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疲労骨折
松繁 治

監修医師
松繁 治(医師)

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経歴
岡山大学医学部卒業 / 現在は新東京病院勤務 / 専門は整形外科、脊椎外科
主な研究内容・論文
ガイドワイヤーを用いない経皮的椎弓根スクリュー(PPS)刺入法とその長期成績
著書
保有免許・資格
日本整形外科学会専門医
日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医
日本脊椎脊髄病学会認定 脊椎脊髄外科指導医
日本整形外科学会認定 脊椎内視鏡下手術・技術認定医

疲労骨折の概要

疲労骨折とは、一度に骨折が生じる程の強力な外力ではなく、骨に繰り返し加わる小さな力が蓄積することで発生する骨折です。歴史的には、軍隊の行軍訓練中に中足骨に生じることが多かったため「行軍骨折」とも呼ばれていましたが、現在では慢性スポーツ障害の一つとして認識されています。特に、ランニングやジャンプなど、同一の動作を反復するスポーツ選手に多く見られます。痛みがあっても運動が可能な場合が多く、初期のわずかな亀裂の段階で見過ごされることが多いため、無理をしてプレーを続けることで骨折に至るケースが少なくありません。

疲労骨折が発生しやすい部位は主に下肢の骨ですが、スポーツ種目によっては例外も見られます。例えば、野球選手では上肢の尺骨肘頭(肘の骨)、ゴルフ選手では肋骨に発生することがあります。また、腰椎分離症も脊椎の疲労骨折の一形態とされています。

疲労骨折の原因

疲労骨折が生じる原因は、現在では主に過度のスポーツ練習での発生が増加していることとされています。そして、大きく分けて選手側の要因と環境側の要因に分類されます。

選手側の要因は、筋力不足や筋力のアンバランス、未熟な技術、そして柔軟性の不足が挙げられます。これらの要因は、適切なトレーニングや技術の習得が不十分である場合に多く見られ、若年層のスポーツ選手で顕著です。成長期の中学生や高校生が部活動などで過度なトレーニングを行う際に、下肢の骨に疲労骨折が発生しやすいといわれています。

環境側の要因は、オーバートレーニング、選手の体力や技術に合わない練習、不適切なシューズの使用、そして練習場の地面の硬さが適切でない場合が考えられます。地面が硬すぎる、もしくはやわらかすぎる場合、骨に対する負荷が不均衡に加わり、疲労骨折のリスクが増加します。なかでも、ランニングやジャンプなどの反復動作を伴うスポーツにおいて、こうした環境要因は重要な役割を果たします。

さらに、スポーツ選手以外にも、同じ動作を繰り返す職業や日常生活を送る方々にも疲労骨折が見られることがあります。例えば、長期間にわたるひどい咳により肋骨に疲労骨折が生じるケースもあります。また、女性は閉経や婦人科系疾患によるホルモンバランスの乱れから骨密度が低下し、骨組織がもろくなり、骨が外力に対して脆弱になり、疲労骨折が発生する可能性が高まります。

総じて、疲労骨折は早期発見と適切な休養が重要です。早期に対処することで重症化を防ぎ、長期的なスポーツ活動への影響を抑えます。そのため、スポーツ選手や指導者は、痛みや違和感を感じた際には速やかに専門の医師の診断を受け、適切な治療と休養を取ることが求められます。

疲労骨折の前兆や初期症状について

疲労骨折の前兆や初期症状は、初期段階では症状が軽微であるため、見過ごされがちです。初期には、原因となった動作を行わない限り日常生活で痛みを感じることはほとんどなく、運動時に感じる痛みもそれ程強くありません。このため、痛みがあっても運動を継続してしまうケースが多く、結果的に症状を悪化させることになります。

運動時に痛みを感じる場合でも、痛みが軽度で、外傷の記憶がない場合、捻挫や筋肉痛と誤認されることがあります。しかし、疲労骨折が進行すると、普通の動作をしただけでも痛みを感じるようになり、疲労骨折の部位を押すと圧痛を感じることが増えます。圧痛のある部分は、骨折部位の修復に伴う新しい骨の形成により、やや盛り上がることが特徴です。これにより、疲労骨折の可能性が高まります。

疲労骨折の具体的な部位は、足の甲にある中足骨や、脛骨(すねの骨)、腓骨(すねの外側の骨)が多く、これらの部位は運動による負荷を受けやすいため、疲労骨折が起こりやすいとされています。また、肋骨や大腿骨、尺骨(前腕の小指側にある骨)にも発生することがあります。腰椎の疲労骨折の場合は、体を後ろに反らせたときに痛みを感じやすく、疲労骨折に関連した症状の一つです。

腫れや痛みのほか、外傷の覚えがないにもかかわらず運動時に疼痛が現れ、安静時には軽快するパターンも見られます。しかし、無理をして運動を続けると、安静時にも痛みが出現するようになります。これらの症状は、明らかな外傷がなくても疲労骨折を疑うべき重要なサインです。なかでも、腫れや痛みが続き、関節以外の部位にも痛みを感じる場合は、早期に整形外科を受診しましょう。

疲労骨折の検査・診断

疲労骨折の検査および診断は、初期段階での発見が難しいため、慎重に行う必要があります。診察では、患者さんの症状や運動歴を詳細に聴取し、疲労骨折の疑いが高い場合には、エックス線検査やMRI検査を実施します。しかし、エックス線検査では初期の疲労骨折の判別が難しく、骨折線や変化が明らかになるのは2〜3週間程度経過した後になるケースも多いようです。そのため、間隔をあけて複数回の検査が必要となることがあります。

早期診断の手段としては、MRI検査が有効とされており、骨や周囲の軟部組織の状態を詳細にとらえ診断します。また、骨シンチグラフィーも早期発見のための重要な検査方法です。骨シンチグラフィーは、放射性物質を注射し、放射性物質が骨に集まる様子を画像化することで、骨の異常を検出する手法です。骨シンチグラフィーは、骨の代謝活動の変化をとらえられるため、エックス線では見逃される初期の疲労骨折も発見します。

さらに、CT検査も診断に利用されることがあります。CT検査は、骨の詳細な断面画像を提供し、骨折の範囲や進行度を明確にします。症状が進行している場合や、骨の構造に複雑な変化が見られる場合には、CT検査が適用されます。

総じて、疲労骨折の診断には複数の検査手法を組み合わせることが重要です。初期症状が現れた段階で早期にMRIや骨シンチグラフィーを用いることで、早期発見と適切な治療が可能になるといわれています。また、症状の進行を確認するためにCT検査を追加で行うことで、より正確な診断が下されます。

疲労骨折の治療

疲労骨折の治療は、骨折の部位や症状の進行度に応じて異なります。治療の原則は、まず原因となったスポーツ活動を中止することです。骨折部位によっては、回復期間に差があるため、具体的な休止期間は個別に判断されます。軽症の場合はギプスや装具での固定は行わず、運動を中止して安静を保つことで治癒が期待されます。運動を再開する際には、骨折部の圧痛がなく、筋力が回復していることをX線検査で確認したうえで判断され、2〜3ヵ月を要します。

症状の進行度合いによりギプスやコルセットの装着が必要なケースもあり、腰椎の疲労骨折ではコルセットを用いることが推奨されます。また、痛みを無視して運動を続けた結果、症状が慢性化した場合や骨折した場合には、ギプス固定や手術が必要となることがあります。なかでも、第5中足骨基部の骨折は治りにくく、早期に手術を行うことも少なくないようです。第5中足骨基部の骨折はサッカー選手に頻発します。また、大腿骨頚部の疲労骨折の場合、安静や松葉杖の使用によって体重をかけないようにし、治癒を助けます。

さらに、治療の一環としてリハビリテーションを行い、骨の修復と機能回復を図ります。適切なリハビリテーションは、骨の強度を高め、再発のリスクを低減させます。

疲労骨折になりやすい人・予防の方法

疲労骨折は、プロのスポーツ選手や、部活動に励む中学生、高校生、大学生など、激しい運動を日常的に行う方々に多く見られます。あらゆる年齢層で発生する可能性はありますが、筋力の発育や体力的な問題から、成長期の15〜16歳の青少年に多く発生する傾向にあります。成長期は骨の成長が活発であり、一方で筋力や骨の密度が十分に発達していないため、負荷に対する耐久性が低いことが一因と考えられます。

予防策は、まず、過度の負担を避けることです。疲労骨折は過度のトレーニングや、一部分に繰り返し負荷をかけることで発生するため、トレーニングの内容に変化を持たせるようにしましょう。また、O脚や硬い路面でのトレーニングなど、骨格や環境も一因となるため、骨格や環境に対する配慮も必要です。女性のランナーでは月経異常が骨密度の低下を引き起こしやすく、疲労骨折のリスクが高まるため、ホルモンバランスの管理も重要です。

再発防止のためには、治療後の注意も欠かせません。同じトレーニングの繰り返しを避け、負荷が過度にならないように調整することが大切です。運動を再開する際には、原因となった動きを見直し、必要に応じて靴の中敷きや用具の改善を行いましょう。また、病気や加齢による体の変化が原因の場合は、栄養バランスの改善や日光浴、適度な運動を通じて骨密度の低下を防ぎましょう。

普段から自身の体の異変に敏感になり、痛みや違和感を感じた場合にはすぐに専門の医療機関を受診することが重要です。


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