌薬の種類や投与期間は、原因菌の種類や患者さんの状態によって異なりますが、一般的には、4-6週間程度の治療が必要です。
関節内の洗浄・排膿
関節内に溜まった膿を、針を刺して吸引したり、関節鏡手術を行って洗い流したりします。関節鏡手術は、関節内にカメラを入れて、患部を直接確認しながら洗浄・排膿を行うため、より確実な治療が可能です。関節内の洗浄・排膿は、関節の機能を保つために重要です。
化膿性関節炎は、早期に発見して適切な治療を行えば、ほとんどの場合、治癒が期待できます。
しかし、治療開始が遅れたり、適切な治療が行われなかったりすると、関節の機能障害や変形が残ってしまう可能性があります。重症化すると敗血症(全身に細菌が回って具合が悪くなる状態)などの命に関わる合併症を引き起こす可能性もあるため、早期発見・早期治療が重要です。
化膿性関節炎になりやすい人・予防の方法
化膿性関節炎になりやすい人
化膿性関節炎は、誰でも発症する可能性がありますが、特に以下のような人は注意が必要です。
高齢者
免疫力が低下し、細菌感染を起こしやすくなっています。
糖尿病の患者さん
免疫力が低下し、細菌感染を起こしやすくなっています。
関節リウマチの患者さん
免疫力が低下していることに加え、関節に炎症があるため、化膿性関節炎を発症しやすくなっています。
ステロイド免疫抑制剤や生物学的製剤を使用している人
これらの薬は免疫力を抑制するため、感染症のリスクが高まります。
人工関節置換術を受けた人
人工関節は細菌が付着しやすいため、術後に化膿性関節炎を発症することがあります。
血管内カテーテルを留置している人
カテーテル挿入部は細菌感染のリスクが高く、そこから細菌が血流に乗って関節に到達することがあります。
アルコール摂取が多い人
アルコールの過剰摂取は免疫力を低下させるため、感染症のリスクが高まります。
静脈薬物使用者
注射針の不衛生な使用により、細菌感染を起こしやすくなっています。
化膿性関節炎の予防の方法
化膿性関節炎を完全に予防することは難しいですが、以下の点に気をつけることでなりにくくすることはできます。
日頃から健康的な生活を心がけ、免疫力を高める
十分な睡眠、バランスの取れた食事、適度な運動を心がけましょう。
基礎疾患のコントロール
糖尿病や関節リウマチなどの基礎疾患がある場合は、適切な治療を継続して、病状を安定させることが大切です。
傷口の手当は適切に
傷口から細菌が侵入しないように、傷口を清潔に保ち、適切な処置を受けましょう。
歯科治療を受ける際は注意
歯科治療の際には、歯ぐきから細菌が血流に入りやすくなるため、事前に医師に相談し、必要があれば予防的に抗菌薬を処方してもらいましょう。
人工関節置換術後の注意
人工関節置換術後は、医師の指示に従って、感染予防に努めましょう。
化膿性関節炎は、早期発見・早期治療が重要です。関節に異常を感じたら、自己判断せずに、早めに医療機関を受診しましょう。
参考文献
- Mathews CJ, Weston VC, Jones A, Field M, Coakley G. Bacterial septic arthritis in adults. Lancet. 2010 Mar 6;375(9717):846-55.
- Mathews CJ, Kingsley G, Field M, Jones A, Weston VC, Phillips M, Walker D, Coakley G. Management of septic arthritis: a systematic review. Ann Rheum Dis. 2007 Apr;66(4):440-5.