監修医師:
眞鍋 憲正(医師)
肘内障の概要
肘内障(ちゅうないしょう)とは、肘に起こる小児特有の亜脱臼です。「腕が抜けた」「肘が外れた」などと表現されることも多いですが、実際は肘を構成する骨である橈骨(橈骨頭)が靭帯(橈骨輪状靭帯)からずれた状態のことを指します。
肘内障は2〜6歳程度の小児に頻発し、7歳以上では発症しにくくなる特徴があります。親と手を繋いでいる時に転倒する、子ども同士のケンカで引っ張り合うなど、手を引っ張られることで発症するケースが多いです。しかし親が見ていないところでの転倒や、赤ちゃんの寝返りなどで発症する可能性もあり、原因がはっきりしないことも少なくありません。
肘内障を発症すると痛みによって腕を動かせなくなり、少し肘を曲げたまま腕を下げた姿勢になることが特徴です。
肘内障では骨折や脱臼の鑑別のためにレントゲン検査を行うこともありますが、レントゲン検査では異常な所見は得られません。前腕を回外(手のひらを上に向ける動作)させつつ橈骨頭を抑え、ゆっくり肘を曲げていくと整復されます。
整復によって橈骨頭が元の位置に戻ると途端に腕を動かすようになり、大きく泣いている子どもが泣き止むことも珍しくありません。固定も必要ないことがほとんどで、日常生活では特に制限することなく腕を動かせます。ただし、腕を引っ張ると再発の恐れがあるため注意が必要です。
肘内障の原因
肘内障の主な原因は、何らかのきっかけで肘関節から橈骨頭が外れる力が加わることです。
肘内障が発症する具体的なシチュエーションとしては、以下のようなことが挙げられます。
- 子どもと手を繋いでいて、転びそうになったため引っ張った
- 子ども同士がケンカして引っ張りあった
- 転んで手をついた
- 赤ちゃんが寝返りした際に腕が引っかかった
このように、手を引っ張られることや転倒などの外力によって橈骨頭が橈骨輪状靭帯からずれることで肘内障を発症します。
橈骨は手のひらを上・下に向けるという捻る動作で主に動く骨であり、橈骨輪状靭帯はその動きを支えて関節内から外れないよう留めてくれる靭帯です。しかし、小児では橈骨輪状靭帯が発達しきっておらず、支えが不十分であるために肘内障が発症します。
そのため、肘内障の多くは橈骨輪状靭帯の発達が不十分な2〜6歳程度の幼児期に発症し、成長と共に発症しにくくなることが特徴です。しかし、まれに6歳以上でも肘内障を発症することがあります。
肘内障の前兆や初期症状について
肘内障は腕を引っ張られたり転倒したりした時の外力が原因であるため、発症前の前兆はありません。初期症状としては、泣き叫ぶほどの急激な痛みが生じます。大きな痛みを伴うため腕を動かそうとせず、肘を少し曲げて腕を下げたままにする特徴があります。
肘内障は亜脱臼であり、組織の損傷がないため腫れや内出血などの炎症症状はみられません。腫れや内出血などの炎症症状が見られた時には骨折や脱臼などとの鑑別が必要です。
肘内障の検査・診断
肘内障の検査・診断は問診とレントゲン画像で行います。肘内障を発症する子どもの多くは手を引っ張られたなどのエピソードがあり、痛みを訴えます。もし具体的なエピソードがあり、明らかに肘内障が疑われる場合にはレントゲン検査を省略して整復治療をすることもあります。
しかし、親が見ていないところで転倒して腕を動かさなくなったという子どももいるため、肘内障に至った原因がわからないことも少なくありません。
具体的なエピソードがわからない場合には、骨折(上腕骨外顆骨折・肘頭骨折など)や脱臼(肘関節脱臼)との鑑別が重要です。骨折であればレントゲン検査で異常所見として骨折線が確認でき、脱臼であれば関節から骨が外れている様子がわかります。
また、骨折や脱臼であれば痛みのほか腫れ・内出血などの炎症所見があります。そのため、視診で全身状態のチェックをすることも重要です。
肘内障の治療
肘内障の治療では医師による整復を行います。前腕を回外させつつ橈骨頭を抑え、ゆっくり肘を曲げる方法が一般的です。問題なく整復されると、「コク」っというクリック音がなり、はまり込む感覚が得られます。
整復には麻酔は必要なく、1分以内に整復できることがほとんどです。多くの子どもは整復直後から泣き止み、動かさなかった腕も動かすようになります。その後固定する必要もなく、日常生活に制限はありません。
しかし、なかには肘内障を再発する子どももいるため、肘内障の整復後も少し様子を見る必要があります。もし痛がったり動かしたがらない場合には時間をおいて再び整復します。
肘内障になりやすい人・予防の方法
肘内障は2〜6歳の幼児に発症しやすい疾患です。性別差や左右差などによる発症のしやすさは報告されていません。橈骨輪状靭帯が発達しきっていない幼児に発症しやすく、成長と共に発症しにくくなる特徴があります。
肘内障の予防方法としては腕を引っ張らないようにすることが挙げられます。特に親子で手を繋いで歩いている時の転倒や子ども同士のケンカによる取っ組み合いで発症することが多いため、このようなシチュエーションを避けることが予防方法といえます。
しかし、親の見ていないところでの転倒や赤ちゃんの寝返りによって発症する可能性もあり、完全な予防は難しいでしょう。
整形外科や小児科で処置してもらえば大きな問題にならないことがほとんどですので、肘内障が疑われる場合は迅速に整形外科・小児科を受診することが大切です。
関連する病気
- 肘関節脱臼
- 上腕骨外顆骨折
- 肘頭骨折