監修医師:
松繁 治(医師)
岡山大学医学部卒業 / 現在は新東京病院勤務 / 専門は整形外科、脊椎外科
主な研究内容・論文
ガイドワイヤーを用いない経皮的椎弓根スクリュー(PPS)刺入法とその長期成績
著書
保有免許・資格
日本整形外科学会専門医
日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医
日本脊椎脊髄病学会認定 脊椎脊髄外科指導医
日本整形外科学会認定 脊椎内視鏡下手術・技術認定医
肩腱板損傷の概要
肩腱板損傷とは、肩関節を安定させる役割を持つ棘上筋•棘下筋•肩甲下筋•小円筋(回旋腱板)の一部が損傷する疾患です。
回旋腱板は上腕骨と肩甲骨の肩峰(けんぽう)に挟まれていて、腕を挙げるときなどに上腕骨の動きによってはさまされやすい構造をしています。
肩腱板損傷は腕を過度に使いすぎたり、加齢に伴う筋肉・腱の劣化が起きたりすることで、回旋腱板の挟み込みが生じて引き起こされます。重たい物を持ち上げる仕事や野球の投球動作、テニスのサーブを繰り返しおこなう人に生じやすいです。転倒などの外力も肩腱板損傷の原因になります。
主な症状は肩の運動障害や運動痛、夜間痛で、特に夜間痛は受診理由として多い症状です。似たような症状を訴える疾患で肩関節周囲炎がありますが、肩関節周囲炎と違って肩腱板損傷では肩関節の拘縮があまりみられません。
他に似た疾患で肩腱板断裂がありますが、損傷している範囲が異なります。肩腱板損傷は回旋腱板の一部が損傷していますが、完全にはちぎれておらず筋肉(腱板)の連続性が保たれています。一方で肩腱板断裂は筋肉(腱板)が完全にちぎれた状態であり、連続性がありません。完全に筋肉(腱板)が断裂した状態で回旋腱板が機能しないため、腕の挙上ができなくなることがあります。
肩腱板損傷の原因
肩腱板損傷の原因は、物を持ち上げたり投球動作をしたりするなど、頭の上に腕を挙げる動作が繰り返されることで腱板がすり減っていくことです。
上腕骨と肩峰の間で回旋腱板が挟み込まれることで、少しずつすり潰されて損傷します。そのほか転倒やスポーツで強く力を入れたときなど、強い外力がかかったケースでも損傷する可能性があります。
肩腱板損傷は全ての年代で起こる可能性があります。そのなかでも特に高齢者は、加齢により肩関節まわりの筋肉が萎縮することで回旋腱板が挟まれやすくなるため、発症するリスクが高いです。
肩腱板損傷の前兆や初期症状について
肩腱板損傷では前兆として肩を動かしたときの違和感が見られ、その後、初期症状として運動時痛が現れます。運動時痛は肩を動かしているときのみに感じる痛みであり、動作が完了すると痛みを感じないことが特徴です。
損傷の範囲が大きくなると痛みが強くなり、痛みを感じる動作も増えていきます。痛みによって肩関節の可動域も制限され、徐々に動かせる範囲が狭くなるケースもあります。痛みが大きくなって腱板に炎症が起きると、徐々に夜間痛が出現します。
肩腱板損傷の検査・診断
肩腱板損傷では、画像検査と徒手的検査を組み合わせて診断をおこないます。
画像検査
画像検査はレントゲンやMRI、エコーを用いておこないます。レントゲンでは、肩峰と上腕骨の距離が正常よりも近くなる特徴的な画像が確認できます。
MRIやエコーは、骨だけでなく回旋腱板の状態が確認できるため確定診断に有効です。MRIやエコーによって一部でも回旋腱板の連続性が途絶えている箇所があれば、肩腱板損傷と診断されます。一部でなく完全に腱板の連続性が途絶えていた場合には肩腱板断裂と診断されます。
徒手的検査
徒手的検査では、回旋腱板に直接負担をかけ、痛みが出るかどうかによって肩腱板損傷を診断します。腕を真横に挙げて保持している状態から下向きに力を加えたり、背中に回した手を背中から離すように動かしたりするときに、痛みが出るか確認するテストをおこないます。徒手的検査で、痛みが出現すれば肩腱板損傷の可能性が示唆されます。
肩腱板損傷の治療
肩腱板損傷では主に以下4つの治療をおこないます。
- 安静
- 薬物療法
- 理学療法
- 手術
安静
肩の痛みが強い場合には安静が有効です。特に転倒やスポーツなどの強い外力が加わって肩腱板損傷を起こしたり、夜間痛がみられるほど症状が強かったりする場合は、安静によって炎症を抑えることが大切です。肩を動かすことをできるだけ控えるだけでなく、必要に応じて三角巾で肩を固定することも効果があります。
薬物療法
薬物療法では注射や内服で痛みの軽減を図ります。夜間痛があり炎症反応が強い場合にはステロイド注射が効果的です。しかし糖尿病などステロイドが使用できない場合には局所麻酔薬が選択されます。炎症があまり強くない場合では、肩の動きを滑らかにするヒアルロン酸注射を検討することもあります。
内服薬では非ステロイド性消炎鎮痛薬で痛みの軽減を図ります。そのほか、湿布などの外用薬も有効です。
理学療法
理学療法では運動療法によって損傷した回旋腱板の機能回復を図ります。連続性が保たれている回旋腱板の筋力強化運動を繰り返すことで、痛みの軽減が期待できます。肩関節の可動域が狭くなっている場合では、可動域を広げる運動・ストレッチをおこないます。
運動療法以外に温熱や電気機器を利用した物理療法も効果的です。物理療法による回旋腱板への血流を促進することは、組織の修復や痛みを緩和させる効果があります。
手術
薬物療法や理学療法などの保存療法でも痛みが軽減できないケースでは、手術による腱板の修復を検討します。特に若年者のスポーツや転倒などの外力による肩腱板損傷では、損傷の範囲が大きいことも多いため、手術が検討されるケースが多いです。
損傷が軽度である場合では低侵襲である内視鏡での手術をおこなうため、術後の痛みが軽く社会復帰も比較的早くできます。しかし損傷の程度が大きい場合には肩を大きく切開して手術するケースもあります。その場合は、術後の痛みや社会復帰までの期間が長引く可能性があります。
肩腱板損傷になりやすい人・予防の方法
腱板損傷になりやすい人は、スポーツや仕事などで頭の上に腕を挙げる動作が日常的に多い人です。腕を頭の上に挙げると回旋腱板が上腕骨と肩峰に挟まれるため、回旋腱板のすり減りが起きやすく損傷するリスクが高まります。頭上に重たい物を繰り返し持ち上げる仕事や、野球やテニスをする人は特に注意が必要です。加齢によって回旋腱板の筋肉が萎縮することも、肩腱板損傷のリスクが高まりやすくなります。
肩腱板損傷の予防は回旋腱板を鍛えることです。チューブや軽いダンベルを使った腱板の筋力強化は腱板のすり減りを防ぐ効果が期待できます。肩関節や肩甲骨周囲の筋肉のストレッチも重要です。筋肉の柔軟性が高くなれば上腕骨や肩甲骨の動きが滑らかになり、挙上時の回旋腱板の挟み込みが少なくなるため、損傷するリスクが軽減されます。
関連する病気
- 肩腱板断裂
- 肩関節周囲炎
- インピンジメント症候群
参考文献
- 日本整形外科学会 肩腱板断裂
- 今田岳男 et al 腱板損傷の発生要因に関する解剖学的検討 肩関節23巻 第3号 1999
- 井樋栄二, 津村弘 et al 標準整形外科学第15版 医学書院 2023