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サルコペニア
松本 学

監修医師
松本 学(きだ呼吸器・リハビリクリニック)

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兵庫医科大学医学部卒業 。専門は呼吸器外科・内科・呼吸器リハビリテーション科。現在は「きだ呼吸器・リハビリクリニック」院長。日本外科学会専門医。日本医師会認定産業医。

サルコペニアの概要

サルコペニアは加齢に伴う骨格筋量の低下により筋力・身体機能が低下した状態を指します。
サルコペニアの概念が生まれるまでは、年齢を重ねると動きが緩慢になったり転びやすくなったりするのは加齢による現象と思われており、大きな問題とは考えられていませんでした。
加齢による骨格筋量の減少に個人差はありますが、一般的に30代から年間0.5〜1%ずつ骨格筋量は減少していきます。60代で骨格筋量の減少スピードは速くなり、80代では30代の頃の30〜40%程の骨格筋が減少するといわれています。
性差も関連しており、男性のほうが女性に比べて骨格筋量が多く、筋力も強いです。しかし、骨格筋量・筋力の低下スピードは男性のほうが速い傾向にあります。また、加齢による骨格筋量の減少は誰にでも起こり、筋線維の減少と関連しています。
極端に筋肉量が減少し、ふらつきや転倒が増えるとサルコペニアと診断されるでしょう。状態が改善されない場合、フレイルや要介護へと状態が悪化していくことも考えられます。転倒・骨折などに関係するのは、握力・歩行速度の低下とわかったため、評価には骨格筋量だけでなく筋力・身体機能も含まれています。
サルコペニアの有病率に性差はありませんが、加齢に応じて有病率は高くなる傾向にあるようです。75歳以上になると男女ともに10%以上の方がサルコペニアに該当し、80歳以上で25%を超えるデータもあります。

サルコペニアの原因

サルコペニアの主な原因は加齢です。活動量の低下・疾患・栄養不足などはサルコペニアの危険因子となります。
危険因子は、サルコペニアになる確率を高める要因のことです。疾患は1つの原因だけではなく、環境・生活習慣などの要因が合わさって起きます。
上記であげた原因以外にも、酸化ストレス・サイトカイン系やホルモンの異常などが関連しあってサルコペニアにつながっていると考えられています。

加齢

骨格筋は、筋たんぱく質の合成・分解を繰り返して作られます。サルコペニアでみられる筋肉の萎縮は、筋たんぱく質の合成が分解よりも少ないことで生じる現象です。筋たんぱく質の合成には、ホルモン・インスリン・機械刺激などが関係していますが、加齢に伴うホルモンの分泌低下・インスリン抵抗性・活動量の低下などで筋たんぱく質の合成が低下します。加えて、たんぱく質・ビタミンDなどの栄養素の不足も筋たんぱく質の合成低下につながります。
加齢による筋肉の変化は、筋線維数・筋断面積の減少に留まらず、筋線維自体にも生じるのが特徴です。筋線維は、収縮・代謝の特性から遅筋線維と速筋線維に分類されます。サルコペニアでは、瞬発的に大きな力を生み出す速筋線維の萎縮がみられます。
活動量が低下したり廃用が進んだりした際には、遅筋線維が萎縮しやすいためサルコペニアでみられる症状とは異なるのも特徴的です。遅筋線維は、速筋線維よりも収縮のスピードが遅く、大きな力を生み出すことには向いていません。
ただし、疲れにくいため長時間一定の力を維持するのには向いています。また、加齢による運動神経細胞数・筋サテライト細胞の減少・神経筋接合部の形態変化などもサルコペニアの発症に関与していると考えられています。

疾患

糖尿病・骨粗鬆症などの疾患も原因の1つと考えられるでしょう。2型糖尿病・慢性腎臓病・COPD(慢性閉塞性肺疾患)などの疾患が合併すると、サルコペニアの頻度は高くなる傾向にあります。
英国の報告ではヨーロッパのサルコペニアの評価基準で、COPDの方の14.5%にサルコペニアの併存が認められています。

栄養不足

栄養不足による低栄養状態は、高齢者にとってさまざまな機能障害の原因となるでしょう。低栄養状態になることで衰弱・免疫力の低下・骨の脆弱性が生じ、感染や転倒しやすくなります。そういった状態ではADLの低下・QOLの悪化につながるでしょう。

サルコペニアの前兆や初期症状について

サルコペニアは腹筋・広背筋・膝伸筋群などの抗重力筋が低下するため、立ち上がったり歩いたりすることが億劫になり、徐々に動作が緩慢になっていくでしょう。
治療を行わずに放置しておくと歩行困難につながり、より活動量が低下します。活動量が低下するとADLの低下・QOLの悪化につながります。
症状があった場合には、整形外科やリハビリテーション科を受診しましょう。

サルコペニアの検査・診断

次に示す3点がサルコペニアの診断に必要になります。

  • 骨格筋量(DXA法もしくはBIA法)
  • 筋力(握力)
  • 身体機能(歩行速度・SPPB・5回の椅子立ち上がりテスト)

診断では骨格筋量の低下は必須条件です。加えて、筋力もしくは身体機能のどちらかが低下している場合にサルコペニアの診断が出るでしょう。骨格筋量・筋力・身体機能のすべてが低下している場合は、重度サルコペニアになります。まず、骨格筋量の評価にはDXA法またはBIA法が用いられます。

カットオフ値は、DXA法では男性で7.0kg/平方メートル未満、女性で5.4kg/平方メートル未満です。BIA法では男性で7.0kg/平方メートル未満、女性で5.7kg/平方メートル未満とされています。筋力は握力で評価し、男性で28kg未満、女性では18kg未満が低筋力の基準になります。

身体機能では、3項目の検査がありますが、どの検査を行っても構いません。3項目は、通常の歩行速度・SPPB・5回の椅子立ち上がりテストです。通常の歩行速度が1.0m/秒未満、SPPBが9点以下、5回椅子立ち上がりテストが12秒以上で身体機能低下となります。SPPBは立位バランス・歩行・立ち座り動作の3つの課題からなります。
バランス・下肢筋力の状態がわかる評価法です。施行時間は5分程で済みます。身体機能の検査では、性差が認められなかったため、男女ともにカットオフ値は同じです。

サルコペニアの治療

サルコペニアの抑制に推奨される治療法は運動療法と栄養療法です。2つの治療法は併用が効果的とされています。

運動療法

運動療法で効果的なのは、筋力トレーニングです。低強度で疲れるまで行う方法や自重による筋力トレーニングで筋肥大・筋力増強が認められています。推奨されている筋力トレーニングの頻度・回数などは次のとおりです。

  • 頻度:3回/週
  • 量:2~3セット
  • 1セット:7~9回の繰り返し
  • 強度:筋力の51~69%
  • 1回に6秒程かけて行う
  • セットの間は2分間の休憩

ウォーキングも6ヵ月行うと、大腿筋厚の増加・膝関節屈曲や足関節の背屈の筋力が増加します。ただ単にウォーキングするよりも早歩きと遅めの歩きを交互に行うインターバル型で行うほうが、膝筋力の増加率が増えるため効果的です。
また、身体活動量・歩数が多い程サルコペニアの発症リスクは低下するため、日常生活に運動や活動的な活動を意識して取り入れるのがおすすめです。

栄養療法

栄養状態もサルコペニアと強い関連性があります。そのため、必要なエネルギー・栄養素の摂取が予防・治療には重要になるでしょう。筋肉量とたんぱく質摂取量との関連性には不明な点もありますが、筋力・身体機能とたんぱく質摂取量には有意な関係がわかっています。高齢者は、若年者に比べて食事の摂取量が減り、筋たんぱく質の合成に必要なたんぱく質の摂取量も少なくなりがちです。
また、高齢者は若年者に比べてたんぱく質を合成する速度も遅く、合成よりも分解が上回るため筋萎縮が進みサルコペニアが悪化する可能性も高くなります。たんぱく質だけの治療では骨格筋量・筋力への効果は乏しいですが、筋力トレーニングとの併用で筋肉量・握力ともに有意な改善がみられています。
サルコペニアの予防に有効なたんぱく質の推奨摂取量は、1日に体重1kgあたり1.0g以上です。体重60kgの方であれば、1日に60g以上のたんぱく質摂取が目安になります。運動の効果を発揮するためにも、たんぱく質の摂取量が不足しないように日々の食事に気をつかいましょう。

サルコペニアになりやすい人・予防の方法

サルコペニアになりやすい人は、身体的フレイルを発症している人だといわれています。
フレイルは、ストレスに対する回復力が低下した状態と定義されており、高齢者は感染症によってもストレスを受けます。そのため、運動療法と栄養療法に加えてインフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンの接種により、感染症や疾患の予防に努めることも必要です。


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