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前田 佳宏

監修医師
前田 佳宏(医師)

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島根大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科に入局後、東京警察病院、国立精神神経医療研究センター、都内クリニックにて薬物依存症、トラウマ、児童精神科の専門外来を経験。現在は和クリニック院長。愛着障害やトラウマケアを専門に講座や情報発信に努める。診療科目は精神神経科、心療内科、精神科、神経内科、脳神経内科。 精神保健指定医、認定産業医の資格を有する。

演技性パーソナリティ障害の概要

パーソナリティとは、物事のとらえ方、考え方や行動のパターンを指します。考え方や行動のパターンが、一般的に期待される範囲を超えて極度に偏り、社会生活に支障を来す場合に、パーソナリティが障害されていると考えます。
このパーソナリティ障害のなかにいくつかのタイプがあり演技性パーソナリティ障害もそのなかの一つです。

演技性パーソナリティ障害の患者さんは、過剰な感情表現と、注目を集めようとする行動を特徴とします。この傾向は成人期初期までに始まり、さまざまな状況で見られます。自尊心はほかの方からの承認に依存しており、真の自己肯定感から生まれるものではありません。注目されたいという強い欲求があり、注目を集めるために大げさな行動や、不適切な行動をとります。

パーソナリティ障害は、一般の方のなかでもある程度高い割合で存在すると考えられており、それぞれのタイプは人口の約1〜2%に認められるとされています。演技性パーソナリティ障害に関しては、一般集団の人口の約1%であると推測されています

演技性人格障害を持つ方の多くは、自分の行動や考え方が問題であるかもしれない、と認識していません。このため、早期の治療介入につながらないことが多い現状があります。

演技性パーソナリティ障害の原因

演技性パーソナリティ障害の原因は、解明されていませんが、いくつかの可能性が示唆されています。

演技性パーソナリティ障害の患者さんが家族内にいる場合、発症しやすいことが報告されており、遺伝的要因の関与が考えられています。また、幼少期の虐待や家族の死といった精神的トラウマ、親子関係の問題などの環境要因も、発症に影響を与えている可能性があると考えられています。

演技性パーソナリティ障害の前兆や初期症状について

演技性パーソナリティ障害は、その他のパーソナリティ障害と比べて、障害の程度が低いことが多いとされ、一見して問題があるとは気付かれにくいことがあります。症状として、具体的には以下のようなものがあります。

症状の具体的な例

  • 目新しいものを欲しがるが、すぐに飽きる(友人や仕事をたびたび変えるなど)
  • 注目を集めるために、作り話をしたり、場を盛り上げようとしたりする
  • 性的に挑発的な行動が、職場や公的な場などふさわしくない状況でも見られる
  • 些細な出来事で抑えきれないほど泣きじゃくる、癇癪を起こす
  • 他者へ印象を与えるために、服装や身だしなみに多大なエネルギーとお金をかける
  • 強い権威のある人物を、問題を魔法のように解決してくれる存在として過信する
  • ほとんどすべての知人を、私の親愛なる友人と表現するなど、人間関係を実際よりも親密であると考える

受診すべき診療科

演技性パーソナリティ障害の症状がみられる場合、精神科もしくは心療内科を受診してください。

演技性パーソナリティ障害の検査・診断

演技性パーソナリティ障害の診断のために、精神科の医師や臨床心理士による面接、心理検査などが行われます。これにより、パーソナリティ障害と判断された場合さらにタイプを分類し演技性パーソナリティ障害と診断されます。

パーソナリティ障害の診断

パーソナリティ障害の診断には、国際的に認められた基準が用いられており、主に以下の基準が使用されています。 

DSM-5
(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)
 精神疾患の診断・統計マニュアル第5版
ICD-11
(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems)
 国際疾病分類第11版

今回は米国精神医学会が発行しているDSM-5に基づいて解説します。診断基準として以下の6つの項目が挙げられます。

  • いつもの思考・行動パターンが社会の標準からずれている(以下のうち2つ以上)
    ・認知(物事のとらえ方や考え方)
    ・感情性(感情の種類や強さ、不安定さ、適切さ)
    ・対人関係機能(人との関わり方)
    ・衝動の制御(自分の行動をコントロールする力)
  • この思考・行動のパターンに柔軟性がなく、家庭、職場など生活のあらゆる場面で認められる
  • この思考・行動のパターンによって日常生活に支障をきたしている
  • この思考・行動パターンが長い間続いており、少なくとも10代後半~20代前半に始まっている
  • ほかの精神の病気による症状ではない
  • 頭のけがや病気、薬物の使用などが直接の原因ではない

これらのパーソナリティ障害の診断基準を満たした場合、次にどのタイプに分類されるかを検討します。

演技性パーソナリティ障害の診断

演技性パーソナリティ障害の本質的な特徴は、あらゆる場面でみられる過剰な感情表現と、注目を集めようとする行動です。このような症状は、成人期初期までに始まり、さまざまな状況でみられます。次に挙げる5つ以上の項目に該当する場合に、演技性パーソナリティ障害と診断されます。

  • 自分が中心ではない状況に不快感を覚える
  • 他者との交流において、性的に不適切な誘惑行動または挑発的な振る舞いが、しばしばみられる
  • 感情表現が目まぐるしく変化し、その感情は深みがなく表面的である
  • 常に外見を用いて自己への注目を集めようとする
  • 過度に印象的で、細部を欠いた話し方をする
  • 自分の経験や感情を過度に誇張、演出して表現したり(自己劇化)芝居がかった表現をしたりする
  • 暗示にかかりやすい(他者や状況に影響を受けやすい
  • 人間関係を実際より親密なものと考える

演技性パーソナリティ障害の治療

演技性パーソナリティ障害の治療は、パーソナリティ障害全般の治療法に準じて精神療法(心理療法)と薬物療法が行われます。しかし、演技性パーソナリティ障害の方は、自分の行動が問題だとは思っていないため、治療につながらないこともあります。

一方、演技性パーソナリティ障害は、うつ病などほかの精神疾患を合併することがあり、こういったその他の問題によって苦痛を感じる場合は、本人から助けを求めることがあります。

また、演技性パーソナリティ障害の患者さんは、感情を誇張したり、日常的な習慣を嫌ったりする傾向があるため、治療計画の遵守が困難になることも多くみられます。

精神療法

精神療法は、対話を通じて、患者さんが自分の感情や考え方を見直し、問題を理解することで対処法を見つけ、克服しようとする治療法です。演技性パーソナリティ障害に対する精神療法としては、精神力動的療法認知行動療法支持的精神療法などがあります。

精神力動的精神療法(精神分析的精神療法)

精神力動的精神療法とは、症状や悩み、現在の思考、感情、行動の背景にある、無意識な自分の傾向を認識することで、症状の改善を目指す精神療法です。考えることが困難であった自分のあり方や、物事のとらえ方などについて考えられるようになり、自分自身を深く理解できるようになります。これにより他者や環境との関わり方が変わっていくことが期待されます。

認知行動療法

認知行動療法とは、物事のとらえ方と思考パターンに焦点を当て、現実とは異なっている考え方や思い込みに自分自身で気付き、それを現実に沿ったとらえ方や考え方に修正していく精神療法です。

支持的精神療法

認知行動療法は患者さんの考え方の変化を目指す治療ですが、支持的精神療法はそういった変化を目的としません現在患者さん自身が持っている資質をうまく活かせるように支援する精神療法です。

薬物療法

現在、パーソナリティ障害そのものに対して効果が認められた薬はありません症状の一部を和らげる目的で、抗うつ薬や抗不安薬を使用することがあります。いずれにしても、精神療法と併用されることが一般的です。

演技性パーソナリティ障害になりやすい人・予防の方法

家族のなかに演技性パーソナリティ障害の方がいる場合や、幼少期に虐待や親子関係で問題があった方は、演技性パーソナリティ障害の発症リスクが高い可能性が示唆されています

演技性パーソナリティ障害を予防することは困難です。しかし、かかりやすい傾向がある方は、早めの介入が有効であると考えられます。問題の引き金となる行動や思考、状況に対して、より建設的に対応できるような方法を学ぶことが可能となります。

演技性パーソナリティ障害は、うつ病、物質使用障害(薬物やアルコール使用により日常生活に影響を来す状態)、ほかのパーソナリティ障害など、精神疾患を合併することがあります。その他にも、身体症状症、パニック症などを合併する可能性も高いと言われています。

このように、さまざまな症状を引き起こす可能性があるため、早めに専門家の手を借りることが重要です。疑わしい症状がある場合は、早めに精神科もしくは心療内科を受診しましょう。

関連する病気

  • 自己愛性パーソナリティ障害(NPD)
  • 反社会性パーソナリティ障害(ASPD)
  • 双極性障害(特に軽躁状態)
  • 全般性不安障害(GAD)

参考文献

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