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テニス肘
松繁 治

監修医師
松繁 治(医師)

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経歴
岡山大学医学部卒業 / 現在は新東京病院勤務 / 専門は整形外科、脊椎外科
主な研究内容・論文
ガイドワイヤーを用いない経皮的椎弓根スクリュー(PPS)刺入法とその長期成績
著書
保有免許・資格
日本整形外科学会専門医
日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医
日本脊椎脊髄病学会認定 脊椎脊髄外科指導医
日本整形外科学会認定 脊椎内視鏡下手術・技術認定医

テニス肘の概要

テニス肘は、肘の外側に痛みを感じることが特徴の症状で、正式には上腕骨外側上顆炎(じょうわんこつがいそくじょうかえん)と呼ばれます。この症状は、主に前腕の筋肉とその付着部である肘の外側上顆に過度な負荷がかかることで引き起こされます。テニスをしている人に多く見られるためテニス肘という名前がついていますが、実際にはテニス以外の原因で発症することが多いので注意が必要です。

テニス肘は特定の動作や負荷によって引き起こされるため、症状が現れた際には早期の対処が必要となります。適切な休息や治療を行うことで、症状の悪化を防ぎ、回復を促すことが可能です。まずは、テニス肘の具体的な原因について詳しく見ていきましょう。

テニス肘の原因

テニス肘は主に、以下のような動作や状況がテニス肘の原因となります。

スポーツによる原因

テニス肘は、テニスやゴルフ、バドミントンなどのラケットを使うスポーツで起こりやすい疾患です。これらのスポーツで手首をそらす動きを繰り返すことで、前腕の筋肉にストレスがかかり、結果として痛みが起こります。病名からテニスのやり過ぎで起こりやすいと思われがちですが、実際はテニスが原因で起こるのは一割弱です。

仕事による原因

職種によっても、テニス肘の発症に関わるものがあります。以前はフライパンを振るう料理人や大工に多く見られるとされていましたが、最近ではパソコンを使用するデスクワーカーや、介護、看護、保育などの仕事でも多くみられるようになっています。いずれにせよ、仕事で重いものを持ったり、手を使いすぎることが原因で起こり得ます。

日常生活による原因

家事などの日常生活もテニス肘の原因となり得るのです。掃除や料理、洗濯などの日常的な家事作業は、前腕の筋肉を使うことが多く、これが過度な負荷となってテニス肘を引き起こす可能性があります。具体的には、重い物を持ち上げる、雑巾を絞る、フライパンを片手で持つなど日常の様々な動作が原因になります。

テニス肘の前兆や初期症状について

テニス肘の前兆の一つとして、肘の外側を押したときに痛みを感じることが挙げられます。この痛みは、肘の外側上顆(肘を曲げた際に出っ張る部分)に炎症が起きていることを示しており、痛みが強くなると、ペンを持つ、カバンを持ち上げる、ドアを開けるなどの日常的な動作が困難になるかもしれません。

その後、初期症状として、肘の外側に軽い痛みや違和感を感じることが多いです。この痛みは、物を握ったり、腕をねじったりする動作で特に感じ、前腕の筋肉に疲労感や張りを感じることもあります。これらの症状は、テニスなどの運動後や長時間の家事・重作業後に現れることが多く、じっとしている時にはあまり感じません。

また、腕を伸ばしたり曲げたりする際に痛みが生じる場合もあります。特に、腕を伸ばした状態で物を持ち上げるときや、腕を曲げた状態で力を入れるときに痛みが強くなることが多いです。このような症状が現れた場合には、テニス肘の初期段階である可能性があります。

テニス肘の前兆や初期症状を早期に認識し、適切な対処をすることで、症状の悪化を防げる可能性があります。異常に気づき病院を受診する場合、整形外科が対象です。

テニス肘の検査・診断

テニス肘の検査・診断は、患者さんの症状や経歴を詳しく把握し、適切な治療をするために非常に重要です。検査、診断は次のような流れで進めていきます。

問診

問診の内容として一部ご紹介します。

問診内容 ・痛みが生じている場所
・痛みが出現したのはいつからか
・痛みだすきっかけは何かあったか
・どのような痛みなのか
・痛みはどのような時に出るか
 など

このように痛みについて詳しく聞き取ります。また、テニス肘の原因となるような日常生活や仕事の状況についても尋ねます。

身体所見

問診の次に行うのが触診です。患者さんの肘の外側を軽く押したり、動かしたりして、痛みの場所や程度を確認します。特に、肘の外側上顆を押したときの痛みが強い場合、テニス肘の可能性が高いです。また、腕を伸ばしたり、曲げたり、ひねったりする動作をしながら、痛みの変化を観察します。これにより、どの動作が痛みを引き起こしているのか特定が可能です

他にも、痛みを誘発させるテストも行います。トムセンテストやチェアテストといった特定の検査法を用いて手関節を動かし、痛みが出現もしくはより痛くなるかを確認します。具体的な方法は次の通りです。

トムセンテスト 患者さんに肘を伸ばした状態で手首を手の甲側に曲げてもらい、曲げた方向と反対方向に抵抗をかける
チェアテスト 患者さんに肘を伸ばしてもらい、手のひらを下に向けて片手で椅子などの重いものを持ち上げてもらう

どちらのテストもテニス肘であれば、肘の外側に痛みが出現します。

画像診断

画像診断も有効な検査の一つです。レントゲンでは、骨の異常や変形がないかを確認します。テニス肘は軟部組織の問題であるため、レントゲンでは直接的な異常は見つからないことが多いですが、他の可能性を排除するために行われます。さらに詳しく状態把握するために超音波検査やMRI(磁気共鳴画像)を実施することがあり、筋肉や腱の状態を確認して、炎症や損傷の有無の把握に役立つでしょう。

テニス肘の治療

テニス肘の治療には、いくつかの方法があります。保存的治療を試みることが一般的ですが、痛みの改善が見られない場合は手術が適応になることもあります。

安静

治療に最も大切なのは、手の安静です。痛みが発生する動作を避けることが基本となります。どうしても手を使わないといけない状況の時は、痛くないもう一方の手を使う、痛みのある方を使う時は道具を使いやすいものに変えたり、作業する姿勢を気を付けたりと、痛みがのでないような心がけましょう。痛みが生じ始めた頃には、患部が腫れて赤くなり熱く感じることがあります。この場合、痛みの部位を冷やすと痛みが軽くなる可能性があります。

薬物療法

痛み止めの薬や抗炎症薬の使用も効果的です。市販のNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)を使用することで、痛みと炎症を緩和させます。湿布などの外用剤も使うとよいでしょう。また、薬で効果がなければステロイド注射を実施する場合もあります。ステロイド注射は、強力な抗炎症作用を持ち、3ヶ月ほどの短期間であれば有効性が報告されています。一方で、副作用が見られる可能性がある治療法のため、3ヶ月以降の使用は医師と相談しながら決めていきましょう。

リハビリテーション

リハビリテーションも重要な治療法の一つです。理学療法士の指導の下で、筋力トレーニングやストレッチを実施し、筋肉の柔軟性向上や痛みの改善を図っていきます。また、日常生活の中で痛みを起こさないような動きを学ぶことも大切です。リハビリテーションでは重いものを持つ際は手のひらを上に向けて持つ、雑巾はシンクの底に押し付けて水気を切るなど、日常生活の中で手に負担がかからない方法を指導します。

手術

手術が必要になるケースもありますが、これは保存的治療で治療効果が得られない場合や、症状が重度の場合に限られます。手術では、損傷した腱を修復し、炎症を引き起こしている組織を除去します。入院期間は3〜7日程度が目安です。

テニス肘になりやすい人・予防の方法

テニス肘になりやすい人の特徴を理解し、予防方法を実践することは、発症を防ぐために非常に重要です。

テニス肘になりやすい人

テニス肘は青少年には少なく、30歳代後半から50歳代の患者さんが多い疾患です。発症頻度の男女差は明らかにされていません。ただし、家庭の主婦に多くみられやすく、また、テニスとの関連では女性に多いという報告があります。このことから、若者や男性よりも中高年の女性の方がなりやすいと考えられます。

テニス肘の予防方法(ストレッチ)

テニス肘は一度良くなっても、手を使う作業を続けると再発しやすいという報告があります。また、手術をした直後は順調でも長期的な経過については詳しくは分かっていません。

予防方法としては、運動前にストレッチを実施し、筋肉と腱を柔軟に保つことが大切です。これにより、突然の動作による筋肉の負担を軽減できます。また、運動後には整理体操を実施し、筋肉の緊張を和らげることも必要です。

テニス肘の予防方法(正しいフォームの習得)

運動中の受傷を防ぐには、適切なフォームやテクニックの習得も有効です。例えば、テニスやゴルフをする際に、不適切なフォームや力任せのスイングをしていると、前腕の筋肉に過度な負荷をかけ、テニス肘を引き起こす原因となります。スポーツインストラクターや理学療法士の指導を受け、正しいフォームを身につけましょう。

テニス肘の予防方法(筋力トレーニング)

筋力トレーニングも予防には欠かせません。前腕の筋肉を強化することで、負荷に耐えられる筋力を養います。特に、前腕の伸筋群を中心としたトレーニングは効果的です。

テニス肘の予防方法(適度な休息)

適度な休息を取ることも欠かせません。過度な負荷をかけ続けると、筋肉や腱が疲労しやすくなります。定期的に休息を取り、筋肉をリフレッシュさせることが大切です。これにより、筋肉や腱の過度な負担を避け、テニス肘の発症を防ぎます。


関連する病気

  • 上腕骨外側上顆炎

参考文献

この記事の監修医師