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フレイルチェスト
松繁 治

監修医師
松繁 治(医師)

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経歴
岡山大学医学部卒業 / 現在は新東京病院勤務 / 専門は整形外科、脊椎外科
主な研究内容・論文
ガイドワイヤーを用いない経皮的椎弓根スクリュー(PPS)刺入法とその長期成績
著書
保有免許・資格
日本整形外科学会専門医
日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医
日本脊椎脊髄病学会認定 脊椎脊髄外科指導医
日本整形外科学会認定 脊椎内視鏡下手術・技術認定医

(KW)の概要

フレイルチェストとは、胸骨や2本以上の連続する肋骨が複数か所で骨折し、胸郭が不安定になった状態を指します。フレイルチェストがおきると胸郭運動が正常に行えなくなり、呼吸時に胸郭が不自然に動く「奇異呼吸」が認められるようになります

フレイルチェストは重篤な胸部外傷の一つであり、肺損傷を併発することも多く、呼吸不全などによって死亡するケースもある危険な状態です。深い呼吸や会話が難しくなるほどの強い痛みを伴うため、できるだけすみやかに医療処置を受ける必要があります。フレイルチェストの治療には、適切な呼吸管理や疼痛管理が不可欠であり、場合によっては人工呼吸器の装着や外科手術が必要となります。

フレイルチェスト

(KW)の原因

フレイルチェストの主な原因は多発肋骨骨折や胸骨骨折です。
外部からの強い衝撃、例えば交通事故、高所からの転落、転倒などによって肋骨が複数箇所で折れたことが原因で発症します。
心肺蘇生の際に強い外的圧力がかかって、胸骨骨折が生じた場合に、フレイルチェストに至る可能性もあります。

(KW)の前兆や初期症状について

フレイルチェストは主に外傷などの急性の原因で発症するため、前兆というものはありません。発症直後から見られる症状としてはには、呼吸困難や胸部痛が挙げられます。また、奇異呼吸や皮下気腫なども見られることがあります。

血痰(けったん)が見られる場合は、肺挫傷などを併発している可能性が高く、チアノーゼ(顔色や肌が紫色に変色)を呈しているときは低酸素血症が疑われ、どちらもより緊急の治療が必要になります。

呼吸困難

フレイルチェストでは、強い痛みのため、正常な呼吸が難しくなります。肺挫傷などを併発している場合を含め、重症の場合は呼吸困難となります。
呼吸困難を放置すると、呼吸不全により低酸素血症などの重篤なリスクがあります。
比較的軽症の場合でも、痛みや奇異呼吸により呼吸が浅くなりがちです。結果として肺の換気量が低下して、無気肺や肺炎などのリスクがあります。

胸部痛

フレイルチェストにおける胸部痛は、主に多発骨折によるもので、非常に強いです。また、痛みは発症後の呼吸や動作によって悪化する可能性があります。

奇異呼吸

フレイルチェストにおける奇異呼吸は、肋骨が複数箇所で骨折し、胸郭が不安定になることで発生する異常な呼吸の動きです。

具体的には、骨折により支持を失った胸壁の一部(骨格・筋肉・皮膚などからなり、フレイルセグメントと呼ばれます)が、他の胸郭と逆方向に動きます。すなわち、息を吸うと胸郭は外側に膨らむのに対し、フレイルセグメントだけが内側にへこみ、息を吐くと今度はフレイルセグメントだけが外側へ膨らんで飛び出したように見えます。

奇異呼吸はフレイルチェストを特徴づける症状ですが、自発呼吸が困難なほどの重症、もしくは極めて浅い呼吸になっているケースでは、奇異呼吸を目で見て確認できないことがあります。

皮下気腫

肺や気道が損傷されることで、空気が肺から漏れ出し、皮膚の下に溜まる状態を皮下気腫と言います。
皮下気腫自体は通常、生命を脅かすものではありませんが、重度な肺損傷や気胸などを合併している場合には早期の治療が必要です。

(KW)の検査・診断

診断には、画像検査(レントゲンやCT検査)が行われます。
また、呼吸状態をチェックするため、血中酸素濃度検査も実施されます。

画像検査

レントゲンやCT検査を通じて、肋骨や骨折の損傷の程度を確認します。
特に肋骨の骨折部位の特定や、胸郭の不安定な部分(フレイルセグメント)について詳しく調べます。

血中酸素濃度検査

酸素の取り込みが不十分になっていないかを検査します。
呼吸管理の方針を決めるうえで、重要な検査です。

(KW)の治療

治療には、慎重な呼吸管理や疼痛管理が重要です。
発症直後に、緊急の対応としてロール状のタオルでまいたり半周テーピングするなどの一次対応をすることもありますが、その後は適切な方法で患部を固定して治療します。人工呼吸器による呼吸管理や、外科的手術がおこなわれる場合もあります。

呼吸管理

軽度のフレイルチェストであっても、呼吸状態のモニタリングは慎重におこない、必要に応じてNPPV(非侵襲的陽圧換気)などを適用します。

肺挫傷を併発しているような重度のフレイルチェストでは、気管挿管後に人工呼吸器を用いた管理をおこないます。

疼痛管理

フレイルチェストの治療では痛みをしっかりと管理することが、自発呼吸や鎮静を助け、患者の回復につながります。
強い痛みを和らげるために、硬膜外ブロック注射やオピオイド系鎮痛薬(モルヒネ、フェンタニルなど)非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などが用いられます。
ただし、これらの疼痛管理では副作用のリスクを鑑み、使用期間や用量に注意する必要もあります。

手術

フレイルチェストの治療では、肋骨の不安定性を解消し、胸郭を安定させるために外科的手術が行われることがあります。
手術法には、金属バーを胸部に入れて固定するNuss法、プレートやねじで固定する観血的整復固定術(SSRF)、開胸を伴わない肋骨固定用プレートなどがあります。

呼吸リハビリテーションと再発防止

治療後は呼吸筋力などが低下しており、合併症などにも注意が必要です。したがって、フレイルチェスト から回復しても、呼吸リハビリテーションを継続し、呼吸機能の回復に努めることが大切です。
特に高齢者の場合や、損傷が大きかった場合、フレイルチェストは容易なきっかけで再発する恐れもあります。再発防止のための安全対策や、しっかりとしたリハビリテーション、経過観察が必要です。

(KW)になりやすい人・予防の方法

フレイルチェストは、災害や事故の際には、世代や性別に関わらず発症する可能性があります。高齢の人や骨粗鬆症患者など骨が弱くなっている人や、骨が未発達な幼児などが事故にあった場合は、発症リスクが高いと言えるでしょう。

また、スポーツ、アウトドア活動、運転、高所での作業など、胸部に強い衝撃を受ける可能性がある人はリスクにじゅうぶん注意し、安全対策を徹底するべきです。

偶発的な事故を完全に防ぐことは難しいですが、それぞれの環境で適切な安全対策がとられることで、フレイルチェストの発症や重症化を免れる可能性があります。

高齢者施設における転倒防止措置、自動車のシートベルトやエアバッグ、スポーツにおける防具やプロテクターの着用などが、安全対策の一例です。


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