監修医師:
白井 沙良子(医師)
くる病の概要
くる病は、骨の石灰化障害により弱い骨がつくられてしまう小児の疾患です。
ビタミンDが不足すると、カルシウムやリンが体内に吸収されにくくなります。それにより、骨を形成する過程で重要な石灰化がうまくいかず、骨がやわらかくなったり、変形したり、折れやすくなったりします。
身長の伸びが悪くなる成長障害、O脚やX脚などの骨変形、背骨の弯曲、関節部の盛り上がりなどの症状がみられます。
ビタミンDの不足によるくる病を「ビタミン欠乏性くる病」といい、このほか、生まれつき血中のリンが低値である「低リン血症性くる病(ビタミンD抵抗性くる病)」や、体内に必要なビタミンDがあっても代謝がうまくできない「ビタミンD依存性くる病」があります。
骨端線(発育期の骨に存在する軟骨の層)が閉鎖する前の小児期に生じる骨の石灰化障害を「くる病」と呼び、骨端線の閉鎖後になって生じた場合は「骨軟化症」と呼ばれます。
くる病の原因
くる病の原因は、主にビタミンDの不足です。
ビタミンDは食物から摂取する方法と日光浴により皮膚で生合成される方法があります。ビタミンDには、食物中のカルシウムやリンが腸から吸収されるのを促進する働き、吸収したカルシウムやリンが骨基質へ沈着するのを調整する働きなどがあります。
ビタミンDが不足すると骨を構成するカルシウムやリンが不十分となり、弱く脆い骨が形成されてしまいます。カルシウムやリンの摂取不足もくる病の原因となります。
低リン血症性くる病(ビタミンD抵抗性くる病)やビタミンD依存性くる病は、遺伝子の変異が原因となっている場合があります。
くる病の前兆や初期症状について
くる病は骨が弱く、やわらかく、曲がりやすくなる疾患です。
子どもでは乳歯が生えるのが遅い、身長の伸びが悪い、下肢が曲がる(O脚やX脚)、転びやすいなどの症状がみられる場合、くる病が疑われることがあります。
健診などでこれらの症状を指摘された場合は、念のため小児科や整形外科を受診することをおすすめします。
またビタミンD不足により、低カルシウム血症(血中のカルシウム濃度が低下すること)を起こし、手足や背中の筋肉のけいれんが生じることがあります。
くる病の検査・診断
問診や診察でくる病が疑われた場合、血液検査や尿検査、骨のX線検査を行います。血液検査では、血液中のカルシウム、リン、ビタミンDの濃度や、骨の合成に必要な酵素であるアルカリフォスファターゼの濃度を調べます。
ほとんどの場合、くる病では血中リン濃度の低値、アルカリホスファターゼの高値がみられます。ビタミンD欠乏性くる病ではビタミンDが低値となり、けいれんの症状がある乳児ではカルシウムも低値になります。
腎臓からのリンの排泄増加が原因となっている低リン血症性くる病では、尿中のリンの高値がみられます。くわしい原因を特定するため、FGF23というホルモンの血中濃度の測定や遺伝子検査が行われることもあります。
骨X線検査では、手首や膝の骨にくる病に特徴的な骨の変化があるかを確認します。
くる病の治療
くる病の治療の基本は、ビタミンD製剤などの薬物投与です。またカルシウムが不足している場合には、カルシウム製剤などの内服治療も行います。
あわせて食事療法と日光浴を行うことが推奨されます。
ビタミンD欠乏性くる病では、ビタミンDやカルシウムの不足を補うため、カルシウムを多く含む食品(乳製品、小魚、豆類、野菜類、海藻など)、ビタミンDを多く含む食品(イワシ、サンマ、サケなどの魚、きのこ類など)を摂取します。また、紫外線に当たることでビタミンDの生成が促進されるため、適度な日光浴が推奨されます。
低リン性くる病では、継続的なリン製剤やビタミンD製剤などの内服治療が行われます。最近では、FGFの過剰が原因の低リン性くる病に対する新たな治療薬(ブロスマブ)も開発され、使用できるようになりました。
低リン性くる病はビタミンD欠乏性くる病と異なり、食事やサプリメントに含まれる天然型ビタミンDの摂取は効果がありません。
くる病になりやすい人・予防の方法
母乳はビタミンDの含有量が少ないため、完全母乳の赤ちゃんではそうでない赤ちゃんよりもビタミンDが不足しがちであり、くる病になるリスクが高まる可能性があります。
また、妊娠中は母体からビタミンDを摂取するため、母親がビタミンD不足だと赤ちゃんもビタミンD不足になってしまいます。ビタミンDの不足によるくる病を予防するため、妊娠中からビタミンDを多く含む食品(イワシ、サンマ、サケなどの魚、きのこ類など)を積極的に摂取するようにしましょう。
乳児用のビタミンDサプリメントもありますが、ビタミンD不足時に補助的に使用するにとどめ、小児の場合は食事などから自然にビタミンDを摂取するほうが好ましいです。サプリメントによる過剰摂取のリスクもあるため、必ず医師の指示に従うようにしましょう。
紫外線による皮膚がんのリスクなどを気にして、紫外線の曝露を避けて極端な外出制限を行っている場合や日焼け止めクリームの過度な使用も、必要量のビタミンDの生合成が行われず、ビタミンDが不足してくる病になりやすくなる可能性があります。適度な日光浴(夏期は10〜15分、冬期は1時間程度)により、ビタミンD不足にならないよう注意することがくる病の予防になります。
関連する病気
- 骨軟化症
- ファンコニ症候群
- テント病
- 骨粗しょう症
- 腎性骨異栄養症
- リウマチ性多発筋痛症
- 強直性脊椎炎
- 低ホスファターゼ症
参考文献