監修医師:
眞鍋 憲正(医師)
腰椎分離症の概要
腰椎分離症は、腰の背骨(以下、腰椎)に圧力がかかり、ひびが生じる疲労骨折です。腰椎の一番下の骨(第5腰椎)によく発生します。
スポーツを活発に行う10歳代前半の成長期に多く見られ、ジャンプや腰を回旋させる動きを繰り返し行い、腰に負担をかけることで発症しやすいです。スポーツ選手の約30〜40%が腰椎分離症を経験しています。
進行すると腰椎が前方や後方にずれる「腰椎分離すべり症」へ移行し、痛みの悪化やしびれ、動きにくさ、排尿排便障害などの神経症状が現れる可能性があり、注意が必要です。
腰椎分離症の主な症状は、腰の痛みや不快感です。特に運動や身体活動後に痛みが増し、症状が進行すると、腰からお尻、さらには足にまで痛みが放散します。また、長時間の立位や、前屈みの姿勢が困難になることもあります。これらの症状は、日常生活に大きな影響を及ぼすため、早期の診断と適切な治療が必要です。
腰椎分離症は、適切な管理と治療によって症状をコントロールすれば、通常の活動を再開できます。日常生活での注意点を把握し、予防策を講じることで、発症リスクを減少させるように努めましょう。
腰椎分離症の原因
腰椎分離症の多くは、スポーツなどによる腰椎への過度なストレスが主な発症の原因です。その他にも遺伝的な要因が考えられています。
スポーツによる原因
腰椎分離症の主な原因は、腰椎に繰り返し加わるストレスや負荷です。この疾患は特に若年者やスポーツ選手に多く見られ、スポーツや重労働で腰椎の特定の部位に繰り返し負担をかけることが主な原因とされています。
特に腰を反らしたり、回旋させたりするスポーツが原因となりやすく、野球やバスケットボール、サッカー、柔道、ラグビー、ウエイトリフティングなどでみられやすいです。
遺伝的要因
遺伝的要因も腰椎分離症の発症に関わる可能性があります。家族に腰椎分離症の患者さんがいる場合、脊椎疾患の発症に影響を及ぼす可能性があると考えられます。また、腰椎の解剖学的構造や骨の強度などの個人差も発症リスクに関係します。
成長期の身体的変化
骨の成長期において、急激な成長が腰椎に対する負荷を増加させ、腰椎分離症を引き起こす要因の一つになると考えられています。
腰椎分離症の前兆や初期症状について
腰椎分離症の前兆や初期症状は、日常生活の中で注意深く観察する必要があります。初期段階では、自覚症状がほとんどなく、軽度の腰痛や違和感として現れることが多いです。特に運動後や長時間の立ち仕事、座り仕事の後に腰部の痛みや疲労感が増す場合は、腰椎分離症の初期症状の可能性があります。
腰部の痛みや不快感
初期の腰椎分離症の症状としては、腰部の軽い痛みや不快感が挙げられます。この痛みは、安静時には軽減しやすく、運動や身体活動後に増加する傾向があります。また、腰を反らす動作や体をひねる動作を行った際に、痛みを感じることもあります。これらの症状は、一時的なものとして見過ごされがちですが、繰り返し現れる場合は注意が必要です。
お尻や足に見られる神経痛
腰椎分離症が進行すると痛みは徐々に強くなり、腰からお尻、さらには足にかけて広がる可能性があります。このような痛みは、神経の圧迫によって引き起こされる神経痛といい、悪化すると日常生活に支障をきたしかねません。さらに、腰部のこわばりや動きの制限、長時間の立位や座位が困難になることもあるため、症状が見られた場合は、医師の診察を推奨します。
腰椎分離症は早期に対応することで、症状の進行を予防できます。日常生活で感じる腰の痛みや違和感を放置せず、専門的な検査を受けることで適切な治療を受けられるでしょう。腰椎分離症の検査や治療を受けるには、整形外科への受診が推奨されます。
腰椎分離症の検査・診断
腰椎分離症は早期の診断によって症状の悪化を食い止められます。発症初期に原因となるスポーツを休止せずに継続した場合、骨癒合が進まず、将来の腰痛の危険因子となってしまうのです。CTやMRI、X線などの画像検査を実施し、痛みの原因となっている箇所を見極めていきます。
X線・MRI・CT検査
まずは基本的にX線検査を行いますが、X線検査をしても骨折部位がわかりにくい場合、 MRI検査やCT検査で確認します。腰椎分離症はCT検査により、初期・進行期・終末期といった時期の区分が可能です。MRI検査は、X線やCT検査ではわかりにくい早期の段階でも診断が可能で、椎間板ヘルニアとの鑑別にも有用です。
整形外科的診察
症状、発症のエピソード、これまでの他の疾患、家族歴といった患者さんの情報と共に整形外科的徒手テストを行い(腰を反らしてもらうなど)診断します
腰椎分離症は、患者の詳細な問診、画像診断、身体検査の結果を総合的に評価し、診断を行います。診断が遅れると症状が悪化するリスクがあるため、腰部の痛みや不快感を感じた場合は、早めに医師の診察を受けることが重要です。
腰椎分離症の治療
腰椎分離症の治療は、保存療法が一般的です。また、強い腰痛が長期にわたり、日常生活やスポーツに支障がある場合は、手術が適応になります。
保存療法
保存療法は骨癒合の促進や痛みを取り除く目的で行います。具体的には、運動の制限コルセットを用いて腰部を固定します。固定の期間は3ヶ月を基準にし、骨癒合の状況に応じて固定期間の延長も検討します。
発症初期や進行期は骨癒合の可能性がありますが、慢性期になると骨癒合は期待できません。慢性期では痛みなどの症状のコントロールが治療目的となります。コルセットの着用や薬物療法、神経ブロックなどに加え、ストレッチ、筋力トレーニング、生活指導を実施します。
手術療法
保存療法でも改善せず、日常生活に支障が出る場合は手術を検討します。分離した部分に偽関節がないか確認し骨移植を行う分離部修復術や、椎骨と椎骨の間への骨移植やスクリューを使って固定する椎体間固定術などが一般的な手術療法です。手術後は、リハビリテーションを通じて腰部の機能回復を図ります。
腰椎分離症になりやすい人・予防の方法
腰椎分離症はスポーツをする成長期の若年者や、スポーツ選手に生じやすい疾患です。遺伝的な要因や成長期の身体的変化も原因となる疾患ですが、適切な運動や休息によって予防につながります。
腰椎分離症になりやすい人
腰椎分離症は若年者やスポーツ選手に見られやすい疾患です。野球やバスケットボール、サッカー、ラグビー、ウェイトリフティングなど、腰に繰り返し負担がかかるスポーツは、腰椎分離症の発症率が高くなる傾向にあります。また、骨が完全に成熟していない成長期の子どもや若年者も、過度な運動や負荷により腰椎にダメージを受けやすいです。
遺伝的要因も腰椎分離症のリスクを高めることがあります。家族に腰椎分離症を経験した人がいる場合、遺伝的に同じ疾患を発症しやすい可能性があるため初期症状を見逃さないようにしましょう。
腰椎分離症の予防法
腰椎分離症の予防には、適切な運動と生活習慣の改善が重要です。腰部の筋力を強化し、柔軟性を高めるためのストレッチを定期的に行うことが推奨されます。特に腹筋や背筋を鍛えることは、腰椎の安定性を保つために効果的です。また、適切な姿勢を保つことも予防に役立ちます。長時間の同一姿勢や背中が丸くなってしまう座位姿勢は、腰椎に余分な負担をかけるため避けるようにしましょう。
さらに、適度な休息と体のケアも予防において重要です。過度な運動や活動を避け、適度に体を休めることが予防の第一歩となります。スポーツ選手やアスリートは、定期的に身体のメンテナンスを行い、適切なトレーニング方法を指導する専門家のアドバイスを受け、正しい身体の動かし方を知ることも予防につながるでしょう。
参考文献
- 病気が見えるVol.11 運動器・整形外科(書籍)
- 日本整形外科スポーツ医学会
- 社会法人恩賜財団 済生会
- 日本整形外科学会
- 整形外科疾患ビジュアルブック第2版(書籍)
- K Haukipuro,et al/Familial occurrence of lumbar spondylolysis and spondylolisthesis,CLINICAL GENETICS,1978,13(6)
- 徳島県医師会
- 杉浦史郎、他 発育期腰椎分離症に特徴的な所見 腰痛の状況別VAS、部位、性質に着目して 一般社団法人日本整形外科スポーツ医学会 2017 Vol.37(1)
- 山口県医師会
- 標準整形外科学(書籍)
- 全部みえる整形外科疾患(書籍)