監修医師:
江崎 聖美(医師)
眼窩底骨折の概要
眼窩底骨折は、顔面外傷の一種で、眼球を支える骨(眼窩)の底部に生じる骨折です。眼球を入れる骨の窪みを眼窩といい、この眼窩の入り口(眼の周囲)は丈夫ですが、その奥にある眼窩壁の鼻側から下壁(床)は薄い骨でできています。そのため、ボール等の衝撃による圧力が強いと眼の周りの骨は持ちこたえても、その歪みや圧力によって弱い眼窩壁が骨折します。顔面外傷の中でも比較的頻繁に見られる疾患です。この骨折は、直接的な衝撃や圧力によって引き起こされ、眼球周囲の組織や筋肉に影響を与え、視力や眼球運動に影響を及ぼす可能性があるため、適切な診断と治療が重要です。
眼窩底骨折の原因
眼窩底骨折の主な原因は、外部からの強い衝撃や圧力です。具体的にはボクシング、ラグビー、アイスホッケーなど、激しい接触があるスポーツでの拳や肘、ボールなどの衝突、交通事故、転倒や高所からの転落、暴力行為などによって外力が加わり、眼窩壁の歪みと急激な眼窩内圧の上昇が起こり骨折が生じます。
眼窩底骨折の前兆や初期症状について
眼窩底骨折の症状は、骨折の程度や位置によって異なりますが、一般的に以下のような症状が見られます。
- 眼の周囲の腫れや痛み
- 複視(物が二重に見える)
- 眼球運動の制限
- 頬部の感覚異常
- 眼球陥凹(眼球が落ちくぼんだように見えます。腫脹が強い時は突出して見えることもあります。)
- 結膜充血
- 血痰、鼻出血(副鼻腔に流れた血液が鼻腔に流れるため起こります。)
- 眼球の合併損傷(眼球に強い外力が加わると起こります。)
これらの症状が現れた場合、速やかに医療機関を受診することが重要です。休日や夜間は救急外来を受診することになりますが、平日の日中であれば眼科や形成外科を受診してください。医療機関によっては耳鼻咽喉科が対応しているところもあります。特に、見え方がいつもと異なる、複視や眼球運動制限があるなどの場合は眼科を、顔面の外傷が著しい場合は形成外科を受診することが望ましいでしょう。眼窩底骨折の適切な診断と治療には、これらの専門科の連携が必要になります。
眼窩底骨折がある場合、眼窩内の脂肪組織や眼を動かす筋肉などが骨折部からはみ出すことがあります。骨折部から眼の周囲組織に空気が入ってひどい場合には視力障害を起こしますので、眼窩底骨折がある場合は鼻をかんではいけません。また、眼球の周囲の筋肉(外眼筋)や脂肪組織が骨折部に挟まると眼球運動が制限されたり、眼球を動かした時に強い眼の痛み、吐き気や徐脈(脈が遅くなる)が起こります。外眼筋が骨折部に挟まって圧迫され続けると血流障害が起きて後遺症が残る場合もあるため、緊急手術の適応となります。
眼窩底骨折の検査・診断
眼窩底骨折の診断には、以下のような検査が行われます。
視診と触診
医師が視診と触診で顔面の腫れや変形、複視や眼球運動制限の有無、知覚の異常などを確認します。
眼科的な検査
視力・眼球の異常や眼球運動などを評価します。
画像検査
レントゲンやCT検査で骨折の詳細な位置や程度を把握します。必要に応じてMRI検査で組織の損傷を評価をすることがあります。特にCT検査が有用ですので、眼窩底骨折が疑われる場合はCT検査が受けられる医療機関を受診してください。
眼窩底骨折の治療
眼窩底骨折の治療方針は、骨折の程度や症状によって異なります。初めは腫脹の影響もあり症状を正しく評価できないこともあるので経過観察を行い、症状の改善を確認します。CT検査による骨折の状況、眼球のくぼみ具合(眼球陥凹)や眼球運動制限や複視の有無の程度から治療方針を決定します。眼窩壁の骨折があっても、複視や眼球陥凹などの問題となる症状が無ければ手術はしません。
保存的治療
軽度の骨折で症状が軽い場合に選択されます。安静、冷却などで経過観察します。
外科的治療
前述した眼窩内容が嵌頓した症例や重度の骨折、症状が改善しない場合、眼球陥凹が予想される症例は手術が選択されます。骨折部位の整復と眼窩内容物の整復が行われます。手術のタイミングは受傷後2週間以内が望ましいとされています。
手術は通常全身麻酔で行います。手術の切開は損傷部位や手術方針によって異なりますが、下まぶたのまつ毛に沿った皮膚を切開する方法、下まぶたの結膜を切開する方法などがあります。基本的には折れた骨を元に戻して、いずれ体に吸収されるプレートで固定します。自分の骨や軟骨、非吸収性の人工材料(シリコン、セラミック、チタン材など)を骨折部に移植することもあります。それ以外には、上顎洞という眼窩底の下にある空洞から風船を膨らませて骨片を挙上し、数週間留置しておく方法などがあります。
手術後は、感染予防のための抗生剤投与や、腫れを軽減するためのステロイド投与が行われることがあります。術後は一時的に腫れの影響により複視などの症状が増悪することがあります。術後は定期的な経過観察を行い、症状の評価や合併症の有無を確認します。術後リハビリを行うことが重要で、5円玉を目の前に吊り下げて目で追うなどの眼球運動訓練を行います。術後も1ヶ月程度は鼻をかむことを控え、コンタクトスポーツなども一定期間休んでいただく必要があります。
陳旧性の骨折(時間がたった骨折)に対しても手術が行われることがありますが、重症例や治療が遅れた場合には、眼球陥凹は改善できても複視や眼球運動障害が残存する可能性もあります。そのため、顔面に強い衝撃を受けた際には、速やかに適切な検査ができる医療機関を受診し、専門の医師の診察を受けることが重要です。
眼窩底骨折になりやすい人・予防の方法
眼窩底骨折は、特定の人がなりやすいというわけではありませんが、以下のような状況にある人はリスクが高くなる可能性があります。
- コンタクトスポーツ(ボクシング、ラグビーなど)の選手
- 外傷や交通事故のリスクの高い方
予防方法としては、以下のような対策が考えられます。
- スポーツ時の保護具の着用
- ヘルメットやフェイスガードの使用
- シートベルトの着用
- 転倒予防(高齢者の場合、バリアフリー化や手すりの設置など)
関連する病気
- 眼球陥凹
- 眼球運動障害
- 副鼻腔炎
- 気腫症
- 眼窩蜂窩織炎
- 眼窩内血腫
参考文献