監修医師:
岡田 智彰(医師)
橈骨遠位端骨折の概要
橈骨遠位端骨折とは、転倒して手をついた際に起こることが多い骨折です。
骨折線の位置や関節内で生じているかなどでColles(コーレス・コレス)骨折、Smith(スミス)骨折、Barton(バートン)骨折などに分類されます。
Colles骨折は、転倒した際に手のひらをついたことで起こることが多く、骨折の中で最も頻度の高いものの一つです。
Smith骨折では、手の関節を掌屈して手背をついて倒れた時などに起きやすい骨折で、骨折線がColles骨折とは逆のことから、逆Colles骨折とも呼ばれています。
また、Barton骨折では橈骨遠位部の関節内骨折のことを指し、遠位骨片が手根骨とともに背側に転位しているものを背側Barton骨折、掌側に転位しているものを掌側Barton骨折といいます。
わが国での人口1万人あたりの発生率は10.9〜14人、性差は男性:女性=1:3.2と女性のほうが多くなっています。
発生率は加齢とともに増加し、70歳以上の発生率は若年に比べて男性で2倍、女性で17.7倍となりますが、80歳頃を超えたあたりからピークを迎え、それ以降は減少していきます。
橈骨遠位端骨折の原因
橈骨遠位端骨折は、立った状態から転倒して発生するなどの低エネルギー骨折が最も多く、原因の49〜77%を占めています。
低エネルギー骨折とは骨粗しょう症などで骨が脆弱になり、転倒や尻もちなど少しの外傷で骨折を生じるもので、女性に多い傾向です。
対して、交通事故や高い所から転落するなどの高エネルギー骨折は男性に多い傾向にあります。
受傷時期としては冬季が多い傾向です。これは、路面凍結で滑って転ぶなどの要因が関係していることが示唆されます。
橈骨遠位端骨折の前兆や初期症状について
橈骨遠位端骨折の前兆や初期症状としては、患部の痛みや腫れ、圧痛、橈骨遠位部の変形(silver fork変形またはdinner fork変形)などがみられます。
変形または腫れが生じると正中神経を損傷する可能性があり、受傷側の第2指の先端がしびれたり、第1指から第5指のつまむ力が弱くなったりします。
気になる方は整形外科を受診しましょう。
橈骨遠位端骨折の検査・診断
診断には、問診や身体診察、X線検査を行い、関節内骨折の確認のためにCT検査を用いることもあります。
問診・身体診察
問診では受傷原因や痛みの程度、受傷した部位を動かせるかどうかを聴取していきます。
身体診察では、変形などの有無や皮膚の下で起きている皮下骨折なのか、皮膚の外に骨が飛び出しているような開放骨折なのかも確認します。
そして、血管や神経の損傷の有無や程度、筋肉や靭帯などの損傷の程度などを注意深く観察していきます。
X線検査・CT検査
単純X線正面像・側面像にて骨折の有無を確認します。
診断や治療法を決定する際にCT検査は有用で、さらに3DーCTも併せて用いることでより正確な関節内骨折の評価が行えます。
橈骨遠位端骨折の治療
橈骨遠位端骨折の治療方法としては、保存的治療と手術療法が選択されることが多いです。
保存的治療
橈骨遠位端骨折の70〜90%は保存的治療が選択され、骨折によるズレが小さい場合や徒手整復で良好な位置に戻せた場合に、ギブスやシーネで受傷部を固定します。
骨折初期の場合は浸潤麻酔または腋窩麻酔下で行い、ギプス固定を行います。
手術療法
治療全体に占める割合は20〜30%で、男性よりも女性で選択されることが多い傾向です。
手術療法にはプレート固定や経皮的鋼線固定などの術式があります。
手術療法が最も増加している50〜74歳では、保存療法が困難なほどズレがおおきかったり粉砕していたりするケース、手を使う職業などで長期ギプス固定を望まず早期の社会復帰を望むケースで手術によるプレート固定を行う割合が増え、保存的治療を選択することが減少しています。
橈骨遠位端骨折になりやすい人・予防の方法
橈骨遠位端骨折になりやすい人・予防の方法について以下に詳しく解説します。
橈骨遠位端骨折になりやすい人
橈骨遠位端骨折では、以下で紹介する方がなりやすいとされています。
- 高齢の方
- 女性の方
- 低体重の方
- BMI値が低い方
- 一人暮らしをしている方
- グルココルチコイド(ステロイドホルモン)を含んだ薬剤を使用したことがある方
- 骨粗しょう症や骨量減少がみられる方
上記以外にも危険因子はさまざまあり、高エネルギー骨折となりやすい方では、男性の方や田舎暮らしをしている方などが挙げられます。
橈骨遠位端骨折の予防の方法
橈骨遠位端骨折を予防するには、まずは転倒しないように日常生活で気をつけていかなければなりません。
高齢になると、加齢による筋力低下が進み転倒リスクが増加傾向にあります。
転倒を予防するには適度な運動や栄養バランスが摂れた食生活が欠かせません。
また、認知面や視覚・聴覚がしっかりしていることも重要です。
転びやすい場所の把握も重要となってきます。
転倒は自宅で発生することが多く、玄関の段差や滑りやすい浴室、階段などをチェックして、対策を講じることが大切です。
また、足元が不安な方は杖や歩行器などの歩行補助具を使用することも転倒予防につながります。
階段では手すりを使用し、歩行の際にはご自身の足に合った適切な靴を履くようにしましょう。
参考文献