監修医師:
大坂 貴史(医師)
強迫症 (強迫性障害)の概要
強迫症とは、不快な考えやイメージ、衝動といった「強迫観念」が繰り返し沸き起こり、それらを打ち消すための「強迫行動」を繰り返してしまう病態です (参考文献 1, 2)。
そのほかの症状としては、自殺念慮や他の人を傷つけたらどうなるのだろうか?といった考えが頭から離れない「加害恐怖」、強迫観念や強迫行動を引き起こすような場所や状況から離れようとする回避行動等があります (参考文献 1, 2)。
また、自身の強迫観念や強迫行動を「やりすぎだ」「ばかげている」と感じながらも辞められないことが特徴の一つです(参考文献 1, 2) 。
強迫症 (強迫性障害)の原因
遺伝的要因、神経学的要因、精神的要因、感染、ホルモン、ストレスが関係するという報告があります(参考文献 1) 。
- 双子や家族の研究によって、強迫症には遺伝的要因がある事が示唆されています。
- ドーパミンが重要な役割を果たす、脳の皮質-線条体-視床-皮質回路 (CSTC 回路) の異状や、そのほか神経伝達物質に関連する異状が関連するのではないかという研究があります。
- 詳しくは後述しますが、特定の精神的特性が強迫症発症の素因になることが示唆されています。
強迫症 (強迫性障害)の前兆や初期症状について
強迫症の症状
概要の項でも触れましたが、強迫症には「強迫観念」「強迫行動」といった症状があります (参考文献 1, 2, 3)。
- 車を運転しているときに人を轢いてしまったのではないか (強迫観念)
→ 走った道を何度もチェックしに戻る (強迫行動) - 窓を開けっ放しにしたまま家を出てきたのではないか (強迫観念)
→一旦帰宅して窓がしまっているかチェックする (強迫行動) - 計算ドリルで一度でも書き間違えしたら全て初めからやり直さないといけない感じがする (強迫観念)
→ひっ算で書き間違えをしたら、そのページの全ての問題をやりなおす (強迫行動) - 左右対象じゃないと恐ろしいことが起きる気がする (強迫観念)
→左右対称になるよう物を移動させたり、自分の視点を移動させる (強迫行動)
そのほか、「加害恐怖」や「回避行動」といった症状もあります (参考文献 1, 2, 3) 。 - 友人と2人で話しているときに「いまこの人の顔面を殴ったらどうなるのだろうか、本当にやってしまうのではないか」といった考えが浮かぶ (加害恐怖)
- 強迫観念や加害恐怖を引き起こすような場所やシチュエーションを避ける (回避行動)
最新の分類 (DSM5-TR) では、強迫観念が満たされていない状態で感じる「さっぱりしない」「気持ち悪い」「こわばる」といった感覚の異常 (感覚現象) や、家族などの周囲の人に「大丈夫だと太鼓判を押してもらう」「鍵がかかっているか確認してもらう」といった巻き込みについての記載もあります (参考文献 1, 3) 。
強迫症では、これらの強迫観念や強迫行動によって多くの時間がとられてしまったり、「ばかげている」「不合理だ」という自覚していることが多く、患者本人が苦しむ一因となっています (参考文献 1, 2, 3)。
強迫症の初期症状
「強迫観念」「脅迫行動」といった強迫症の症状は緩やかに発症することが多く、この疾患の症状が治療可能なものであると患者本人が認識するまでに長い期間苦しむことがあります(参考文献 1)。
小学生や中学生の年代で発症する人が多く、35歳を過ぎてからの発症は少ないとされています(参考文献 1)。
年齢が幼いときは、強迫行動が他の人から分かりやすい状況にある (家庭内、学校内他の人の目が多い) ので、症状の察知がしやすいです (参考文献 1) 。
治療されなかった場合、強迫症は慢性的な経過をたどることも多いです (参考文献 1) 。
強迫症 (強迫性障害)の検査・診断
DSM-5-TR では、強迫症の診断は次の A-D が当てはまるときに診断されます (参考文献 1)
- A:強迫観念または強迫行動、もしくはその両方がみられること
【強迫観念:1-1 と 1-2 の両方】
1-1 反復的かつ持続的な思考、衝動、イメージで、その障害のある時期に、侵襲的で望ましくないものとして経験され、多くの人にとって強い不安や苦痛を引き起こすもの 1-2 1-1のような考え、衝動、またはイメージを無視または抑制しようとするか、違うことを考えたり、強迫行動を実行することで中和しようとする 【強迫行動:2-1 と 2-2 の両方】
2-1 強迫観念や、厳格に守らなければならないと考えているルールに基づいて、本人が駆り立てられるように実行する繰り返しての行動 (例、手洗い、注文、確認) や、繰り返すな精神的行為 (例、祈る、数を数える、黙って言葉を繰り返す) 2-2 2-1のような繰り返す行動・繰り返す精神的行為は、不安や苦痛を予防・軽減したり、何か恐ろしい出来事や状況を予防したりすることを目的としている
しかしながら、これらの行動や精神的行為は、現実的にはそれらの不安の中和や予防に結びついていないか、明らかにやりすぎである。 - B:強迫観念や強迫行為に、一日一時間以上といったような時間がかかるか、社会的、職業的、または他の重要な社会的機能において、重大な障害を引き起こしている。
- C:強迫症状は、違法薬物や薬物乱用、他の医学的問題に起因するものではない。
- D:その障害は、他の精神障害の症状ではうまく説明できない
強迫症 (強迫性障害)の治療
認知行動療法という治療と薬物療法に分かれます (参考文献 1, 3, 4)
認知行動療法
認知行動療法には、曝露法と反応妨害法があります。
【曝露法】
苦手と感じる状況にあえて自分をさらすこと
■曝露法の例
- 心配でも公園のベンチなどに座ってみる
- 窓を閉めたか不安でも、家の外に出てみる
- 途中で書き損じると初めから書き直したくなるけれども、あえて手紙を書いてみる
【反応妨害法】
不安を感じるときにやっていた脅迫行動をしないように努めること
■反応妨害法の例
- 公園のベンチに座ったあと、鳥の糞など特別汚いものをさわったのでなければ手を洗いたくてもそのまま過ごす
- 家の外に出た後に、窓を閉めたか確認しに帰宅しない
- 書き損じても消しゴムや修正液などを用いて、そのまま手紙を完成させて提出してみる
薬物療法
認知行動療法と併用する形で、薬による治療もよく行われます。選択的セロトニン再取り込み阻害薬 (SSRI) といった種類の薬が用いられることが多いです。
強迫症 (強迫性障害)になりやすい人・予防の方法
つぎのような精神的特性が強迫症発症の素因になることが示唆されています(参考文献 1)
- 責任感がつよい
- 脅威やリスクを大きく評価する
- 完璧主義
- 不確実性を好まない など
強迫症は治療が可能な疾患であることを先ずは知ってもらい、早めにお近くの精神科や心療内科を受診してださい!
参考文献