監修医師:
林 良典(医師)
変形性脊椎症の概要
変形性脊椎症とは、椎間板や椎体の変性が生じている状態のことを表します。
なお、変形性脊椎症の脊椎(せきつい)とは背骨のことで、身体を支える重要なもので、以下の個数で構成されています。
- 頸椎:7個
- 胸椎:12個
- 腰椎:5個
- 仙骨(仙椎):1個
- 尾骨:1個
脊椎の前方には椎体があり、その間にクッションの役目をする椎間板が存在しています。しかし、この椎体や椎間板は、加齢とともに徐々に劣化し、変形や機能低下が生じた結果、変形性脊椎症を発症する場合があります。
変形性脊椎症は、首(頚椎)、胸(胸椎)、腰(腰椎)のいずれの部位にも発症する可能性がありますが、腰の部分で発症することが多く、高齢者の腰痛の原因の1つです。
実際、高齢化が進んでいる地域で行われた調査によると、腰痛を原因に医療機関を受診した患者さんにおいて、変形性脊椎症が腰痛の原因の可能性である割合は約35%程度だったとの報告もあります。
また、高齢者では、男性が約80%、女性が約65%と高い割合で変形性脊椎症を発症しているともいわれています。
変形性脊椎症の原因
変形性脊椎症は以下のような項目が原因と考えられています。
加齢
脊椎は多くの椎体で構成されており、その骨と骨の間には椎間板が存在します。この椎間板は、年齢を重ねていくうちに少しずつ薄くなり弾力性が失われることで、脊椎の神経が圧迫されることで、腰痛・しびれなどの症状が出現することがあります。
その他にも、椎間板が薄くなることで椎体同士の摩擦が増え、脊椎の端にささくれた骨のトゲのような骨棘ができて、脊椎の神経を圧迫する場合もあります。
遺伝性
遺伝的に変形性脊椎症になりやすい可能性も指摘されています。家族の中に同じような疾患を抱える人がいる場合、脊椎の変形が進行しやすい傾向です。
姿勢の悪さ
悪い姿勢を日常的に行っていると、脊椎・椎間板に負担がかかり、変形性脊椎症を引き起こす原因になる場合があります。
特に、デスクワークやスマートフォンの使用などにより、長時間に渡って前かがみの姿勢が続くと、首や腰に過度な負荷がかかるので注意が必要です。
脊椎への過度な負担
スポーツや肉体労働で脊椎に強い負荷がかかる機会が多いと発症リスクが高まるといわれています。
具体的には、バスケットボールやバレーボールなどのようにジャンプを繰り返すスポーツや、引っ越し業者など、重い荷物を頻繁に持ち上げる作業を繰り返しおこなう場合は、脊椎に負担がかかりやすくなります。
肥満
肥満の場合、脊椎にかかる負担は高くなります。特に腰の部分は体重を支えるために負担もかかり、腰部の変形性脊椎症を発症しやすくなるため注意が必要です。
喫煙
喫煙をすることで、体内のニコチンの量が増えて、血流の流れが悪くなった結果、椎間板への栄養が不十分となり、椎間板の保護機能が低下します。
実際、喫煙者は非喫煙者に比べて脊椎の変性が進行しやすい可能性があるといわれているため、普段から喫煙の習慣がある場合は注意が必要です。
糖尿病
糖尿病によって、血糖値が高い状態が続くと、全身の細い血管の血流が悪くなり、腰椎の変性疾患を発症する危険性が高くなることが指摘されています。
変形性脊椎症の前兆や初期症状について
変形性脊椎症は、初期の段階では目立った症状が現れないことが多く、少しずつ進行する傾向です。しかし、以下のような症状がみられた場合は、変形性脊椎症の前兆や初期症状かもしれません。
腰や首への痛み
変形性脊椎症の初期段階でよく見られるのが、腰痛や首の痛みです。
脊椎の変形が進行すると、脊椎にかかる負担が増し、周囲の筋肉が緊張するため、痛みを感じる場合があります。
特に、長時間座った場合や、朝起きたときに痛みが生じるものの、軽く動いているうちに、痛みが軽減または消失するのが特徴です。
手足のしびれ
脊椎が変形して、神経が圧迫されると、痛みだけでなくしびれが出現する場合があります。
このしびれは、頸椎の部分が変性した場合は腕や手に、腰椎の部分が変性した場合は、足に生じます。
可動域の制限
脊椎が硬くなり、動きのスムーズさが減少するなど、可動域の制限がみられることも変形性脊椎症の初期症状の1つです。
前かがみになったり、首を左右に回したりする動作の際に、違和感や痛みを感じる場合は、そのような症状が継続的に感じるか注意深く観察しましょう。
今回紹介したような、症状が継続してみられる場合は、変形性脊椎症の可能性があるため、整形外科を受診しましょう。
もし、神経の圧迫によるしびれの症状が強い場合は、脳神経外科でも変形性脊椎症の診断や評価を詳細に行ってくれます。
変形性脊椎症は、初期の段階では症状がない場合も多いですが、早期の診断と治療が、症状の進行を防ぎ、生活の質を維持するために重要になるため、少しでも気になる症状がみられた場合は、無理をせずに早めに医療機関を受診しましょう。
変形性脊椎症の検査・診断
変形性脊椎症は以下のような検査や評価を複合的に行った結果で診断します。
問診と身体検査
患者さんが感じている痛みやしびれの部位や強さ、可動域の制限だけでなく病歴など、詳細な情報を聞き取ります。
その後、身体検査として、各関節の動きを確認し、実際にどのような動作をした際に、どの部位に痛みが生じるか、また神経が圧迫されていることにより症状が出ている場合は、筋力や感覚の異常などを評価します。
X線検査(レントゲン)
骨の状態を確認するのに適しているため、変形性脊椎症の検査・診断でよく用いられる検査方法です。
X線検査は、脊椎がどの程度変形しているか、骨棘(骨の突起)の有無などを簡単に確認できますが、椎間板や神経、筋肉の状態は詳しく確認できないため、詳細な評価が必要な場合は、追加の画像検査を行う場合があります。
MRI検査/CT検査
X線検査を行った結果、脊椎の変形や神経圧迫の程度などをより詳しく評価したい場合は、追加でMRI検査かCT検査を行います。
MRI検査やCT検査は、X線検査より詳細な評価ができるため、手術が必要かどうかの判断材料としてもよく実施されます。
変形性脊椎症の治療
変形性脊椎症を発症していても、無症状の場合は、一般的に特別な治療は行いません。しかし、痛みやしびれなどの症状がみられる場合は、以下のような治療を行います。
保存療法
コルセットで患部を固定したり、消炎剤、鎮痛剤、筋弛緩剤などの薬の投与、痛みを感じている神経を遮断する神経ブロック注射などを行います。
その他にも、患部を温めて血流を促進することで筋肉をほぐす温熱療法や、腰痛体操などの指導を含むリハビリテーションを実施して、痛みやしびれの状態を観察します。
手術療法
保存療法を行っても症状の改善が認められず、日常生活にも支障が出ているような状況の場合は、手術療法を検討します。
手術は骨が変形している部分を切除したり、脊椎の圧迫を広げる手術などを行います。
変形性脊椎症になりやすい人・予防の方法
変形性脊椎症になりやすい人
以下の条件に該当する場合は、脊椎に負担がかかる頻度が高く、変形性脊椎症になりやすいため注意が必要です。
高齢者
年齢とともに、脊椎を構成する骨や椎間板が薄くなり弾力性が失われるため、脊椎の変性が生じる可能性が高くなります。
肥満
体重が重いと、それだけ脊椎にかかる負担が大きくなるため、変形性脊椎症の進行を早める可能性があります。
姿勢が悪い人
普段から姿勢が悪い場合、脊椎に負担をかけ、変形を引き起こしやすくなります。
予防の方法
これらの条件に該当する場合は、変形性脊椎症になりやすいため以下のような予防方法が有効です。
姿勢の改善
普段から姿勢に注意したり、座る時は腰にサポートを与えるクッションを使用しましょう。
また、長時間座ったままで作業を行うと、脊椎に負担がかかるため、定期的に立ち上がって動くことも合わせて意識しましょう。
適度な運動
体幹を中心に筋力を維持することで脊椎への負担を軽減できます。特に、ウォーキングや水泳などは脊椎に過剰な負荷をかけずに筋肉を鍛えることができる効果的な運動です。
変形性脊椎症は自分自身では分かりにくい場合も多いため、少しでも気になる症状を感じた場合はすぐに医療機関を一度受診しましょう。
参考文献
- 公益社団法人 日本整形外科学会「変形性脊椎症」
- 一般社団法人 日本臨床整形外科学会「変形性脊椎症」
- 中外医学社「腰痛の疫学」
- Journal of Neurosurgery「Familial cervical spondylosis」
- Journal of Orthopaedic Science「Degeneration of intervertebral discs due to smoking: experimental assessment in a rat-smoking model」
- Surgical Neurology International「Adverse impact of smoking on the spine and spinal surgery」
- Scientific Reports – Nature「Strong association of type 2 diabetes with degenerative lumbar spine disorders」