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骨形成不全症
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

骨形成不全症の概要

骨形成不全症(こつけいせいふぜんしょう)は、骨が非常にもろく、わずかな衝撃でも骨折してしまう先天性の病気です。英語では「Osteogenesis Imperfecta(オステオジェネシス・インパーフェクタ)」と呼ばれ、「不完全な骨の形成」という意味があります。

この病気の特徴は、骨の弱さだけにとどまりません。耳の聞こえにくさ(難聴)や歯のもろさ(歯の形成異常)、目の白目部分が青みを帯びるといった特徴的な所見が現れることもあります。発症の仕方や重症度は人によって異なり、出生直後から重度の症状が見られる人もいれば、比較的軽症で、成長とともに骨折しやすさに気づくケースもあります。

骨形成不全症は珍しい疾患で、推定されている発生頻度はおよそ15,000〜20,000人に1人程度といわれています。難病に分類される病気でありながらも、医療の進歩によって治療法や生活の質の改善が進みつつあります。

骨形成不全症の原因

骨形成不全症の原因は、骨の強さに関わる「コラーゲン」と呼ばれるたんぱく質の異常にあります。コラーゲンは、骨の弾力性や柔軟性を保つために欠かせない成分で、丈夫な骨を作る土台ともいえるものです。

この病気では、コラーゲンを作るために必要な遺伝子(主にCOL1A1やCOL1A2といった名前の遺伝子)に生まれつき変化(突然変異)があり、その結果、正常なコラーゲンが作れなくなったり、作られても構造に異常があったりするのです。そのため、骨の質が不十分になり、ちょっとした力でも折れやすいという特徴が生じます。

この遺伝子の異常は、親から子どもに受け継がれる「遺伝性」の場合もありますし、家族に同じ病気の人がいなくても突然起こる「新生突然変異」の場合もあります。つまり、家族歴がなくても骨形成不全症になることはあります。

また、近年では、コラーゲン以外の部分に異常があるタイプの骨形成不全症も報告されており、研究が進むにつれてさらに多くの原因遺伝子が特定されつつあります。

骨形成不全症の前兆や初期症状について

骨形成不全症の最も代表的な初期症状は、「骨折しやすいこと」です。多くの場合、生後間もなくから骨折が見られます。出産時にすでに骨折していたり、抱きかかえただけでも骨にヒビが入るようなケースもあるほどです。成長に伴って転んだりぶつけたりしたときにも簡単に骨が折れてしまい、「骨折があまりに多い」と気づかれて診断につながることもあります。

また、骨の変形が目立つ場合もあり、脚が曲がってしまったり、背骨が曲がって「側弯症(そくわんしょう)」になることもあります。これにより身長の伸びが制限され、全体として小柄な体格になる傾向がみられます。

目の白目部分(強膜)が青く見える「青色強膜」も、比較的特徴的な所見です。皮膚が柔らかく関節が過度に動く「関節の過可動」や、歯の色が変色してもろくなってしまう「歯の形成不全」なども、骨形成不全症に伴ってよく見られる症状です。

さらに、思春期以降になると難聴が進行する場合もあり、骨の異常が耳の内部にまで影響を与えていることが原因とされています。これらの症状は個人差が大きく、すべての人に見られるわけではありません。

骨形成不全症の検査・診断

骨形成不全症の診断は、主に症状と病歴、画像検査、遺伝子検査によって行われます。まず、過去の骨折の回数やその原因、成長の様子、家族歴などを医師が詳しく確認します。出生時や乳児期に繰り返す骨折歴がある場合は、早期診断につながりやすくなります。

次に、レントゲン撮影を行って、骨の形状や骨密度を確認します。骨が通常より細く、曲がっていたり、変形していたりすることが多く、骨の密度も低く見えることが特徴です。また、背骨の圧迫骨折や側弯が見られることもあります。

さらに、骨密度の正確な測定には「DXA(デキサ)法」と呼ばれる特殊な検査が用いられます。これは、骨の中にどれだけのカルシウムが含まれているかを調べる検査で、骨形成不全症の重症度評価に役立ちます。

最終的な確定診断には、血液から遺伝子を調べる検査が行われます。コラーゲンを作る遺伝子に変異があるかどうかを調べることで、骨形成不全症であるかどうかを正確に診断することができます。近年では出生前診断や家族への遺伝カウンセリングも行われており、将来的な妊娠に向けた情報提供も可能です。

骨形成不全症の治療

骨形成不全症には、根本的に病気そのものを完全に治す治療法はまだ存在していませんが、さまざまな治療の組み合わせによって症状を軽減し、生活の質を向上させることは可能です。

まず、骨折を予防し、骨を強くすることを目的に「ビスホスホネート製剤」という薬剤が使われることがあります。これは骨の吸収を抑えて密度を上げる薬で、定期的に注射や点滴で投与されます。骨折の頻度を減らし、痛みを軽減する効果が報告されています。

骨折が起こった場合には、ギプスで固定したり、手術で金属の棒を入れて骨の安定性を保つ方法がとられます。特に足の骨や大腿骨が繰り返し折れる場合には、長期的な歩行機能を保つために整形外科的な手術が必要になることもあります。

日常生活では、理学療法や作業療法によって筋力を維持し、転倒を防ぐトレーニングが行われます。リハビリ専門の医療スタッフと協力しながら、無理のない範囲での運動や、装具の使用を検討することが大切です。

また、歯の治療や難聴への対応なども重要で、必要に応じて耳鼻科や歯科の専門医とも連携しながら総合的にサポートしていく必要があります。成長や思春期を迎えるにあたっては、心理的なケアや学校・社会生活への支援も欠かせません。

骨形成不全症になりやすい人・予防の方法

骨形成不全症は遺伝性の病気であるため、生活習慣や環境によって発症を予防することはできません。発症しやすいのは、生まれつきコラーゲンの遺伝子に変異を持っている人であり、多くは親からの遺伝によるものですが、家族に同じ病気の人がいなくても突然変異によって発症することもあります。

予防ができない病気であるからこそ、早期に診断し、適切な医療・生活支援を受けることが非常に重要です。また、すでに家族に骨形成不全症の人がいる場合には、出生前診断や遺伝カウンセリングを受けることで、将来の妊娠や出産に備えることもできます。

病気と診断されたあとに重要なのは、転倒や衝撃を避けるように工夫し、骨折のリスクを減らすことです。家の中の安全対策や、日常動作での注意点を整理しておくと安心です。また、ビタミンDやカルシウムをしっかり摂取し、医師の指導のもとで無理のない運動を取り入れていくことも、骨の健康を保つうえで有効です。

骨形成不全症は難病に分類される病気ではありますが、医療や社会支援制度の整備によって、以前よりもずっと前向きに日常生活を送ることができる時代になっています。正しい知識と支援を活かしながら、自分らしく生活していくことができるよう、医療者との連携が大切です。

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