監修医師:
岡田 智彰(医師)
大腿骨頸部骨折の概要
大腿骨頸部骨折は、ふとももの骨が股関節の部分で折れることです。
大腿骨頸部骨折に関係する股関節は、付け根部分でボールの形をした大腿骨頭と、骨盤側で受け皿になるお椀の形をした臼蓋とが組み合わさった関節です。
そして、大腿骨頸部とは大腿骨頭の下の細くくびれた部位のことをいいます。
なお、歩く場合は体重の3〜4倍の力が股関節にかかるといわれており、この大きな負担を人の体の中で最も大きい骨である大腿骨が支えています。
また、大腿骨は非常に丈夫なだけでなく、多くの筋肉や腱などで全体を覆われて安定性を保っています。
このように、大腿骨頸部は体重を支える重要な役割を担っているため、この部位を骨折してしまうと、日常生活に大きな影響を与えます。
大腿骨頸部骨折は、大腿骨頚部内側骨折と大腿骨頚部外側骨折に分類され下記のような特徴があります。
大腿骨頚部内側骨折
関節包という袋の内側で大腿骨頚部がおこる状態です。
この関節包内は血流が乏しいため、骨がくっつきにくい傾向ですが、外側骨折に比べて痛みは軽く、受傷直後は歩けることもあるのが特徴です。
大腿骨頚部外側骨折
関節包外で大腿骨頚部がおこる状態です。
関節包の外側は血流がよいため骨がくっつきやすい傾向ですが、内側骨折に比べて痛みは強く感じる場面が多いようです。
この大腿骨頚部骨折は、高齢者を中心に、国内では年間で多くの方が発症しており、寝たきりになる主要な原因の1つとなっています。
本邦では今まで以上に高齢者の人数が増加する見込みのため、症状に合わせた迅速な対応を行うことが重要です。
大腿骨頸部骨折の原因
大腿骨頸部骨折の主な原因は高齢者による転倒・転落が多い傾向です。
高齢者になると、加齢に伴う身体機能の低下によって、筋力やバランス能力が低下してしまうため、転倒・転落の危険性が高くなります。
また、骨の強度も若年者と比較すると低下してしまうため、高齢者になると弱い力が加わっただけでも骨折する場合があります。
実際、大腿骨頸部骨折は40歳頃から年齢とともに発生率が高くなり、その発生率は70歳を過ぎると急激に高くなるといわれています。
また、男女差を比較しても、骨の強度から男性よりも女性の方が発症しやすい傾向です。
高齢者以外でも、交通事故・転落事故などのように、大きな外力が加わると若い年齢でも大腿骨頸部骨折を発症する場合がありますが、頻度は少なくなります。
大腿骨頸部骨折の前兆や初期症状について
大腿骨頸部骨折は、上記で説明したように、主な原因は転倒・転落などのように突発的に発症することが多く、その際は前兆や初期症状はありません。
しかし、骨粗鬆症が進行していることが理由で、転倒転落がなくとも、立ち上がろうとしたり踏ん張ったりしたときに自らの体重や動きにより折れることもあります。
大腿骨頸部骨折を発症した場合は、股関節部分に突然強い痛みが生じて、立ったり歩いたりすることが難しくなり、この痛みは動かすことによってより強くなります。
軽症の骨折の場合は、必ず立ったり歩いたりすることができないということはなく、痛みはあるものの歩ける場合もあります。
そのため、転倒・転落などによって少しでも股関節の痛みを感じる場合は、大腿骨頸部骨折を発症している可能性があるためすぐに整形外科を受診しましょう。
大腿骨頸部骨折の検査・診断
大腿骨頸部骨折の検査・診断は総合的に判断して診断します。
まず最初に問診や触診を行います。
問診では、今回の症状はどのような状況で発生したのかや、痛みの部位などを確認します。
その後、受傷した下肢の短縮や外旋の有無、触診を行い痛みの部位や程度を評価します。
問診や触診の結果、より詳細な評価が必要と判断した場合は、画像診断を行います。
なお、画像診断は下記のようなものがあります。
単純X線写真
大腿骨頸部骨折を疑った際に、簡単で有効なスクリーニング検査を行いたい場合は単純X線写真で評価します。
両股関節の正面像と痛みが出ている股関節側の側面の2方向からの撮影を行い、骨折の有無などを評価します。
CT(コンピュータ断層撮影)検査・MRI検査
単純X線写真を行った結果、骨折が強く疑われるものの骨折が確認できなかった場合や、最適な治療法を決定するために詳細な骨折の画像を必要とする場合などはCT検査・MRI検査を行います。
MRI検査は、頻度は少ないですが、骨折だけでなく靭帯など軟部組織の状態を評価したい場合に行う場合もあります。
また、単純X線写真の場合は経験のある医師が評価しなければ骨折の診断率が異なります。
使用頻度は少ないですが、骨折がはっきりしない場合はMRI撮影で確定診断が可能となります。
また靭帯などの軟部組織の状態を評価したい場合にも撮影されます。
大腿骨頸部骨折の治療
大腿骨頸部骨折の治療は内側・外側ともに骨折の重症度によって治療を決定します。
内側骨折の分類は、ガーデン分類で、骨折の状態やズレの程度によって下記のようにステージⅠ〜Ⅳの4段階に分類されます。
ステージⅠ
骨にヒビが入っている不完全骨折の状態では、治療は手術を行わない保存療法または骨接合術が主です。
ステージⅡ
完全に骨折していますが、骨の位置は変わっていません。治療は主に骨接合術を行います。
ステージⅢ
完全に骨折しているだけでなく、骨の位置も変わっています。治療は骨接合術や人工骨頭置換術を行います。
ステージⅣ
完全に骨折しており、骨の位置も大きく変わっている状態です。治療は人工骨頭置換を行います。
外側骨折の分類は、エバンスの分類で評価しますが、内側骨折と比較して痛みも強いことが多いため、骨接合術を選択する頻度が高くなります。
上記の通り、大腿骨頸部骨折を発症した場合は手術療法が第一選択です。
特に高齢者の場合は、骨折をきっかけに寝たきりとなってしまう場合もあるため、できる限り早期に手術を行い、リハビリテーションの実施が求められます。
なお、実際の手術療法は下記のようになります。
骨接合術
折れた骨を金属の器具で固定する手術で、CCHSやハンソンピンというインプラントを使用します。
人工骨頭置換術
骨折部分を切除して、大腿骨のつけ根部分だけを替える手術です。
髄内釘固定術
主に外側骨折で使用され、髄内釘(ずいないてい)を挿入して固定します。
大腿骨頸部骨折になりやすい人・予防の方法
大腿骨頸部骨折は、すべての年齢層で発症する可能性があります。
しかし、その中で特に大腿骨頸部骨折になりやすい人は次のような特徴があります。
1つ目は高齢者です。高齢者になると筋力やバランス能力が低下し、転倒・転落をする危険性が高まり、大腿骨頸部骨折を発症しやすくなります。
特に70歳を過ぎた女性は発症率が高いためより注意が必要です。
2つ目は骨粗しょう症です。
骨密度に問題がない場合でも大腿骨頸部骨折を発症する危険性はありますが、骨粗しょう症の場合は少しの衝撃が加わっただけでも骨折してしまう方もいるため注意が必要です。
そのほか、親が大腿骨頸部骨折を発症したことがある、喫煙、野菜果実の摂取不足などがあります。
大腿骨頸部骨折の予防方法として、骨粗しょう症の治療薬やカルシウム・ビタミンDなどを摂取して、骨密度を高めることで骨折する危険性を下げることができます。
また、ウォーキングやランニングなどの定期的な運動を取り入れることでバランスが向上したり筋力がアップしたりし、リスクが下がります。
週に1〜2回など、最初は無理のないペースで運動を始めてみましょう。
参考文献