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脊椎カリエス
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

脊椎カリエスの概要

脊椎カリエスは、結核菌が背骨に感染して起こる病気で、医学的には「結核性脊椎炎」や「Pott病」と呼ばれます。結核といえば肺の病気というイメージがありますが、菌は血液を通じて骨や関節にも広がり、その代表がこの病気です。特に胸椎から腰椎にかけて多く、結核性骨関節炎の中で最も頻度が高いとされています。

主な症状は背中や腰の痛みで、数週間から数か月かけて進行します。悪化すると脊椎が崩れて背中が丸まり(亀背)、脊髄が圧迫されると下半身の麻痺に至ることもあります。ただし、発熱や体重減少など典型的な感染症の症状は出にくく、診断が遅れることも少なくありません。

診断にはX線やCT、MRIで背骨の状態を確認し、病変部の生検で結核菌を確認することが必要です。治療の中心は抗結核薬を組み合わせて行う薬物療法で、6〜9か月の継続治療が基本です。重度の神経症状や変形を伴う場合には手術が検討されます。

脊椎カリエスは、結核にかからないことが最大の予防です。BCGワクチン、肺結核の早期治療に加え、長引く腰痛や背中の変形を見逃さずに医療機関を受診することが重症化防止につながります。日本では結核患者は減少傾向にあるものの、今も年間1万人前後が発症しており、高齢者を中心に注意が必要な病気です。

脊椎カリエスの原因

脊椎カリエスとは、結核菌が背骨に感染して起こる病気で、医学的には「結核性脊椎炎」や「Pott病」とも呼ばれます。結核といえば肺の病気という印象が強いですが、実は全身の骨や関節に感染することもあり、その代表例がこの脊椎カリエスです。結核性骨関節炎の中では最も多く、全体の約半数を占めるといわれています (参考文献1)。

原因は肺結核と同じ結核菌です。肺に感染した結核菌が血液に乗って全身をめぐり、その一部が背骨に定着して炎症を起こします。特に胸椎から腰椎にかけて感染が多いとされています。 感染はすぐに発症するとは限らず、体の中で長く潜伏することもあります。免疫力がしっかり働いているうちは菌を抑え込めますが、加齢や病気、栄養不良、HIV感染や腎不全といった「体の抵抗力が落ちる状態」になると再び活動を始め、症状が出てきます (参考文献1)。

脊椎カリエスの前兆や初期症状について

最も多い初期症状は背中や腰の痛みで、数週間から数か月かけてじわじわ強くなります。進行すると脊椎の一部が崩れ、変形が目立ってきます。亀の甲羅のように丸く背筋が丸まることから「亀背」と表現されます。脊椎のなかには脊髄が通る脊柱管と呼ばれる空間がありますが、脊椎の変形によって脊柱管の構造が破壊されると脊髄が圧迫され、ひどい場合には下半身が麻痺します (参考文献1) 。脊椎への衝撃を避けるために短い歩幅でゆっくりと歩くようになる場合があり、「アルダーマン歩行」と呼ばれます (参考文献1) 。 脊椎カリエスは感染症ですが、発熱や体重現象は患者全体の4割未満にしかみられません (参考文献1) 。

数カ月の経過で背中が急に丸まってきた方は、一度近くの整形外科を受診してください。

脊椎カリエスの検査・診断

症状が非特異的で進行がゆっくりなため、脊椎カリエスの診断は遅れやすく、他の病気 (椎間板ヘルニアや骨粗鬆症による圧迫骨折、がんの骨転移など) との鑑別が問題になります。 単純X線撮影やCT、MRIを用いて背骨の変形の様子を確認することが第一です。画像所見から脊椎カリエスが鑑別に上がれば病変の生検をし、顕微鏡・培養で結核菌を確認します (参考文献1)。

脊椎カリエスの治療

治療の中心は「抗結核薬」による薬物療法です。標準的には6〜9か月間の治療が推奨され、イソニアジド、リファンピシン、エタンブトール、ピラジナミドといった薬剤を組み合わせて使います。 抗菌薬治療でも十分な効果が得られない場合や、脊柱管狭窄による神経症状が強い場合、変形が著しい場合には手術が検討されます (参考文献1) 。

脊椎カリエスになりやすい人・予防の方法

脊椎カリエスは、結核菌が肺以外の臓器に広がって起こる「結核の一形態」です。したがって次のような結核菌への暴露歴・感染歴が考えられる人や、免疫抑制状態にある人では発症リスクが高くなります。

  • 結核の多い地域からの移住者:結核が日常的に流行している地域から来た人は、過去に感染している可能性が高く、再発のリスクがあります。
  • 高齢者:加齢に伴い免疫力が低下するため、体内で眠っていた結核菌が再び活動を始めやすくなります。
  • HIV感染者や透析を受けている人:免疫が抑えられているため、肺結核だけでなく骨や関節への結核菌の波及も起こりやすくなります。
  • 免疫抑制剤を使用している人:ステロイドや抗がん剤、臓器移植後の免疫抑制剤などを使っている人は、結核菌を抑え込む力が弱くなります。

結核の感染予防・発症予防の他には、脊椎カリエスの早期発見で重症化予防をすることができます。

  • BCGワクチン接種:乳児期に接種することで、結核の発症や重症化を予防することができます。
  • 結核の早期発見・早期治療:結核は早く見つけて治療を始めれば、骨や関節に広がるのを防げます。咳や微熱、体重減少が続く場合は近くの内科を受診してください。
  • 長引く腰痛や背中の痛みを軽視しない:単なる腰痛と思って放置せず、数週間以上続く痛みや背中の変形があるときは、早めに整形外科を受診しましょう。

結核は「過去の病気」と思われがちですが、日本では依然として年間1万人前後の新規患者が報告されています。高齢者を中心に発症例が多く、若い世代でも海外からの持ち込みや免疫低下をきっかけに発症することがあります。骨や関節に広がる例は全体からみれば少数ですが、脊椎カリエスのように重い後遺症を残すことがあるため、注意してください。

参考文献

  • Stout J. Bone and joint tuberculosis. UpToDate. Last updated Feb 27, 2024. Literature review current through Jul 2025.

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