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PTSD
伊藤 有毅

監修医師
伊藤 有毅(柏メンタルクリニック)

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専門領域分類
精神科(心療内科),精神神経科,心療内科。
保有免許・資格
医師免許、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医

PTSDの概要

PTSD(Post Traumatic Stress Disorder )は、心的外傷後ストレス障害と呼ばれ、命の安全が脅かされるような心に強い衝撃を受けたり、極端なストレスがかかったりした後、心身にさまざまな症状が現れる病気です。

世界の人々の3.9%が経験しており、男性よりも女性がなりやすいです。

出典:「心的外傷後ストレス障害 (PTSD)|日本WHO協会」

つらい体験の後は、誰でも心身に不調を感じる可能性があります。しかし、その症状が長く続き、日常生活に支障が出る場合、発症の恐れがあります。

症状の例として、仕事や学業に集中できなくなったり、人間関係がうまくいかなくなったりします。また、不安や抑うつなどの精神的な症状だけでなく、頭痛や腹痛などの身体的な症状が現れる場合もあります。

治療にはセルフケアや心理療法、薬物療法などがあり、症状の軽減や回復が期待できます。そのため、心身の不調を感じたら、一人で抱え込まず、精神科や心療内科の専門医の受診を検討してください。

PTSDの原因

PTSDは強いストレスを伴うトラウマの経験が主な原因です。自然災害や事故、暴力、虐待など、生命や身体の安全を不安に思う出来事を経験すると発症するリスクがあります。

しかし、つらい体験が、必ずしもPTSDを引き起こすわけではありません。体験の内容や深刻さだけでなく、それに対する個人の受け止め方や、周囲のサポートの有無なども、発症に関わっています。

PTSDの前兆や初期症状について

PTSDの症状は大きく4つのカテゴリーに分けられます。症状のあらわれ方には個人差があります。

侵入(再体験)症状群

つらい体験を繰り返し思い出してしまうことが、侵入の症状です。

突然、つらい記憶がよみがえる(フラッシュバック)、出来事を思い出すような状況で強い苦痛を感じるなどの症状がみられます。

フラッシュバックは、まるで過去の体験が目の前で再現されているように感じられる現象です。強い恐怖や不安、怒りなどの感情を伴うことが多く、生活に支障をきたします。

また、体験を思い出すような状況を避けるために、行動範囲が狭まってしまう人もいます。事故現場を通るのが怖くて、遠回りをするようになったり、事件のことを思い出すきっかけになるテレビ番組を見なくなったりする人もいます。

回避

つらい体験を思い出すことを避ける行動も、PTSDの症状と言えます。体験に関連する場所や人を避ける、体験について話すことを避ける、感情が麻痺したように感じるなどの症状があらわれます。

回避行動は、一時的に心の負担を軽くする効果があるかもしれません。しかし、長い目で見れば、社会的な孤立を招き、病状が悪化するリスクがあります。

認知や気分の異常

考え方や感情が否定的に変化して自己肯定感が著しく低下することがあります。具体例としては、自分はダメな人間だと感じる、将来に希望を持てない、周囲の人に対して愛情や関心を持てないなどです。

これらの変化は、対人関係や社会生活に悪影響を与えることがあります。

これらの認知の変化は、他の精神障害の症状とよく似ています。実際に、うつ病やアルコール依存、睡眠障害、不安障害などを併発しているといわれています。

また、家族や友人に対して不信感を抱き、感情をうまくコントロールできなくなるため、人間関係に支障をきたして孤立する人もいます。

過覚醒

自律神経系のバランスが乱れ、心身が常に緊張状態になるため、ちょっとしたことに苛立ったり、怒りっぽくなったりする場合があります。

集中力や記憶力の低下も、代表的な症状の一つです。過去のつらい出来事が頭から離れず、目の前のことに集中できなかったり、新しいことを覚えるのが難しくなったりすることがあります。

また、交感神経が優位な状態が続くため、眠りにつくのが難しく、夜中に何度も目が覚める症状に悩まされる人もいます。

これらの症状は、日常生活を送るうえで大きな負担となり、社会生活に支障をきたします。

PTSDの検査・診断

PTSDの診断は、専門医による問診でおこなわれます。問診では、つらい出来事の内容や症状の経過、日常生活への影響などを詳しく聞かれます。

具体的には、侵入(再体験)症状群や回避などの症状が1ヶ月以上続き、強い苦痛を感じて、対人関係や社会生活に支障をきたしている場合に診断されます。

必要に応じて、心理検査や脳波検査などがおこなわれることもあります。心理検査は、症状の程度を客観的に評価するために用いられます。

また、脳波に特徴的な変化が見られるケースがあるため、脳波検査をおこない脳の活動状態を調べます。

ただし、脳波検査は、PTSDの診断に必須ではありません。あくまで、診断の補助としておこなわれることがあります。専門医がさまざまな情報を総合的に診断します。

PTSDの治療

PTSDの治療法は、患者さんの状態に合わせて選択されます。主な治療法としては、セルフケア、認知行動療法、薬物療法があります。

セルフケア

セルフケアは、患者さん自身がおこなうケアのことです。具体的には、十分な睡眠をとる、バランスの取れた食事を摂る、適度な運動をする、リラックスできる時間を作るなどが挙げられます。

また、呼吸法も効果があると言われています。呼吸で使う筋肉をほぐすために「3秒吸って3秒止めて、6秒かけて吐く」という動作を5~10回繰り返し、息を吐くときに身体の力を少しずつ抜くことが大切です。

そして、信頼できる家族や友人、会社の同僚に話を聞いてもらうことは、心の負担を軽くするために重要です。臨床心理士やカウンセラーなどとのカウンセリングも、自分の気持ちを言葉にすることで感情を整理でき、気持ちが楽になります。

セルフケアは、地道な努力が必要ですが、継続することで効果が期待できます。

認知行動療法

認知行動療法はPTSD治療の中核となる心理療法です。

トラウマ体験に関連する思考や行動パターンを変えることで症状の改善を目指します。特に「持続エクスポージャー療法」の専門的手法が効果的とされています。

持続エクスポージャー療法では、安全な環境で過去の出来事に段階的に向き合うことで、恐怖反応を弱めていき、トラウマと、それに似てはいるが危険ではない出来事の区別ができるようになります。

薬物療法

PTSDの治療薬は主にSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が第一選択薬です。

また、薬物療法は、認知行動療法と併用することで、効果が期待できます。専門医の指示に従い、正しい用法・用量を守ることが不可欠です。

PTSDになりやすい人・予防の方法

PTSDは誰にでも発症する可能性があります。特に過去に事故や虐待などの経験がある人や精神疾患の家族歴がある人、ストレスにうまく対処できない人がなりやすいと言われています。

完全に予防することは難しいですが、重篤な症状を防ぐためにも、十分な睡眠や適度な運動、適度なリラックスなどのストレスを溜め込まない生活を日頃から送ることが大切です。

また、心的外傷となるような出来事を経験した後でも、家族や友人によって支えられていることを実感すると、発症のリスクを減らせます。

もし、つらい体験をした後に、心身の不調が続くようであれば、早めに専門医に相談してください。早期発見・早期治療が、回復への第一歩です。

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