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胸郭出口症候群
眞鍋 憲正

監修医師
眞鍋 憲正(医師)

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信州大学医学部卒業。信州大学大学院医学系研究科スポーツ医科学教室博士課程修了。日本スポーツ協会公認スポーツドクター、日本医師会健康スポーツ医。専門は整形外科、スポーツ整形外科、総合内科、救急科、疫学、スポーツ障害。

胸郭出口症候群の概要

鎖骨下動・静脈および腕神経叢が、何らかの原因によって圧迫を受けると、頸部、肩部、上肢などの痛み、異常感覚、脱力などの症候を起こすことがあります。その圧迫の部位や原因によって、前斜角筋症候群頸肋症候群肋鎖症候群烏口突起下小胸筋症候群(過外転症候群)などの名称が付けられており、これらを総称して胸郭出口症候群とよんでいます。
発症初期は肩こりや首の痛み、上肢のだるさなどの軽い症状から始まりますが、放置すると上肢の麻痺や慢性的な痛み、機能障害が起こり日常生活に支障をきたすようになります。よって、前兆や初期症状に気づいた時点で、医療機関を受診して適切な治療を開始することが重要となります。

胸郭出口症候群の原因

原因は以下の2つです。

1. 構造的な異常

  • 斜角筋の異常(大きすぎる、余分な筋肉や靭帯がある)
  • 頸肋(胎生期の下位頸椎から出ている肋骨の遺残したもので、第7時には第6頸椎から外側に伸びている)
  • 頸椎の異常(横方向に大きい、骨の腫瘍など)
  • 鎖骨や肋骨、肩甲骨の骨折による変形

これらの構造的な異常により、神経や血管が通る部位が狭くなり、圧迫されやすくなります。

2. 姿勢や動作による圧迫・牽引

  • なで肩の姿勢
  • 腕を上げる動作
  • 重労働や同一姿勢による筋緊張状態

このような姿勢や動作により、神経や血管への圧迫や牽引(引っ張られる)がかかり、症状が引き起こされます。また、牽引によるタイプと圧迫によるタイプ、さらにこの2つが混合したタイプがあります。

胸郭出口症候群における腕神経叢や鎖骨下静脈・動脈の圧迫・狭窄部位

  • 斜角筋症候群:前斜角筋と中斜角筋の間
  • 肋鎖症候群:鎖骨と第一肋骨の間
  • 烏口突起下小胸筋症候群(過外転症候群):小胸筋が肩甲骨に付着する部位
  • 頸肋症候群:第一肋骨と鎖骨との肋鎖間隙

胸郭出口症候群の患者数

若年〜中年期の女性に多く、体型はなで肩を呈すことが多いようです。女性は筋肉が男性よりも発達していないため、神経や血管が圧迫されやすい、中年期は筋肉の老化や姿勢の悪化が起こりやすい時期であるなどがその要因と考えられています。一方で、発症率の正確な統計データは不足しているので、今後さらなる疫学研究が必要とされています。

胸郭出口症候群の前兆や初期症状について

初期症状は主に腕を上げた姿勢で現れやすく、圧迫が一時的に強まることで引き起こされます。また症状は圧迫される神経や血管の部位によって異なりますが、共通して上肢・指のしびれがほぼ必発です。そのほか上肢痛、肩痛・肩こり、頸部痛、筋力低下などが見られます。
胸郭出口症候群の前兆や初期症状が見られた場合に受診すべき診療科は、整形外科です。胸郭出口症候群は腕や手の血管や神経が圧迫される症状であり、整形外科で診断と治療が行われています。

胸郭出口症候群の経過

前兆症状が長く続いたり、初期症状が強くなってくると、日常生活に支障をきたすようになります。
中期段階では、上肢の痛みや筋力低下が強くなり、日常生活での動作が制限されるようになります。また、一時的に改善しても、再発を繰り返します。
後期段階では高度の筋力低下が生じ、手指の運動障害や感覚障害が強くなります。慢性的な痛みや機能障害が残る可能性があります。

早期発見と治療が遅れると、症状が慢性化し、回復が難しくなることがあります。前兆や初期の段階で気づき、整形外科や脳神経内科医の診察を受け対処することが大切です。
胸郭出口症候群の前兆や初期症状が見られた場合に受診すべき診療科は、整形外科です。胸郭出口症候群は腕や手の血管や神経が圧迫される症状であり、整形外科で診断と治療が行われています。

胸郭出口症候群の検査・診断

1) 理学的検査

モーリー試験(Morley Test)

鎖骨上窩で胸鎖乳突筋の外側を圧迫します。圧痛があり、同時に疼痛が手に放散するのが障害側です。斜角筋症候群などで見られます。

アドソン試験(Adson Test)

患者さんに腰かけてもらい、両手を自分の大腿の上にのせ楽な姿勢をとらせます。両側の椎骨動脈拍動を触知します。つぎに患者さんに頭をできるだけうしろにそらせ、顔を左右いずれか一側に向かせて息を深く吸い込ませます。この方法で一側の脈拍のみが減弱ないし消失したり、一側の手に疼痛が生じれば検査は陽性です。斜角筋症候群の診断法として提唱されています。

ライト試験(Wright Test)

別名、肩過外転試験とも言います。座位で両肩関節90度外転、90度外旋、肘90度屈曲位を取らせると、手首のところの橈骨動脈の脈が弱くなるか触れなくなり、手の血行がなくなり白くなります。過外転症候群の診断法として提唱されています。

ルース試験(Roos test)

ライトテストと同じ肢位で両手の指を3分間屈伸させると、手指のしびれ、前腕のだるさのため持続ができず、途中で腕を下ろします。

エデン試験(Eden Test)

座位で胸を張らせ、両肩で後下方へ引かせると、手首のところの頭骨動脈の脈が弱くなるか触れなくなります。

2) 画像検査

X線(レントゲン)検査で、第7、または第6頸椎から外側に伸びる頸肋の有無や、肋鎖間隙撮影(鎖骨軸写像)で、鎖骨や第1肋骨の変形によりこの間隙が狭小化していないかを確認します。

3) 神経伝導検査

正中神経や尺骨神経などの上肢の運動・感覚神経伝導速度や振幅を測定し、神経障害の評価を行います。

4) 血液検査

ほかの疾患(糖尿病など)による神経障害を除外するために行われます。

これらの検査を組み合わせて総合的に判断し、胸郭出口症候群の診断と原因の特定を行います。

胸郭出口症候群の鑑別診断

頸椎症性神経根症、上腕神経束症候群、手根管症候群、肩関節周囲炎などの類似所見を示す疾患を除外します。また、糖尿病性神経障害や甲状腺機能異常などほかの原因疾患がないかを血液検査などで確認します。

胸郭出口症候群の治療

軽症例や初期症状の場合は、まず保存的療法が試みられます。消炎鎮痛剤、血流改善剤やビタミンB1などの投与も行います。しかし、薬物療法は症状緩和には有効ですが、根本的な治療とはならないので、姿勢改善や作業環境の改善、リハビリテーションなどの生活指導と併せて行うことが重要です。

1)理学療法・運動療法
温熱療法(ホットパックなど)や寒冷療法(アイシング)、電気刺激療法(低周波治療器など)、マッサージ療法など

2)薬物療法

  • 鎮痛剤:非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)〜イブプロフェン、ナプロキセンなど
  • 筋弛緩薬:エペリゾン塩酸塩、塩酸チザニジンなど
  • 抗不安薬・抗うつ薬:ジアゼパム、アミトリプチリンなど
  • ステロイド剤:強い抗炎症作用を持ち、注射薬として神経ブロック療法に使用される
  • 神経ブロック:局所麻酔薬やステロイド剤を直接神経周囲に注入する

3)生活指導
姿勢の改善、上肢の過剰使用を避ける、作業環境の改善、ストレスの軽減、バッグの持ち方の改善(両手で持つか、体幹に近づけて持つなど、片肩への負担を軽減する)など

保存的治療で改善がない場合は、神経や血管の圧迫を解除するための手術が行われます。手術は内視鏡手術やロボット支援手術も行われるようになり、低侵襲化が進んでいます。

  • 経腋窩第一肋骨切除術
  • 斜角筋切離術
  • 小胸筋腱切離術

上記の手術は、症状の程度や原因に応じて、最適な治療法が選択されます。

胸郭出口症候群になりやすい人・予防の方法

なりやすい人は以下のとおりです。

  • なで肩の人
  • デスクワーク・同一姿勢が多い人
  • 腕を上げる動作が多い人
  • 重労働・力仕事の人
  • 外傷や骨折の既往がある人

予防方法

姿勢の改善
なで肩や猫背などを避け、正しい姿勢を心がけます。長時間の同じ姿勢は避けます。
筋力トレーニング
肩甲骨周りの筋肉を鍛え、神経や血管への圧迫を防ぎます。
ストレッチングやマッサージ
筋肉の緊張をほぐし、神経や血管への圧迫を和らげます。
作業環境の改善
デスクワークでは定期的に休憩をとり、姿勢を変えます。作業台の高さなども適切にします。重労働では無理のない動作を心がけます。

関連する病気

  • 頚肋症候群
  • 斜角筋症候群
  • 過外転症候群

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