監修医師:
大坂 貴史(医師)
骨折の概要
骨折(こっせつ)は、骨に過度の力が加わることによって骨が完全または部分的に折れたり、ひびが入ったりする状態を指します。骨折は日常生活の中で発生することがあり、転倒や交通事故、スポーツ中の怪我など、さまざまな原因によって起こります。骨が完全に折れてしまう場合もあれば、ひびが入るだけの軽度な場合もあり、その症状や治療法は骨折の種類や部位によって異なります。
骨折は適切な治療を行わないと、骨がうまく癒合せず、後遺症を残す可能性もあります。骨折の治療には、ギプスや固定器具による安静治療、手術が含まれますが、骨折後のリハビリテーションも重要です。この記事では、骨折の原因、症状、検査、治療方法、そして予防策について詳しく解説していきます。
骨折の原因
骨折の原因は、大きく外的要因と内的要因に分けられます。
外的要因とは、外部からの力が骨に直接的に加わることによって骨が折れる場合であり、内的要因とは、骨がもろくなり、軽い外力でも骨が折れる場合です。
以下に、骨折の主な原因を示します。
- 怪我や事故:
転倒や交通事故、スポーツでの衝突など、外部からの強い衝撃が骨に加わることで骨折が起こります。特に高齢者や小児は転倒しやすく、骨折のリスクが高いです。スポーツ中の骨折は、特に接触スポーツ(サッカー、ラグビーなど)や高強度の運動(スキー、スノーボードなど)でよく見られます。 - 骨粗鬆症:
骨粗鬆症(こつそしょうしょう)は、骨がもろくなり、折れやすくなる病気です。骨密度が低下し、軽い転倒やわずかな衝撃でも骨折が起こりやすくなります。特に高齢者に多く、骨粗鬆症による骨折は、腰椎や股関節、大腿骨などに発生しやすいです。 - 疲労骨折:
疲労骨折は、同じ場所に繰り返し小さな外力が加わることによって、骨にひびが入る状態です。主にスポーツ選手や長時間のランニングを行う人に多く見られます。疲労骨折は、足の骨やすねの骨でよく発生し、無理をして運動を続けることで悪化することがあります。 - 骨の病気:
骨腫瘍や骨の発育異常など、骨自体に問題がある場合も骨折のリスクが高まります。これらの病気により骨が弱くなり、通常では骨折しないような軽い外力でも骨が折れることがあります。
骨折の前兆や初期症状について
骨折は、症状が明確でない場合もありますが、いくつかの前兆や初期症状に気をつけることで早期発見が可能です。
以下に、骨折の主な前兆や初期症状を示します。
- 激しい痛み:
骨折の最も一般的な症状は、骨が折れた部位の激しい痛みです。痛みは、骨が折れた瞬間から始まり、動かすとさらに強くなります。痛みが強くなると、その部位を動かせなくなることもあります。 - 腫れやあざ:
骨折した部分が腫れたり、青黒く変色することがあります。これは、骨折によって血管が損傷し、内出血が起こるためです。腫れやあざは骨折直後に見られることが多いですが、時間が経つにつれて症状が顕著になることもあります。 - 異常な動き:
骨折があると、通常では動かない方向に骨が動いたり、関節が異常な位置に見えることがあります。これは、骨が完全に折れてしまい、正常な位置を保てなくなったためです。 - 変形や短縮
骨折した部分が変形し、異常な形になることがあります。特に四肢(腕や脚)での骨折では、骨がずれて短くなったり、変な角度で曲がったりすることがあります。 - 痛みによる動作制限:
骨折部位を動かすと強い痛みが生じるため、その部分を動かすことができなくなることがあります。例えば、腕の骨折では腕を上げることができず、足の骨折では歩行が困難になります。
骨折の検査・診断
骨折の疑いがある場合は、医師による診察と検査が必要です。早期に正確な診断を行い、適切な治療を始めることで、骨が正しく癒合し、後遺症を防ぐことができます。以下に、骨折の診断に用いられる主な検査方法を示します。
レントゲン検査
骨折の診断には、最も一般的に使用されるのがレントゲン検査です。レントゲン撮影によって、骨の状態や折れ方、ずれの程度などを確認します。レントゲンは非侵襲的で迅速に結果が得られるため、骨折の診断には欠かせない検査です。
CTスキャン
複雑な骨折や骨の細かい部分の損傷が疑われる場合には、CTスキャンが使用されます。CTスキャンは、骨の断面を詳細に撮影することができ、レントゲンでは確認しにくい部分も評価できます。特に、顔面骨や関節周辺の骨折診断に有効です。
MRI検査
MRIは、骨だけでなく軟部組織(筋肉や靭帯、神経など)の状態も詳細に映し出すことができるため、骨折に伴う軟部組織の損傷や血流障害などを調べるのに適しています。疲労骨折の早期診断にも有効です。
骨密度検査
骨粗鬆症が疑われる場合や、高齢者の骨折が発生した場合には、骨密度検査を行うことがあります。この検査では、骨の強度を測定し、骨粗鬆症のリスクを評価します。
骨折の治療
骨折の治療方法は、骨折の種類や場所、年齢や全身状態によって異なりますが、基本的には骨を正しい位置に戻し、固定して治癒を待つことが目的です。
以下に、骨折の主な治療方法を示します。
保存療法
- ギプスや副木による固定:
骨が適切な位置にある場合や、ずれが少ない場合は、ギプスや副木(そくぼく)を用いて固定し、自然治癒を待ちます。固定によって骨が安定し、周囲の筋肉や靭帯の動きを抑えることで、骨が正しく癒合します。ギプスは腕や足、鎖骨などさまざまな部位に使用されます。 - 安静とリハビリ:
骨折の治癒期間中は、骨折部位をしっかりと安静に保つことが大切です。また、ギプスを外した後には、リハビリテーションが必要です。リハビリでは、筋力や柔軟性を回復させ、日常生活に戻るための運動療法が行われます。
手術療法
- 骨接合術(プレートやスクリュー):
骨折が複雑な場合や、骨が大きくずれている場合には、手術によって骨を正しい位置に戻し、プレートやスクリュー、ワイヤーなどを使って固定します。この方法は、特に大腿骨や上腕骨などの長い骨や、関節に近い骨折で用いられます。手術後は、骨が癒合するまでの間、リハビリと定期的な経過観察が行われます。 - 外固定術:
外固定術は、骨折した部位の外側から金属フレームやピンを使用して骨を固定する方法です。複雑な開放骨折や感染リスクが高い場合に適用されることがあります。この方法は、手術後のケアが重要であり、感染予防のために注意が必要です。
薬物療法
骨折は強い痛みを伴いますので、痛み止めを使用します。アセトアミノフェンもしくは非ステロイド性抗炎症薬 (NSAID)を使用します。
骨折になりやすい人・予防の方法
骨折になりやすい人
骨折のリスクは、年齢や生活習慣、病歴などによって異なります。
以下に、骨折になりやすい人の特徴を示します。
- 高齢者:
骨粗鬆症が進行している高齢者は、骨がもろく、転倒によって骨折するリスクが高まります。特に股関節や大腿骨、脊椎の骨折が多いです。 - 骨粗鬆症患者:
骨粗鬆症は骨密度が低下し、骨が折れやすくなる病気です。この状態では、軽い衝撃でも骨折することがあります。 - スポーツ選手:
激しい運動や接触が多いスポーツを行う選手は、骨折のリスクが高まります。特にサッカーやラグビー、バスケットボールなどの競技では骨折が発生しやすいです。 - 栄養不足の人:
カルシウムやビタミンDの不足は骨の強度を低下させ、骨折リスクを高めます。栄養バランスの乱れた食生活を送っている人は、骨が弱くなりがちです。
骨折の予防方法
骨折を予防するためには、日常生活での対策が重要です。
以下に、骨折の予防方法を示します。
- 転倒防止:
特に高齢者は、家の中や外での転倒を防ぐ工夫が必要です。滑りやすい床や段差に注意し、手すりやバリアフリーの設備を設置することで転倒リスクを減らすことができます。また、足元がしっかりした靴を選ぶことも重要です。 - 運動習慣を取り入れる:
定期的な運動は、骨の強度を維持し、筋力やバランス感覚を向上させるため、骨折予防に効果的です。ウォーキングや軽い筋力トレーニング、ストレッチなどを日常生活に取り入れることで、骨折のリスクを軽減できます。 - 栄養バランスの取れた食事:
骨の健康を保つためには、カルシウムやビタミンD、たんぱく質を豊富に含む食事が重要です。牛乳や乳製品、魚、豆類、野菜などをバランス良く摂取することで、骨の強度を高めることができます。また、ビタミンDは日光を浴びることで体内で生成されるため、適度な日光浴も骨折予防に役立ちます。 - 骨密度のチェック:
特に高齢者や骨粗鬆症のリスクがある人は、定期的に骨密度検査を受けることが推奨されます。早期に骨密度の低下を確認し、必要に応じて治療を開始することで、骨折を予防できます。 - 保護具の使用:
スポーツや作業中に骨折のリスクが高い場合は、適切な保護具を使用することが重要です。例えば、ヘルメットや膝当て、リストガードなどは、衝撃を吸収し、骨折のリスクを減らします。
以上の対策を取り入れることで、骨折のリスクを減らし、骨の健康を維持することができます。
参考文献