監修医師:
伊藤 規絵(医師)
頚椎症性脊髄症の概要
頚椎症性脊髄症とは加齢や外的要因により頚椎が変形し、脊髄が圧迫されることで発生する疾患です。
この病気は、頚椎の椎間板の変性や骨棘の形成に起因し、脊髄に対する圧迫が主な原因とされています。
頚椎症性脊髄症の症状は多岐にわたります。
一般的には、首の痛み、手足のしびれ、感覚障害、巧緻運動障害(手指の動きが悪くなること)、歩行障害、さらには膀胱や直腸の障害が見られます。
特に高齢者では、転倒による脊髄損傷のリスクが高まるため、注意が必要です。
診断は、患者さんの症状に基づく臨床評価と、X線やMRIなどの画像検査により行われます。
X線では頚椎の変性変化が確認され、MRIでは脊髄の圧迫が明らかになります。
ただし、検査結果だけで診断することは難しく、症状の把握が重要です。
治療法には、保存的治療と手術療法があります。
保存的治療では、理学療法や薬物療法が行われ、症状の改善を図ります。
一方、日常生活に支障をきたす場合や、症状が重篤な場合には手術が検討されます。
加齢に伴う変化が主な原因であり、早期の診断と適切な治療が重要です。
特に高齢者においては、転倒や外傷による合併症を防ぐための注意が求められます。
頚椎症性脊髄症の原因
加齢に伴う頚椎の変性が主な原因と考えられております。
具体的には以下の要因が複合的に作用し頚椎症性脊髄症を引き起こします。
加齢による変性
年齢とともに、椎間板は水分を失い、弾力性が低下します。
この結果、椎間板が薄くなり、頚椎の間隔が狭くなります。
また、頚椎を支える靭帯が加齢とともに肥厚したり、椎骨の周囲に骨棘(骨の突起)が形成され、これが脊髄や神経根を圧迫する原因となります。
繰り返しの負荷
日常生活や仕事における首の使い方、特に長時間の同じ姿勢や重い荷物を持つことが、頚椎に対する負担を増加させます。
これにより、頚椎の変性が加速し、脊髄への圧迫が生じることがあります。
外的要因
外傷や事故による頚椎への直接的なダメージも、頚椎症性脊髄症の発症に寄与することがあります。
これらの外的要因は、頚椎の構造を変化させ、脊髄を圧迫することがあります。
頚椎の変性により脊柱管が狭くなると、脊髄が圧迫され、脊髄視床路や後索路、皮質脊髄路などの神経伝導路が障害されます。
これにより、首の痛みや手足のしびれ、運動機能の低下などの症状が現れます。
特に、脊髄が圧迫されることで、両側に症状が出ることが特徴です。
このように、頚椎症性脊髄症は加齢や生活習慣、外的要因が複雑に絡み合って発症する疾患であり、早期の診断と適切な治療が重要です。
頚椎症性脊髄症の前兆や初期症状について
最も一般的な初期症状は、手や指先、腕のしびれです。
これらのしびれは、脊髄とそこから分岐する神経根が圧迫されることによって引き起こされます。
また、手足における感覚の異常も初期症状として現れることが多いようです。
具体的には、冷たさや熱さを感じにくくなる、または痛みを感じるなどの感覚の変化が見られます。
そのほかにも、手指を使った細かい作業が困難になる「巧緻運動障害」が認められます。
例えば、ボタンをかける、箸を使うといった動作が難しくなることがあります。
さらに、首の痛みやこりを感じることもあります。
これは頚椎の変性に伴うもので、痛みが肩や背中に放散することもあります。
頚椎症性脊髄症は進行性の疾患であり、初期症状が軽微であっても、数ヶ月から数年の間に症状が悪化することがあります。
特に高齢者では、症状の自覚が遅れることが多いため、注意が必要です。
稀に、急速に症状が進行し、数週間で歩行困難に至るケースもあります。
症状が持続したり悪化したりする場合は、適切な診断と早期治療のために医療機関を受診することが重要です。
頚椎症性脊髄症の病院探し
整形外科や脳神経外科、脳神経内科(神経内科)の診療科がある病院やクリニックを受診して頂きます。
頚椎症性脊髄症の検査・診断
問診
症状の詳細、経過、日常生活への影響などを聴取します。
神経学的診察
頚椎の可動域制限や上肢の筋力低下、下肢の痙縮の有無、感覚障害の有無、腱反射の亢進や低下・消失、病的反射の有無、膀胱直腸障害などを評価します。
画像検査
X線検査では頚椎の脊柱管の狭窄や椎間板の狭小化、骨棘形成などの変性所見を確認します。
MRI検査では脊髄の圧迫状態(脊髄の信号変化の有無や圧迫の程度)を直接確認し評価できます。
ただし、骨性変化による圧迫は明確に描出されないことがあります。
CT検査では靭帯の骨化や骨棘による脊柱管狭窄をより詳細に評価できます。
生理学的検査
体性感覚誘発電位検査や運動誘発電位検査により、後索路や皮質脊髄路の障害の程度や部位を評価できます。
脊髄造影(ミエログラフィー)
必要に応じて脊髄造影を行い、脊柱管内の神経組織の圧迫の位置や程度を視覚化し評価を行います。
これらの検査結果を総合的に判断し、症状と合わせて診断を行います。
また、頚椎症性神経根症と頚椎症性脊髄症は、症状が片側性か両側性かで区別されますが、時に区別が困難な場合もあります。
画像所見のみでなく臨床症状との整合性が重要です。
鑑別診断
脊髄腫瘍や脊髄梗塞などほかの神経疾患との鑑別も重要です。
診断の際は、詳細な病歴聴取と神経学的診察、画像検査、生理学的検査が重要です。
頚椎症性脊髄症の治療
主に保存的治療と手術的治療に分けられます。
多くの患者さんに対しては、まず保存的治療が試みられます。
保存的治療の内容は以下の通りです。
安静と頚椎カラーの使用
急性期には頚椎カラーを装着し、首の動きを制限して安静を保ちます。
薬物療法
消炎鎮痛薬(NSAIDs)や筋弛緩薬を使用し、痛みや炎症を軽減します。
また、神経障害性疼痛に対しては、Ca2+α2δリガンド(ミロガバリンやプレガバリンなど)や、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤(SNRI)、三環系抗うつ薬(TCA)が第一選択薬として用いられます。
理学療法
理学療法士によるリハビリテーションも重要です。
ストレッチや筋力強化運動を通じて、頚部や肩周りの筋肉を強化し、柔軟性を向上させることが目指されます。
これにより、再発のリスクを低減することができます。
症状が重度で日常生活に支障をきたす場合、手術が検討されます。
手術の適応となるのは、重度の痛みやしびれが保存的治療で改善しない場合や、上肢の筋力低下や麻痺が進行する場合、再発を繰り返す場合です。
手術方法には、脊髄の圧迫を取り除くための頚椎前方除圧固定術があります。
この手術では、頚部の前側からアプローチし、圧迫の原因となっている骨や靭帯を切除します。
手術は通常2時間ほどで、入院期間は約1週間程度です。
術後には、声がかすれることがあるものの、多くの場合、時間が経つにつれて改善します。
また、治療後も定期的な経過観察が必要です。
よって、頚椎症性脊髄症の治療は、患者さんの症状や生活状況に応じて個別に最適な方法を選択することが求められます。
頚椎症性脊髄症になりやすい人・予防の方法
高齢者に多く見られる疾患ですが、特定のリスク要因がある人々が発症しやすいとされています。
加齢に伴い、椎間板や骨の変性が進行し、頚椎症性脊髄症のリスクが高まります。
特に、50歳以上の人々は注意が必要です。
長時間にわたり首を前に傾ける姿勢や、重い物を持ち上げる作業を行う職業の人は、頚椎に負担がかかりやすく、リスクが増加します。
例えば、デスクワークや運転手、建設作業者などが挙げられます。
また、家族に頚椎症や脊髄の問題を抱える人がいる場合、遺伝的な要因が影響しやすいとされています。
運動不足や肥満、喫煙などの生活習慣も、頚椎への負担を増加させ、発症リスクを高める要因です。
予防は日常生活や仕事において、正しい姿勢を保つことが重要です。
特に、デスクワークを行う際は、モニターの高さを調整し、首を無理に曲げないように心掛けます。
定期的な運動により、首や肩の筋肉を強化し、柔軟性を向上させることが有効です。
ストレッチや筋力トレーニングを取り入れることも大切です。
健康的な体重を維持することで、頚椎への負担を軽減できます。
バランスの取れた食事と適度な運動が推奨されます。
喫煙は血流を悪化させ、椎間板の健康に悪影響を及ぼすため、禁煙が推奨されます。
参考文献