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上腕骨近位端骨折
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

上腕骨近位端骨折の概要

上腕骨近位端骨折は、肩の付け根にあたる上腕骨の近位部に起こる骨折で、高齢者、特に骨粗鬆症を背景に持つ閉経後の女性に多くみられます。受傷直後は肩のつけ根の痛みのほか、肩が変形することもあります。骨のずれが大きくなければ固定によって治癒しますが、転位が大きいと手術による整復が必要になります。

上腕骨近位端骨折予防の柱は骨粗鬆症の対策です。国内に骨粗鬆症患者は1000万人以上いて、特に女性に多いです。骨粗鬆症は大腿骨や脊椎の骨折にもつながり、これらは高齢者の生活の質に直結する疾患です。カルシウム・ビタミンDを適正量摂取することや、適正な運動習慣を維持することが、骨粗鬆症の発症予防・治療になります。骨粗鬆症は高齢者の病気というイメージがありますが、若い時の骨密度ピークを高くすることで骨粗鬆症発症を予防することができるため、若い時の生活習慣も重要です。

上腕骨近位端骨折の原因

上腕骨近位端骨折とは、肩関節を構成する上腕骨の付け根部分に生じる骨折です。 発生の主な原因は年齢層によって違います。若い人がスポーツ・交通事故によって強い外力が加わったときの骨折が多いですし、高齢者では骨粗鬆症を背景に転倒などの比較的弱い外力で骨折することが多いです (参考文献1)。 一般的に高齢者は骨折しやすいことが知られていますが、その中でも上腕骨近位端骨折は多いです。大腿骨近位部骨折 (股関節近くの骨折) 、橈骨遠位端骨折 (手関節近くの骨折) 、脊椎圧迫骨折とならんで多い骨折の部位です (参考文献1)

上腕骨近位端骨折の前兆や初期症状について

受傷直後から強い肩の痛みが出現し、肩を動かすと痛みが増強します (参考文献2)。そのため患側の腕を体に密着させるようにして動かさない姿勢をとることが多いです。 骨折したところで骨が大きくずれたり、肩関節脱臼を併発している場合には、肩の形が変形します。 また、骨折片の位置や、骨のずれ方によっては神経や血管が損傷されることもあります。この場合には神経損傷の症状として肩関節より手先側の動かしにくさ・しびれといった症状が出ます。

受傷した場合には整形外科を受診してください。ただし交通事故に遭った場合や、身動きが取れない時には救急要請をしてください。

上腕骨近位端骨折の検査・診断

診断の基本はレントゲン検査です。様々な方向から撮影して骨折部位や転位 (ずれ) の程度を評価します。他の外傷性疾患を併発している可能性がある場合などではCT撮影をします。

上腕骨近位端骨折の治療

初期対応は三角巾を用いた患部の固定です。痛みや症状の経過に応じて早期にリハビリテーションを開始していきます。 画像評価の結果、手術が必要であると判断される場合があります。スクリューやワイヤープレート、髄内釘を用いてずれた骨をつなぐ手術と、関節部を人工関節に置き換えてしまう手術があります (参考文献3)。治療法の選択はもともとの患者さんの生活の状態や、骨の状態などによっても変わるので、担当の医師と密なコミュニケーションをとってください。

上腕骨近位端骨折になりやすい人・予防の方法

骨粗鬆症を背景に持つ人は、軽い転倒でも上腕骨を骨折するリスクがあります。骨粗鬆症の発症リスクとして有名なのは高齢であること・女性であることです。男女ともに高齢になると骨密度が低下してきて骨の強度が下がりますが、閉経後の女性では特に骨密度が低下しやすいです。これは骨密度の維持に女性ホルモンがかかわっているためです。

骨粗鬆症の治療や予防が、そのまま上腕骨近位端骨折の予防になります。骨粗鬆症患者では大腿骨や脊椎、上腕骨の骨折が多いですが、高齢者は骨折を契機に生活の質が急激に悪化しやすいです。 次のような対策がありますので (参考文献 4)、無理のない範囲でやってみましょう。

若いうちにする骨粗鬆症の予防

カルシウム・ビタミンDの摂取や運動は骨粗鬆症発症のリスクを低減することが知られています。若年者でも栄養バランスの改善と運動量を増やすと将来の骨粗鬆症発症を予防することができます。これは若年時に訪れる骨密度のピークをなるべく大きくすることで、年を重ねた後の骨密度低下を抑制することができるためです。 近年では若い人の ”痩せ” が問題になっていますが、若い時に痩せていると骨密度のピークが低くなるので注意してください。

中高年以上の骨粗鬆症の予防

基本的には若年時の予防法と同じで、カルシウム・ビタミンDを十分に摂取できる食事や、運動習慣、痩せの予防が予防になります。

骨粗鬆症の早期発見・治療

骨粗鬆症は検診のメニューに入っていて、40歳以上の女性が対象になっています。検診は他の疾患の早期発見にもつながるので、お知らせが来たら必ず受診しましょう。骨粗鬆症と診断されれば治療として生活習慣の改善の他に薬物療法が開始されます。長く付き合っていく病気ですが、根気よく治療することが将来の生活を守ることにつながります。

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