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重症筋無力症
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

重症筋無力症の概要

重症筋無力症(じゅうしょうきんむりょくしょう)は、神経と筋肉の接合部(神経筋接合部)にある神経伝達物質であるアセチルコリンが受容体に結合するのを阻害する自己抗体によって引き起こされる自己免疫疾患です。神経から筋肉への信号が正しく伝わらず、筋力低下が生じます。特に日常的に使う筋肉が疲れやすいです。部位では、目の周りの筋肉や顔の筋肉、嚥下(えんげ)に関わる筋肉、四肢の筋肉などに現れることが多く、日常生活に大きな影響を与えます。重症筋無力症は、患者さん一人ひとりで症状が異なり、進行具合もさまざまです。慢性的な病気で、症状が急に悪化することもありますが、適切な治療と管理により症状をコントロールすることが可能です。

重症筋無力症の原因

重症筋無力症の主な原因は、免疫系が自己の体の一部を攻撃する自己免疫反応による自己免疫疾患です。具体的には、アセチルコリン受容体に対する自己抗体が産生され、神経伝達を妨げるため筋肉が適切に収縮しなくなります。

免疫系がなぜ誤作動するのかは完全には解明されていません。ただ、重症筋無力症では、胸腺(きょうせん)という臓器の異常が重症筋無力症の発症に関与している可能性があります。特に、胸腺腫(きょうせんしゅ)と呼ばれる腫瘍と重症筋無力症が合併している方も少なくないです。

その他の要因として、特定のウイルス感染やストレス、ホルモンの変化などが自己免疫反応を引き起こす引き金となることがあります。しかし、これらの要因がどのように重症筋無力症の発症に関与するかについては、さらなる研究が必要です。

重症筋無力症の前兆や初期症状について

重症筋無力症の初期症状は、個々の患者さんによって異なりますが、一般的には目の周りの筋肉に症状が現れることが多いです。例えば、まぶたが垂れ下がる(眼瞼下垂)、物が二重に見える(複視)などの症状があります。これらの症状は、朝よりも夕方や夜に悪化する傾向があります。なぜなら、夕方や夜は筋肉をたくさん使っているためです。

また、顔や喉の筋肉が影響を受けると、構音障害(話し方が不明瞭)や嚥下障害(飲み込みが難しくなる)場合があります。これにより、食事中にむせて食べられなくなり体重減少につながることもあるでしょう。さらに、四肢の筋肉が影響を受けると、腕や脚が疲れやすくなり、日常的な活動が困難になることがあります。

初期症状が軽いため、重症筋無力症と診断されるまでに時間がかかることが多いです。これらの症状が持続する場合や、悪化する場合は、早めに医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けましょう。

これらの症状がみられた場合、 脳神経内科を受診して適切な検査・治療を受けることをおすすめします。

重症筋無力症の検査・診断

重症筋無力症の診断には、筋力・神経学的検査、テンシロンテスト、画像診断が用いられます。

筋力・神経学的検査

重症筋無力症は筋力低下が主症状であるため筋力に関わる検査を実施します。症状の特徴として、筋肉が疲労しやすく持続しにくいです。具体的には、以下の検査を行います。

検査 内容
眼瞼の易疲労性試験 目だけ上を見るのを1分続け、眼瞼(まぶた)の下垂が出現すれば陽性です
アイスパック試験 アイスパックを眼球に押し当て2分間冷却。その後、眼瞼下垂が改善すれば陽性。安静時と比較するとわかりやすいです。
反復刺激試験 手のひらや肩の筋肉に短い間隔で連続して電気刺激を与えた場合に、次第に収縮力が低下すると陽性になります。通常では筋肉の収縮力は変化しないです。

血液検査

血液検査は、抗アセチルコリン受容体抗体の測定を行います。この検査では自己免疫反応が関与しているかどうかを判断します。重症筋無力症の患者で検出されることが多く、全身型では8〜9割、眼筋型では陽性率は低いです。

テンシロンテスト

テンシロンテストは、エドロホニウムという特殊な薬剤を使用した検査です。このテストでは、エドロホニウムを注射し、筋力が一時的に改善するかどうかを観察します。症状の改善が見られれば重症筋無力症が陽性です。

画像診断

画像診断では、胸部CTやMRI検査を用いて胸腺の異常を確認します。特に重症筋無力症患者では、胸腺腫が合併している場合があるため胸腺腫の有無を調べるのは重要です。重症筋無力症では、ランバート・イートン症候群、筋ジストロフィー、多発性筋炎など他に鑑別しなければいけない疾患は多く、これらの検査を総合的に評価することで、より正確な診断が可能になります。

重症筋無力症の治療

重症筋無力症の治療は、症状のコントロールと患者さんの生活の質を改善することを目的として行います。治療方法は、薬物療法、手術療法、およびリハビリテーションの組み合わせです。もし、胸腺腫を合併している場合は胸腺摘出術が行われる場合があります。

薬物療法

薬物療法としては、抗コリンエステラーゼ阻害薬が使用されます。これにより、神経筋接合部のアセチルコリンが増加し、神経伝達が改善されることで筋力が向上するためです。また、免疫抑制剤やステロイド薬が用いられ、自己免疫反応を抑制することで抗体の産生を減少させ、症状の悪化を防ぎます。

手術療法

手術療法では、胸腺摘出術が行われます。画像診断で胸腺腫が確認された場合に手術を実施することがあり、胸腺摘がない全身型では、年齢・症状・自己抗体の種類を考慮して手術を行うか検討します。

リハビリテーション

リハビリテーションは、筋力を維持し、日常生活の活動をサポートするために重要です。理学療法士や作業療法士と協力して、個別のプログラムを作成し、筋力訓練や日常生活活動訓練を実施します。一方で、過度に行うと症状を悪化させる可能性があるため指示がなければ、個人的な自主トレは行わないようにしましょう。

重症筋無力症になりやすい人・予防の方法

重症筋無力症は、女性にやや多く発症年齢は50歳以上が6割を占めています。詳しい発症原因は解明されていませんが、重症筋無力症では胸腺腫を合併していることが多く、胸腺の異常が関与している可能性があります。

重症筋無力症の悪化を抑える方法や重症筋無力症の予防の方法はまだ確立されていません。しかし、重症筋無力症を発症した際に症状が悪化しないように気をつけたいことがあります。

クリーゼ

感染や外傷・ストレスがきっかけで、急激に全身の筋肉が麻痺し、呼吸筋の筋力低下により息苦しくなる状態をクリーゼと言います。例えば、風邪による感染も症状を悪化させる原因になるため体調管理には注意です。もし息苦しい時はすぐに医療機関を受診しましょう。

食事の工夫

重症筋無力症では、嚥下に関わる筋力が低下し嚥下障害を引き起こします。嚥下障害がある場合は、固い食べ物や飲み込みにくい食べ物があれば、柔らかくとろみのある食事にするなどむせない工夫をしましょう。

自宅での生活

重症筋無力症では全身や一部の筋力が低下するため、日常生活がいつもと異なります。例えば、階段を上るのがきつい、家事が疲れてできないなどです。そのため、以前より筋力が低下していることを認識して生活しましょう。

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