監修医師:
松繁 治(医師)
岡山大学医学部卒業 / 現在は新東京病院勤務 / 専門は整形外科、脊椎外科
主な研究内容・論文
ガイドワイヤーを用いない経皮的椎弓根スクリュー(PPS)刺入法とその長期成績
著書
保有免許・資格
日本整形外科学会専門医
日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医
日本脊椎脊髄病学会認定 脊椎脊髄外科指導医
日本整形外科学会認定 脊椎内視鏡下手術・技術認定医
捻挫の概要
捻挫とは、関節に外力が加わって起こるケガのうち、骨折・脱臼ではないものを指します。靭帯や筋肉の腱、軟骨に起こるケガであり、レントゲン画像では異常がみられないことが特徴です。
捻挫が起こる主な要因としては以下が挙げられます。
- スポーツ中の接触
- 交通事故
- 急な方向転換
- 転倒
このような状況で強い外力が関節にかかることで捻挫を発症します。捻挫をした関節は組織の損傷により腫れや痛みがみられますが、1〜2ヶ月で強い痛みは軽減し、日常生活では支障がなくなることがほとんどです。そのため、治ったと勘違いしたスポーツ選手が無理をしてしまい、二次的な関節障害を発症することもあるため注意が必要です。
また、捻挫をしても腫れや痛みを感じにくい靭帯・軟骨の損傷の場合は、捻挫の発症に気づけない場合もあります。
捻挫の原因
捻挫の原因はスポーツ・日常生活における強い外力です。スポーツ中の激しいぶつかり合いや日常生活での急な方向転換、転倒が要因として挙げられます。関節ごとの主な原因は以下のとおりです。
関節 | 捻挫の原因 |
手関節 | 転倒など |
肩関節 | 柔道やラグビーでの接触、転倒など |
頚椎・腰椎 | 交通事故や重いものを持ち上げる動作など |
膝関節 | スポーツなどでの急な方向転換、ジャンプ動作など |
足関節 | スポーツ中や階段で足を踏み外すなど |
このような外力に対して、関節が本来とは逸脱した動きを強制されてしまうことで捻挫が生じます。
捻挫の前兆や初期症状について
捻挫の主な初期症状は関節の腫れ・痛みです。捻挫の重症度が高くなるほど腫れ・痛みともにひどくなる傾向があり、大きな捻挫では内出血もみられます。
捻挫をすると腫れ・痛みによって動かせないことも多々あり、放置しておくと関節機能が低下して可動域制限につながるため注意が必要です。また、靭帯損傷の程度が大きいと関節の不安定性が残存してしまい、捻挫を繰り返す可能性もあります。そのため、応急処置で適切な処置を施し、損傷した組織の修復を促していくことが重要です。
なお、捻挫では初期症状の腫れ・痛みが少なく、損傷に気づけない組織もあります。捻挫した直後は痛くてもすぐに症状が落ち着いたため受診しなかったという人が、関節の不安定性を呈した例もあるため、応急処置と適切な医療機関への受診が重要だといえます。
捻挫の検査・診断
捻挫の検査ではレントゲン・MRIなどの画像検査を行います。捻挫した関節において骨折・脱臼の可能性を除外するためにレントゲン検査が重要です。
捻挫でどの組織が損傷しているのか確定診断するために、必要に応じてMRI検査を行うことがあります。MRIではレントゲンで撮影できない靭帯や軟骨といった軟部組織の映像を確認できるため、捻挫による損傷組織や重症度の確定診断に有効です。
また、超音波による捻挫の靭帯損傷評価も有用とされています。スポーツなどの現場では、持ち運びできる超音波を使用し、ケガをした直後の診断に役立てることもあります。
捻挫の治療
近年、捻挫の治療では、「PEACE&LOVE」という考え方が一般的になっています。いくつかの治療の頭文字をとった処置の考え方で、それぞれ以下の表に記載する処置を行います。
Protection 保護 | 痛みが強い間は安静にする |
Elevation 挙上 | 心臓より高い位置に足を上げる |
Avoid anti-inflammatories 抗炎症薬を避ける | 痛み止めを過剰に使用しない |
Compression 圧迫 | 患部を圧迫して過剰な腫れを防ぐ |
膝Education 教育 | 薬や医療従事者に頼った受け身な姿勢を避ける |
Load 負荷 | 徐々に患部への負荷を高める |
Optimism 楽観的思考 | 前向きな気持ちで痛みの慢性化を防ぐ |
Vascularisation 血流を増やす | 組織の回復を早める血流を促す |
Exercise 運動 | 運動で筋力・可動域・バランスの回復を図る |
捻挫の治療において重要なことは、痛みがあるときには安静にしつつも、少しずつ負荷をかけて運動を促していくことです。ケガをした時の応急措置としてアイシングは有名ですが、アイシングや抗炎症薬は適切な回復を阻害する可能性が示唆されています。炎症は組織の回復過程において重要な工程であり、アイシングや抗炎症薬はその回復過程を阻害する可能性があるためです。
そのため、炎症による影響を最小限にしつつ、組織の回復に必要な炎症反応を邪魔しないようにするために「PEACE&LOVE」という考え方のもと治療が進められます。
さらに、軟部組織の損傷度が大きく痛みが強いときにはサポーターやギブスで患部を固定し、松葉杖を使って体重をかけないようにします。痛みの回復と共に徐々に体重を乗せていき、リハビリで筋力や可動域、バランス感覚向上に向けた運動を進めていきます。
捻挫になりやすい人・予防の方法
以下に挙げる特徴がある人は捻挫になりやすいといえるでしょう。
- 靭帯が柔らかく関節の支持性が弱い人
- 筋力が低い人
- バランスが悪く転倒しやすい人
靭帯は関節の安定性を高めてくれる重要な組織であり、その靭帯が柔らかいということは関節の支えも弱い状態といえます。加えて、筋力も弱ければ関節の安定性がより低くなり、捻挫を発症するリスクが高くなります。
また、転倒は捻挫を発症する要因です。そのためバランスが悪く転倒が多い人は、捻挫を発症するリスクが高くなります。
このような捻挫のリスクに対する予防としては、サポーターを使用して関節の支持性を高める方法があります。加えて、関節を支えてくれる筋肉を強化していくこと、バランス能力を鍛えていくことも有効です。
日頃から運動し、筋力・バランス能力を鍛えることで捻挫しにくい体づくりができるといえるでしょう。
関連する病気
- 膝前十字靭帯損傷
- 前拒腓靭帯損傷
- 外傷性頸部症候群
参考文献