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廃用症候群
本多 洋介

監修医師
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)

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群馬大学医学部卒業。その後、伊勢崎市民病院、群馬県立心臓血管センター、済生会横浜市東部病院で循環器内科医として経験を積む。現在は「Myクリニック本多内科医院」院長。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会専門医。

廃用症候群の概要

廃用症候群とは、生活不活発病とも呼ばれる状態で、長期間の安静や運動量の減少により、身体機能が著しく低下することを指します。また、廃用症候群の一歩手前の状況が「フレイル」と呼ばれており、近年注目を浴びている概念です。高齢者や長期間寝たきりの状態にある方に多く見られ、全身の筋肉や関節、心肺機能、精神状態に悪影響を及ぼします。

廃用症候群の原因

廃用症候群の主な原因は、病気やケガによる過度の安静状態です。長期間ベッドで安静にしていると、筋肉を使わないために筋力が低下し、関節が硬くなります。これは、筋肉や関節の活動が減少することで、身体の各部位が衰えてしまうためです。安静が続くと、1週間で筋力が10〜15%低下することが知られています。高齢者では、この影響がさらに顕著に現れ、2週間の安静で下肢の筋力が20%も低下することがあります。

高齢者は身体機能が低下しやすく、生活環境も廃用症候群の原因となります。高齢になると、買い物や散歩などの活動が減り、日常的な運動量が不足します。これにより、筋力や骨密度が低下しやすくなります。また、栄養不足も廃用症候群の進行を加速させます。さらに、過度な介護によって自身で動く機会が減ると、廃用症候群のリスクが高まります。介護者は、必要以上に手助けをせず、本人ができることは自身で行ってもらうことが重要です。

自力で動ける場合でも、車椅子などの使用によって全身の運動量が減少すると、廃用症候群の原因となります。体全体を動かさない生活が続くと、筋肉の萎縮や関節の拘縮が進行します。長期間にわたって一部の体しか使わない生活を続けると、全身の身体機能が低下します。

廃用症候群は、病気やケガだけでなく、精神的な要因も関与します。例えば、うつ状態やせん妄などの精神的な症状がある場合、活動意欲が低下し、身体機能の低下を招きます。また、誤嚥性肺炎や血栓塞栓症などの合併症も廃用症候群の進行を促します。

廃用症候群の前兆や初期症状について

廃用症候群の初期段階では、まず筋力低下が見られます。例えば、歩行が難しくなったり、以前は軽々と持ち上げられた物が重く感じたりします。筋力低下は、1週間の安静で10〜15%、3〜5週間で50%も低下することが知られています。また、筋肉の萎縮も進行し、運動能力が著しく低下します。このため、立ち上がる、歩く、階段を上るなどの日常動作が困難になることがあります。

筋力低下と並行して、関節の硬直も初期症状として現れます。関節の動きが悪くなり、可動域が狭くなるため、体を自由に動かすことが難しくなります。これにより、座ったり立ったりする動作が億劫になり、さらに運動量が減少する悪循環に陥ります。

心肺機能の低下も廃用症候群の初期症状の一つです。長期間横になっていると、心臓から血液を全身に送る力が弱まり、全身に酸素を供給する能力が低下します。その結果、軽い運動でも息切れや動悸が起こりやすくなります。また、起立性低血圧が発生し、急に立ち上がったときにめまいやふらつきを感じることがあります。

精神的な変化も廃用症候群の初期症状として重要です。長期間の安静状態が続くと、うつ状態や意欲の低下が見られるようになります。これにより、さらに活動量が減少し、身体機能の低下が加速します。加えて、せん妄や見当識障害などの認知機能の低下も現れることがあります。

長期間横になっていると、呼吸するための筋肉も弱まり、呼吸が浅くなります。このため、呼吸回数が増え、気道内の分泌物がたまりやすくなります。その結果、誤嚥性肺炎のリスクが高まり、特に高齢者にとっては重大な健康問題となります。

皮膚の変化としては、長時間同じ姿勢でいることによる褥瘡(床ずれ)が初期症状として現れることがあります。特に骨の突出部分に圧力がかかりやすく、血流が阻害されることで皮膚が壊死するリスクが高まります。

全身的な健康状態を評価し、ほかの病気の可能性を排除するために、まず内科を受診します。内科医は初期診断を行い、必要に応じて専門医への紹介を行います。

廃用症候群の検査・診断

具体的な検査としては、筋力測定が重要です。握力や下肢筋力の測定は、筋肉の状態を客観的に評価するために用いられます。さらに、関節の可動域測定も行われ、関節がどの程度動かせるかを確認します。これにより、関節拘縮や筋肉の硬直などの問題が早期に発見され、適切なリハビリテーション計画が立てられます。

血液検査や画像診断も廃用症候群の診断に役立ちます。血液検査では、栄養状態や炎症の有無を確認し、低栄養や感染症がないかを調べます。画像診断としては、筋肉や関節の状態を詳しく観察するためにMRIやCTスキャンが使用されることがあります。これにより、筋肉の萎縮や関節の変形など、内部の変化が明らかになります。

また、廃用症候群は合併症を引き起こしやすいため、ほかの疾患との関連性も検討されます。例えば、心機能低下や肺塞栓症、誤嚥性肺炎などが見られる場合、それらの疾患が廃用症候群の一因となっている可能性があります。したがって、総合的な健康状態の評価が重要です。

廃用症候群の治療

廃用症候群の治療において、重要な要素は理学療法です。理学療法士による指導の下、患者さんは筋力トレーニングやストレッチング、関節の可動域を広げる運動を行います。これにより、筋肉の萎縮を防ぎ、関節の機能を維持・改善することが期待されます。また、運動療法は血行を良くし、全身の代謝を向上させる効果もあります。

作業療法も廃用症候群の治療に重要な役割を果たします。作業療法士は、患者さんの日常生活動作(ADL)の回復を目指し、食事や更衣、入浴などの基本的な動作を再習得するための訓練を提供します。これにより、患者さんは日常生活の自立度を高めることができます。

適切な栄養管理も重要な治療の一環です。タンパク質やビタミン、ミネラルなどの栄養素をバランスよく摂取することで、筋肉の再生や体力の回復をサポートします。栄養士と連携し、個々の患者さんに合った食事プランを提供することが重要です。

廃用症候群の患者さんは、長期間の安静や運動制限により心理的ストレスを抱えることが少なくありません。心理カウンセリングやグループセラピーなどを通じて、患者さんの精神的な健康を支えることも治療の一環として重要です。

場合によっては、医学的な治療が必要になることもあります。例えば、筋力低下が著しい場合には、薬物療法を併用することがあります。抗炎症薬やビタミンDサプリメントなどが処方されることがあります。

廃用症候群のなりやすい人・予防の方法

高齢者は廃用症候群のリスクが高いです。加齢により筋力が低下しやすく、運動量が減少するためです。また、慢性的な病気や怪我により長期間安静を強いられることが多いことも一因です。

長期入院患者さんも廃用症候群になりやすいです。病院での長期間のベッド上の生活は、筋肉や関節の使用を極端に制限するため、機能低下が進行しやすくなります。

慢性疾患、特に心肺疾患や神経疾患を持つ方もリスクが高いです。これらの疾患は運動能力を低下させ、長期間の安静を必要とすることが多いためです。

介護施設や自宅での長期的な寝たきり状態も廃用症候群のリスクを高めます。寝たきりの状態では、筋肉や関節をほとんど使用しないため、機能低下が顕著になります。

予防の方法としては、以下が挙げれます。
廃用症候群の予防には、定期的な運動が不可欠です。軽いストレッチングやウォーキング、筋力トレーニングなどを日常生活に取り入れることで、筋肉や関節の機能を維持できます。特に高齢者や長期入院患者さんには、医師の指導の下で安全に運動を行うことが重要です。

怪我や手術後は、できるだけ早期にリハビリテーションを開始することが推奨されます。リハビリテーションによって、筋力や関節の可動域を回復し、廃用症候群の進行を防ぐことができます。
バランスの取れた食事も予防に重要です。タンパク質やビタミン、ミネラルを十分に摂取することで、筋肉の維持や回復をサポートします。栄養士と連携し、個々のニーズに合わせた食事プランを立てることが大切です。

住環境や生活環境を整えることで、動きやすさを確保し、運動習慣を助けることができます。手すりの設置や段差の解消など、バリアフリー化を進めることが有効です。

長期間の安静や入院生活は心理的なストレスを伴うことが多いため、心理的サポートも重要です。カウンセリングや家族のサポートを通じて、患者さんの精神的な健康を保つことが、積極的な運動やリハビリテーションの継続につながります。

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