

監修医師:
岡田 智彰(医師)
脊髄損傷の概要
脊髄は、以下のような機能を担っています。
- 運動の制御
- 感覚の伝達
- 反射機能
- 自律神経系の調節
脳からの運動指令を筋肉に伝えることで、意図的な身体の動きを可能にします。これには、歩行、手足の動作、呼吸などが含まれます。
皮膚や内臓からの感覚情報(痛み、温度、触覚など)を脳に伝えることで、外界の状況や身体の状態を認識させます。
脳を介さずに直接反応を返す「反射」を司ります。例えば、熱い物に触れたときに手を引っ込める動作は、脊髄反射の一例です。
心臓、胃腸、血管などの自律機能を調節する役割も持っています。これにより、体温調節や消化、血圧の維持が行われます。
脊髄損傷とは、脳からの指令を全身に伝える脊髄が傷つくことで、このような感覚や運動機能に障害が生じる状態です。脊髄損傷の原因には、交通事故や転倒、スポーツなどの外傷が多く、脊柱の骨折や脱臼によって脊髄が損傷されることがあります。また、腫瘍や感染症によって脊髄が圧迫されることも原因となります。
脊髄損傷の症状は、以下のように損傷部位によって異なります。
- 頸髄(首の部分)の損傷
- 胸髄(胸の部分)の損傷
- 腰髄(腰の部分)の損傷
全身の四肢や呼吸筋に影響を与える可能性があり、重度の場合は四肢麻痺や呼吸不全を引き起こすことがあります。
腰から下の運動と感覚に影響を与え、下半身麻痺を引き起こすことがあります。
下肢の運動と感覚に影響を与え、場合によっては排尿や排便機能にも障害をもたらすことがあります。
損傷部位によってリハビリテーション計画の策定や将来的な機能回復の見込みが異なり、神経学的な評価や画像検査(MRI、CTスキャンなど)を用いて行います。
治療法には損傷の範囲に応じた手術、リハビリテーション、薬物療法などがあります。早期に診断され、適切な治療が行われれば、機能回復が期待できる場合もあります。予防には交通安全の徹底や、スポーツや作業中の安全対策が重要です。
脊髄損傷の原因
脊髄損傷の原因は多岐にわたりますが、大きく分けて外傷性と非外傷性のものがあります。
外傷性脊髄損傷
- 外傷
- スポーツ外傷
- 落馬、落車、体操の平均台や跳馬からの着地失敗、柔道などで受け身を失敗した際の事故等もあります。
- 転倒
車やバイクなどの交通事故による強い衝撃によってがダメージを受けることがあります。
特にラグビー、アメリカンフットボール、アイスホッケーなど衝突が許可されている競技、特に頭を下げてぶつかり合うラグビー、アメフトは最多です。
高齢者やバランスを崩しやすい人に多く見られます。特に高所からの転落は深刻な損傷を引き起こすことがあります。
非外傷性脊髄損傷
- 脊髄腫瘍
- 脊柱管狭窄症
- 感染症
- 自己免疫疾患
良性または悪性の腫瘍が脊髄やその周囲に発生し、圧迫を引き起こすことがあります。
加齢に伴う椎間板の変性や骨の変形が原因で脊髄が圧迫される状態です。
特定のウイルスや細菌感染が脊髄に炎症を引き起こし、神経機能に影響を及ぼすことがあります。
多発性硬化症などの免疫系の異常が脊髄を攻撃することで損傷が生じることがあります。
脊髄損傷の前兆や初期症状について
脊髄損傷の症状は、損傷の部位や程度によって異なりますが、一般的には以下のような症状が見られます。
- 運動機能の障害
- 感覚の障害
- 自律神経機能の障害
- 痛みと痺れ
- 呼吸困難
脊髄損傷により、運動機能が部分的または完全に失われることがあります。損傷の部位によって、四肢麻痺や下半身の麻痺が発生します。特に頸髄損傷では、腕や手の動きに影響が及ぶことがあります。
感覚機能が低下または消失し、痛み、温度、触覚が感じられなくなることがあります。これも損傷の部位によって異なり、影響を受ける範囲が変わります。
排尿や排便のコントロールが困難になることがあります。また、体温調節や血圧の調整が難しくなることもあり、自律神経機能が全般的に低下します。
損傷部位やその周辺で慢性的な痛みや痺れが発生することがあります。これは神経への直接的な損傷や二次的な神経炎症が原因で、時に不可逆的になることがあります。
頸髄損傷の場合、呼吸筋が麻痺し、呼吸困難や呼吸不全を引き起こすことがあります。
外傷性脊髄損傷の場合、救急搬送などで運ばれることが大半ですが、上記のような症状を感じたときはまずは整形外科を受診してみましょう。
脊髄損傷の検査・診断
脊髄損傷の診断は、症状や発生した状況、過去の病歴を問診したうえで身体診察では運動機能や感覚の評価を行い、どの程度の麻痺や感覚障害があるかを調べます。身体診察の内容やその他のより詳しい検査としては主に以下の方法があります。
神経学的検査
- 筋力
- 感覚
- 反射
- 神経伝導検査
各筋肉群の力を評価し、麻痺の程度を確認します。
触覚、痛覚、温度感覚などの感覚テストを行い、損傷の部位と範囲を特定します。
深部腱反射や表在反射を確認し、神経系の反応を評価します。
神経の電気的活動を測定し、伝達速度や応答性を確認します。これにより、損傷部位がどの程度の機能障害を引き起こしているかを評価します。
画像診断
- X線検査
- CTスキャン
- MRI検査
骨の状態を確認し、脊椎の骨折や脱臼の有無を調べます。
骨の構造や損傷の詳細な情報を得るために使用されます。特に骨折や骨の変形がある場合に有効です。
軟部組織、脊髄、神経根の状態を高精度で確認できます。脊髄の損傷程度や腫瘍の有無を評価するために重要です。
脊髄損傷の治療
脊髄損傷の治療には多岐にわたるアプローチが必要であり、急性期から慢性期に至るまで、患者さんの全体的な健康と生活の質を向上させるための総合的な管理が求められます。
- 急性期治療
- 呼吸リハビリテーション
- 長期的管理とリハビリテーション
- その他の治療
急性期の脊髄損傷は、迅速な対応が重要です。損傷部位を安定化した上で早期のリハビリテーション開始を目指します。腫瘍による圧迫に対してはそれを取り除く手術、骨折や脱臼による圧迫に対しては骨を削ったりインプラントで固定したりする手術が行われます。手術が終わってなるべく早めにリハビリテーションを開始できるよう、脊柱を固定できる装具を用いることがあります。他にも急性期の管理で特に、頸髄損傷の場合は、呼吸機能の管理が重要です。人工呼吸器の使用や気管切開が必要なケースもあります。
脊髄損傷による呼吸機能障害に対しては、呼吸筋トレーニングや咳介助も行われ、患者さんのQOL向上を目指します。
脊髄損傷後の長期的な管理には、運動機能の回復と社会復帰を目指した包括的なリハビリテーションが含まれます。リハビリテーションは早期から開始され、理学療法や作業療法を通じて、筋力強化、歩行訓練、日常生活動作の自立支援が行われます。また、四肢の麻痺を始め、生活への影響も大きく、精神的なサポートも重要です。
一部の症例では、移植治療や再生医療の研究が進んでおり、将来的な治療法として期待されています。ただし、現時点では安全性と有効性が確立されていないため、臨床応用は限定的です。
脊髄損傷になりやすい人・予防の方法
脊髄損傷のリスクが高い人には以下の特徴があります。
- 高齢者
- 若年者
- 特定の職業
骨粗鬆症やバランス能力の低下により転倒リスクが高い。
活発なスポーツやリスクの高い活動に従事することが多い。
建設業や高所作業、重労働に従事している人。
脊髄損傷の予防には以下の方法があります。
- 安全運転
- 適切なスポーツ用具の使用
- 環境整備
- 健康管理
シートベルトの着用や適切な運転技術の習得が重要です。
ヘルメットやプロテクターの着用で怪我のリスクを軽減します。
家庭や職場での転倒防止策、階段や浴室の安全対策が必要です。
ロコモやフレイルにならないような対策が推奨されます。
参考文献




