

監修医師:
前田 広太郎(医師)
膝蓋骨骨折の概要
膝蓋骨骨折とは、膝蓋骨(膝のお皿の骨)にみられる骨折です。転倒や交通事故などで直接打撲することによる直接外傷や、高所からの着地などで間接的に受傷する間接外傷により骨折します。骨折のなかでは比較的まれな疾患ですが、ジャンプを行う競技者での疲労骨折などもみられます。症状としては膝前面の痛みや、膝を伸ばすことができないといった症状がみられます。多くは単純X線で診断可能です。多くが保存的治療で治癒し、膝関節が曲がらないように固定を行います(外固定)。開放骨折など骨折の程度が重症であったり、血行障害などがあれば手術を行います。
膝蓋骨骨折の原因
膝蓋骨は膝伸展の補助、関節の保護、大腿骨軟骨への栄養供給する働きがあります。膝蓋骨の上は大腿四頭筋の腱がついており、膝蓋骨の下には膝蓋腱が伸びて脛骨粗面に付いています。
膝蓋骨骨折は全骨折の1%程度を占め、成人、小児どちらにでも起こりうる骨折です。人によっては二分膝蓋骨といって、膝蓋骨の骨癒合の失敗により発生し、骨折線と誤診されることもあります。
骨折のパターンとしては、直接外傷、間接外傷に大きく分けられます。直接外傷としては、転倒や交通事故で膝前面へ直接衝撃が加わることが原因となります。高齢者では粉砕骨折・放射状骨折が多いです。
間接外傷としては、高所からの着地や全力疾走の急停止などで、大腿四頭筋が急激に収縮することにより、横骨折や剥離骨折が生じやすいです。
転位骨折の定義として、骨折部位で骨同士がずれて、正常な位置関係ではなくなっていることを転位といいます。膝蓋骨骨折では関節面の段差>2 mm、または骨片間隔>3 mmであれば整形外科的治療の適応となります。
骨折は膝蓋骨の横方向に骨折線ができる横骨折は、膝蓋骨の中~遠位部に多く、若年に多いとされます。粉砕骨折は高齢者に多く、直接外傷が主な原因です。膝蓋骨が縦に骨折することや、軟骨骨折、疲労骨折などはまれとされますが、スポーツ選手にみられることがあります。膝蓋骨疲労骨折は筋疲労により骨への負担が増大することと、筋収縮自体が骨へ繰り返しストレスをかけることにより生じるとされます。
膝蓋骨骨折の前兆や初期症状について
典型的な症状としては、膝前面の腫脹(関節血腫)と疼痛がみられます。膝を伸ばすことができない(膝伸展不能)、骨折部の圧痛や断裂部位を触れることもあります。疲労骨折の場合は、漠然とした膝前面の痛みを訴えることも多いです。
膝蓋骨骨折の検査・診断
膝前面の腫脹と疼痛がある場合、膝を伸ばせるかの評価を行います。患肢を机から垂らす、もしくは膝下にタオルを入れ、自力で膝が伸ばせるかどうかを確認する方法があります。他にも、膝を伸ばせるかどうかのテスト(膝を伸ばしたまま足を上げられるか)を行います。強い痛みで評価困難な場合は、関節穿刺や局所麻酔を併用して評価することもあります。間接穿刺で吸引された血種内に脂肪滴がみられれば骨折の存在を疑います。また、外傷を伴う皮膚損傷がある場合は、開放骨折の除外が必要です。神経の損傷がないか、血流異常がないかも確認します。
画像検査としては、単純X線が第一選択です。前後像、側面像などで評価を行います。側面像が最も有用で、骨片の転位を評価しやすいです。膝蓋骨の軸写も有用で、縦骨折や骨軟骨骨折が疑われた場合は診断の補助手段として役立ちます。膝蓋骨疲労骨折の場合はX線上の変化がみられるまで2~6週程度要することもあり、診断しにくい場合もあります。
超音波検査で大腿四頭筋腱〜膝蓋腱の評価を行うこともあります。腱と骨面の連続性の破綻(骨折)や血腫(低エコー域)を確認します。
高度画像検査(CT・MRI)は基本的には診断には不要ですが、骨折部の転位の程度が単純X線で判断しにくい場合はCTを撮像します。小児の膝蓋骨下極骨折はX線画像でも薄い剥離骨片しかみられない場合があり見逃されやすいです。
関節軟骨損傷や靱帯損傷の評価にはMRIが有用です。疲労骨折の初期でX線での画像変化が乏しい場合はMRIが有用とされます。疲労骨折の除外目的で骨シンチグラフィも使用されることがあります。
膝蓋骨骨折は膝部の外傷後に出現するため、鑑別すべき疾患はさまざまです。似たような症状をきたす病気としては、他の膝周囲の損傷(膝蓋骨脱臼・亜脱臼、大腿四頭筋腱や膝蓋腱断裂、大腿骨遠位端・脛骨近位端骨折、靱帯損傷、半月板損傷、筋挫傷)があります。特に大腿四頭筋 高エネルギー外傷(例:交通事故)では多発外傷の可能性もあり、CTやMRIの追加が必要なことも多いです。 一方、低エネルギー外傷では単独骨折が多く、X線と臨床所見でほとんど鑑別が可能です。 ただし、高齢者は軽微な外力でも複数の損傷を伴うことがあるため、膝蓋骨骨折以外の損傷がないか慎重にみる必要があります。
膝蓋骨骨折の治療
ほとんどの場合、緊急手術は必要なく、外固定のみで対応可能です。保存的治療ではニーブレースはシーネ固定などの外固定を行い、安静を保ちます。免荷での松葉杖歩行が可能であれば入院は不要ですが、高齢者など松葉杖歩行が困難な場合は入院も検討します。固定期間は通常4~6週程度とされ、完全な治癒は8~10週を目処とします。ハイレベルのアスリートで早期の協議復帰を望む場合や、初期の保存療法で改善がない場合は手術を検討します。
開放骨折や主要な血管損傷を合併している場合は緊急手術が必要となります。他、整形外科紹介の適応として、以下のいずれかを満たす場合、手術が必要となる可能性が高いため整形外科紹介が推奨されます。転位がある場合(関節面段差が2mm超、骨片間隔が3mm超)、粉砕骨折、膝伸展機構の断裂、上極・下極の剥離骨折(それぞれ大腿四頭筋腱・膝蓋腱の損傷を示唆)などです。また、 ただし、高齢・骨質不良・全身状態不良の患者では非手術的治療が選択されることもあります。
保存療法や手術療法においても、安静度に応じてリハビリテーションを行い、筋委縮や関節拘縮の予防をおこないます。
合併症として、非手術例では膝関節可動域制限(特に終末伸展障害といって膝を伸ばしきることができないこと)、筋力低下・筋萎縮(長期固定による)、非癒合(骨が上手くくっついていない)・膝蓋大腿関節痛、変形性関節症(特に粉砕骨折後に多い)などがありますが、多くは機能に重大な障害を残さず、リハビリで改善可能です。手術例では感染、金属疲労(ワイヤー破断)、可動域制限、骨壊死などがあります。
膝蓋骨骨折になりやすい人・予防の方法
膝蓋骨骨折の予防の方法としては直接的な外傷を避けること、高いところから飛び降りたり走っている途中に急に止まるなどといった運動を避けることです。膝蓋骨疲労骨折は全疲労骨折の約1%と頻度が低いです。平均発症年齢20.2歳で、バスケットボール、バレーボール、ハンドボールといった跳躍系のスポーツでの受傷が多いとされ、跳躍が多いスポーツをしている人は注意が必要です。
参考文献
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- 6)Up to date:Patella fructures




