監修歯科医師:
宮島 悠旗(くろさき歯科)
顎関節症の概要
顎関節症は、顎の関節を構成する骨、筋肉、関節円盤、靭帯などに問題が生じて、口を開こうとすると顎関節や顎を動かす筋肉が痛む、あるいは十分には大きく口を開けられない症状を引き起こす疾患です。
なお、この顎関節症は下記の4つに分類されます。
- タイプⅠ型
口を開けたり閉じたりする咀嚼筋などの筋肉の障がいによっておこります。
症状としては、頬やこめかみのあたりが痛む、頭部、首、肩など離れたところに関節痛がおこります。
- タイプⅡ型
顎関節の関節包や靭帯などに力が加わって捻挫をしたような状態で、無理に口を開けすぎたり、固いものを食べたり、歯ぎしりや食いしばりでも生じます。
症状としては、顎を動かすと顎関節部が痛み、雑音がよく見られます。
- タイプⅢ型
上顎の骨と下顎の骨の間に存在する、クッションのような役割をする組織である関節円板の異常で生じます。
タイプⅢ型の場合は、関節円板の位置がずれてしまっているため、口を開けると、カクカクやポキポキといった関節雑音が生じます。
ただ、筋肉の痛みなどの症状はあまり見られません。
- タイプⅣ型
変形性関節症が原因なため症状だけでは診断できず、レントゲンを撮影して骨の変形がないか確認します。
顎関節症の原因
顎関節症の原因は下記のように、さまざまな原因によって発症します。
- 噛み合わせの問題
上顎や下顎のどちらかの大きさのバランスが悪く、歯の噛み合わせが不適切であると、顎関節に不均等な力がかかり、関節や筋肉に負担がかかりすぎた結果、顎関節症が発症しやすくなります。
- 姿勢の問題
頭や首の悪い姿勢が顎関節に負担をかけ、顎関節症を引き起こす場合があります。
普段から頬づえをしたり、座っているときの姿勢が悪い、デスクワークやスマートフォンの使用が多いと、顎関節が本来とは違う位置になるため、顎に負担がかかってしまいます。
- ストレス
強いストレスがかかると、日中の食いしばりや就寝中の歯ぎしりにつながるといわれているなど、口まわりの筋肉が緊張しやすくなります。
そのため、定期的な運動や趣味などをおこない、ストレスをためないように心がけることが重要です。
顎関節症の前兆や初期症状について
顎関節症は、早期に発見して対応することが重要です。
そのため、ここでは、よく見られる顎関節症の前兆や初期症状について説明します。
前兆
長時間話したり、硬いものを食べたりしたあとに、顎関節や口まわりの筋肉に違和感や不快感がおこることがあります。
初期症状
顎関節症の初期症状は、下記のような症状が顎や周辺部に現れることが多い傾向です。
- 顎の痛み
顎関節や咀嚼筋に軽い痛みが現れます。特に痛みは食事中や口を開けるときに感じる頻度が高いです。
- 顎関節の異常音
関節の不整合や筋肉の緊張により、口を開け閉めする際に、顎関節からカクカク、ポキポキ」といった音がします。
- 口の開閉の制限
朝に起きたときや長時間口を開けたあとなどに、口が大きく開けられない、あるいは閉じられないことがあります。
- 頭痛や耳の痛み
頭痛や耳の痛みを感じることがあり、特に側頭部の痛みや耳の奥に違和感が生じます。
これらの症状がみられた場合、口腔外科を受診して適切な検査・治療を受けることをおすすめします。
顎関節症の検査・診断
顎関節症に対して、適切な治療をおこなうためには検査・診断が重要です。ここでは、一般的におこなわれる検査・診断方法について説明します。
- 問診と身体診察
主な症状、痛みの程度、発症時期、痛みの持続時間、噛み合わせの状態などだけでなく、生活習慣やストレスの有無についても確認します。
また、顎関節や咀嚼筋を視診や触診をして、腫れや変形の有無、筋肉の緊張状態などを評価します。
- 画像診断
①X線検査
顎関節の骨構造を確認するためにおこない、骨の変形や関節の間の狭小化などをチェックします。
CT検査
骨の詳細な状態を確認するためにおこなわれ、顎関節の構造的な異常や骨折が疑われる場合に有効です。
③MRI検査
軟骨や靭帯、関節円板の状態を詳細に確認するために使用されます
MRI検査を実施することで、X線では見えにくい軟部組織の異常を把握できます。
- 咬合(こうごう)の評価
噛み合わせの不具合が生じていると、顎関節症の原因となることがあるため、咬合紙を使用して、歯がどのように接触しているかなどを評価します。
顎関節症の治療
顎関節症の治療は、症状の重症度や原因に応じて下記のように異なります。
- 薬物療法
顎の痛みが強い場合は、アセトアミノフェンやNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)などを処方して痛みや炎症を抑えます。また、筋肉の緊張が強く、歯ぎしりや食いしばりが強い場合は、筋弛緩薬を使用して筋肉の緊張を和らげます。
顎関節症の原因が持続的な強いストレスの場合は、抗うつ薬や抗精神病薬を処方して、慢性的な痛みの改善やストレスの軽減に努めます。
- 歯科的治療
就寝中にマウスピース(スプリント)を装着することで、顎関節や咀嚼筋への負担を軽減し、夜間の歯ぎしりや食いしばりを防ぐことができます。
また、歯の噛み合わせが不適切な場合は、噛み合わせのバランスを整える咬合調整をおこない、噛み合わせの改善をします。
- 手術療法
保存療法や薬物療法で効果が得られない場合は、手術療法を検討します。
実際、顎関節の変形、変位、癒着などが生じた場合や、関節の癒着、関節円板の変形などが見られる場合は手術対象となります。
手術は皮膚を切開しておこなう場合や、内視鏡を使用する場合など、症状に応じて異なりますが、多くの場合は全身麻酔を必要とする大掛かりな手術になります。
- 咬筋ボトックス治療
ブラキシズム(食いしばり)やクレンチングが顎関節症の原因になっていることが多く、ブラキシズムやクレンチングが認められる場合には、咬筋ボトックス治療を行うことで顎関節症が改善できる場合があります。
顎関節症になりやすい人・予防の方法
顎関節症になりやすい人は下記のような特徴があります。
また、これから紹介する内容を実践すれば顎関節症を予防できる場合もあります。
顎関節症になりやすい人
顎関節症は、下記のような特定のリスク要因を持つ人に多く見られる傾向です。
- 女性
男性に比べて骨の形成がきゃしゃなこと、筋肉が細く弱いことなどがあります。
また、50歳前後の更年期の女性では、女性ホルモンの急激な減少が影響しているのではないかともいわれています。
女性ホルモンであるエストロゲンには、筋肉や腱などの関節支持組織の柔軟性を維持する働きがあるため、エストロゲンの分泌が不安定になると柔軟性が低くなり、関節痛などの症状が現れます。
- ストレスを多く感じている人
持続的に精神的ストレスがかかっていると、顎関節や咀嚼筋の緊張を引き起こし、顎関節症を悪化させることがあります。
特に、歯ぎしりや食いしばりの癖がある人に多く見られます。
- 噛み合わせの不具合
噛み合わせが悪い場合は、顎関節に不均等な力がかかり、関節や筋肉に負担を与えます。
- 姿勢が悪い人
頭や首が前に出るなど、姿勢が悪い状態が続くと顎関節に負担がかかり、顎関節症を引き起こす可能性があります。
特に、デスクワークやスマートフォンの使用が多い場合には注意が必要です。
予防の方法
顎関節症の発症を予防するためには、下記の方法が有効です。
- 適切な姿勢を保つ
良い姿勢を保つことで、顎関節への負担を減らすことができます。
そのため、デスクワークの際には、椅子の高さやパソコンの位置を調整して、背筋を伸ばして座るようにしましょう。
- ストレス管理
定期的な運動や、ストレッチなどをとり入れることで、精神的なストレスを軽減するなど、普段からストレスの管理を効果的におこなうことが重要です。
- 噛み合わせの改善
噛み合わせに問題がある場合は、歯科医に相談して、歯の矯正や咬合調整をおこない嚙み合わせを改善しましょう。
- マウスピースの使用
歯ぎしりや食いしばりがある人は、夜間にマウスピースを装着することで顎関節への負担を軽減できます。
- 適度な運動
首や肩のストレッチや筋力トレーニングなどの定期的な運動をおこない、筋肉の緊張を緩和しましょう。
これらの方法を実践することで、顎関節症の発症リスクを減少でき、健全な生活を過ごすことができるはずです。
顎関節症の前兆や初期症状が見られた場合に受診すべき診療科は、歯科口腔外科です。
顎関節症は顎関節の機能障害による痛みと不快感を引き起こし、歯科口腔外科で診断と治療がおこなわれています。