監修医師:
木村 香菜(医師)
ユーイング肉腫の概要
ユーイング肉腫は、主に骨やその周囲の軟部組織に発生する希少な悪性腫瘍です。
特に小児および若年成人に多く見られ、10〜20代が最も発症しやすい年齢層です。
この腫瘍は、ヨーロッパ系の人々に多く見られる一方で、日本人では稀です。また、男性に若干多く発症する傾向があります。
ユーイング肉腫は主に骨に発生しますが、骨外型と呼ばれる軟部組織から発生するタイプも存在します。
ユーイング肉腫は速やかに進行することが多く、診断が遅れると肺や骨などに転移をきたすリスクが高まります。そのため、早期診断と適切な治療が予後に大きな影響を与えるため、迅速な対応が求められます。
ユーイング肉腫は他の骨肉腫と比較して放射線治療や化学療法に対して比較的感受性が高いことが特徴であり、手術とこれらを組み合わせた治療を行います。
若年で発症することもあり、こういった治療に伴う副作用も含め、治療終了後も長期にわたって通院が必要となります。そのため、小児慢性特定疾病の指定を受けています。
ユーイング肉腫の原因
ユーイング肉腫の正確な原因はまだ完全には解明されていません。しかし、遺伝的要因が強く関与していることが知られています。特に、ユーイング肉腫は特定の染色体異常、具体的には11番染色体と22番染色体の間で生じる遺伝子融合(EWSR1-FLI1融合遺伝子)が原因で発生します。
この異常な融合遺伝子は、細胞の異常な増殖を引き起こし、腫瘍形成に寄与します。この遺伝子融合は、ほぼすべてのユーイング肉腫患者さんで確認されており、ほかのがんと異なり、家族性の遺伝ではなく、発症する際に新たに生じる突然変異によるものと考えられています。
したがって、ユーイング肉腫は遺伝的素因よりも、偶発的な遺伝子異常が重要な役割を果たしていると考えられています。
ユーイング肉腫の前兆や初期症状について
ユーイング肉腫の初期症状は、腫瘍が発生する部位により異なりますが、主に骨盤や上下肢の骨、胸壁や脊椎に生じることがあり、一般的には痛みや腫れがよく見られる症状です。
特に上下肢の骨のような長管骨の中央付近に生じやすいとされています。また、この痛みは特に夜間に悪化することが多く、通常の筋肉痛や関節痛と区別がつきにくいことがあります。また、患部が腫れることで、皮膚が赤くなったり、熱感を伴うこともあります。
進行すると、腫瘍が大きくなることで局所的な圧迫症状が現れ、例えば、脊椎に発生した場合には神経圧迫による麻痺や感覚障害が生じることがあります。また、発熱や体重減少などの全身症状も見られることがあります。
症状が現れた場合は小児科または整形外科などを受診しましょう。
ユーイング肉腫の検査・診断
ユーイング肉腫の診断には、画像検査と病気の一部を取り出して顕微鏡などでみる病理検査を行います。
画像検査
まずX線検査やMRI、CT、PET-CTなどの画像診断が行われます。これにより、病変の位置や大きさ、周囲組織への浸潤の程度を確認し、周囲の臓器との位置関係を正確に把握することができます。ほかにも転移を起こしやすいとされている肺や他の骨の状態も同時に確認することができます。
病理検査
確定診断のためには、腫瘍の一部を採取して行う生検が不可欠です。病変から一部の組織を採取し、組織学的にユーイング肉腫と診断することができます。顕微鏡を用いて形態をみるだけでなく、前述のEWSR1-FLI1融合遺伝子などの遺伝子変異を確認するために、分子生物学的検査も行います。
ユーイング肉腫の治療
ユーイング肉腫の治療は、特に限局性と呼ばれる病変が発生した部位のみにとどまっている状態では根治を目指して化学療法、外科手術、および放射線治療を組み合わせた集学的治療が主流です。
他の部位に転移している状態では化学療法を主体にほかの治療を組み合わせながら治療を行います。治療の選択肢は、腫瘍の大きさや位置、転移の有無、患者さんの年齢や体力といった全身の状態などを考慮して決定されます。
化学療法
ユーイング肉腫は化学療法に対して高い感受性を持つため、治療の中心となります。多くの場合、診断直後から化学療法が開始され、腫瘍を縮小させることで外科的切除を容易にします。主要な薬剤としては、ビンクリスチン、ドキソルビシン、シクロホスファミド、イホスファミド、エトポシドなどが使用されます。治療は通常、複数の薬剤を組み合わせたレジメンで行われ、6ヶ月から1年以上続くことが一般的です。
外科手術
手術は、可能な限り腫瘍を完全に切除することを目的とします。切除範囲は腫瘍の大きさや浸潤の程度によって異なり、場合によっては機能温存のための再建手術も必要となります。四肢に発生した場合、従来は切断手術が一般的でしたが、近年では機能をできる限り保つための切除と再建が進歩しています。
また、手術だけでは取り切れない場合や、機能や形態を温存したい場合などでは後述の放射線治療と組み合わせる場合もあります。長期的な生活も見据えて相談しながら治療方針を決定していきます。
放射線治療
放射線治療は、腫瘍の局所制御に有効であり、特に脊椎などの手術が困難な部位や完全切除が困難な場合に用いられます。他にも機能や形態の温存のために選択する場合もあります。また、手術後に残存腫瘍がある場合や、再発のリスクが高い場合にも手術後に追加されることがあります。
ユーイング肉腫になりやすい人・予防の方法
ユーイング肉腫のリスク因子として、明確に特定されているものは少ないですが、前述のように後天的と考えられる遺伝子異常が強く関与しています。したがって、現時点でユーイング肉腫を予防する明確な方法は確立されていません。家族歴がなく、一般的な生活環境では予防が難しい腫瘍であるため、定期的な健康診断や症状が現れた場合の早期受診が重要です。
特に、長期間にわたる原因不明の骨痛や腫れを経験している場合は、早急に医療機関を受診することが推奨されます。早期発見と迅速な治療が予後を改善するための鍵となります。
参考文献