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自閉スペクトラム症
勝木 将人

監修医師
勝木 将人(医師)

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2016年東北大学卒業 / 現在は諏訪日赤に脳外科医、頭痛外来で勤務。 / 専門は頭痛、データサイエンス、AI.

自閉スペクトラム症の概要

自閉スペクトラム症(ASD)は、社会的コミュニケーションの困難さやこだわりの強さなどを特徴とする発達障害の一つです。

子どもの頃は、周囲の支援によって困りごとが目立たず、診断に至らないこともあります。そのため、大人になって職場での人間関係や仕事に支障をきたしてから初めて自閉スペクトラム症と気づくケースもあります。

自閉スペクトラム症の原因は明確には解明されていないものの、脳の発達に関わる遺伝的要因や妊娠中の環境要因が影響していると考えられています。

自閉スペクトラム症の症状は個人差があり、年齢ごとに目立つ症状は変化していきます。 主な症状としては、対人コミュニケーションの障害、特徴的な行動や動作、興味範囲の狭さ、感覚の過敏さまたは鈍さが挙げられます。

診断には、DSM-5の基準が用いられ、子どもや両親への問診にて総合的に判断されます。 根本的な治療法は存在しませんが、日常生活や社会生活を円滑にするために、個々の特性に応じた支援や療育、薬物療法などを組み合わせることが必要になります。

福祉的サポートを受けることで日常生活の困難さの軽減が期待できるため、気になる症状がある場合は医療機関を受診しましょう。

自閉スペクトラム症の原因

自閉スペクトラム症の明確な原因は、現在のところ解明されていません。 遺伝的な要因によって、生まれつき異なる脳の働き方が生じることによって発症すると言われています。 育て方や親の愛情不足が原因ではありません。

また、妊娠中の体調や環境も影響する可能性があると考えられています。 母体の風しんウイルスなどの感染、出産時の赤ちゃんの低出生体重や低酸素状態などが、自閉スペクトラム症のリスクを高める要因になると言われています。 両親の年齢や、鉛などの有害物質との接触、特定の薬剤の使用なども、発症に影響すると指摘されています。

自閉スペクトラム症の前兆や初期症状について

自閉スペクトラム症の患者には、人との関わりが苦手だったり、特定のことに強くこだわったりする特徴が見られます。 自閉スペクトラム症の症状は年齢とともに変化するため、発達時期によって目立つ症状が異なります。

乳児期の症状

乳児期には、視線が合わない、笑いかけても笑い返さない、指差しが少ない、後追いをしないなど、一般的な発達の過程とは異なる行動が見られることがあります。 感覚が過敏であることが多く、抱っこしようとすると体をのけぞらせて嫌がったり、聞きなれない音に対して強く反応したりすることもあります。 食べ物の好き嫌いが激しく偏る傾向や、やり方に融通が利きにくいなどのこだわりの強さが見られます。 また、話し出す時期が遅いなど言語の発達に遅れが見られることもあります。

幼児期の症状

幼児期になると、幼稚園や保育園などの集団生活の中で、まわりの子どもとの違いが目立つようになります。 たとえば、友達と一緒に遊ぶのが苦手で、一人で過ごすことが多かったり、特定の遊びに強くこだわって同じ遊びを繰り返すことがあります。 興味があることについては強いこだわりを示し、大人並みの知識を持つこともあります。 友達との会話は一方通行になりやすく、相手の話をしっかり聞けなかったり、質問されても答えられなかったりします。

また、突然の予定変更を嫌がったり、初めてのことに強い不安を感じたりすることもあります。

学童期の症状

学童期には、学校の授業に集中できなかったり、先生の話をうまく聞き取れなかったりすることがあります。 先生の指示や学校のルールに従うことが難しく、グループで集団行動することに対して苦痛や不安やストレスを感じることもあります。

思春期の症状

思春期には、対人関係の複雑さが増し、人との関わりがより難しくなります。 自分の気持ちをうまく言葉にできず、困っていても周囲に相談できないことがあります。 いじめの被害にあっても、他者にうまく伝えられず、ひとりで抱え込んでしまうケースも少なくありません。 周囲に合わせようと無理することで、精神的に疲れやすくなることもあります。

成人期の症状

成人期には、職場での人間関係や仕事への適応に困難さを感じることがあります。 仕事を柔軟にこなすことが苦手だったり、マニュアル通りでないと不安になったりします。結婚や子育てといった家庭内での役割にも悩みや戸惑いを感じることがあり、社会生活そのものに強いストレスを感じてしまうこともあります。 その結果、うつ病などの精神的な不調をきたす人もいます。

自閉スペクトラム症の検査・診断

自閉スペクトラム症の診断には、アメリカ精神医学会が定めた「DSM-5」という診断基準が用いられます。

DSM-5では、社会的なやりとりがうまくできないこと、言葉やしぐさでのコミュニケーションが困難であること、特定のものや行動に強くこだわること、音や光などに対して敏感に反応することなどを総合的に見て診断します。

自閉スペクトラム症の治療

自閉スペクトラム症の根本的な治療法は、現在のところ見つかっていません。 そのため、日常生活や社会生活を円滑にするために、個々の特性に応じた療育(支援)、薬物療法をおこない、症状を緩和することが求められます。 これらの治療には周囲の理解と協力も不可欠です。

療育

自閉スペクトラム症に対する療育として、行動療法やソーシャルスキルトレーニング、言語療法などが挙げられます。

行動療法では日常生活において、困った行動を減らして望ましい行動を身につける練習をします。 ソーシャルスキルトレーニングでは、人との関わり方や会話の方法を学びます。 言語療法では、言葉の発達が遅れている子どもに対して、話す力や聞く力を育てる支援をおこないます。 年齢や発達の段階、本人の性格、家庭環境などをふまえ、必要なサポートを組み合わせて個々に合った内容を提供していきます。

また、本人だけでなく、保護者や支援する人たちへのサポートもおこなわれます。 子どもへの関わり方や気持ちの支え方を学ぶ機会を通して周囲の理解が深まることで、よりよい支援につながります。

薬物療法

現時点では、自閉スペクトラム症を治す薬はありません。 自閉スペクトラム症のある人は、二次的に不安障害や気分障害を併発することが多いためそれらの症状を軽くするための補助的な手段として薬物療法が用いられることがあります。 易刺激性(いしげきせい:ささいなことに対して不機嫌になる状態)が見られる場合には、抗精神病薬が使用されます。 また、睡眠障害に対しては、睡眠薬が処方されることもあります。

自閉スペクトラム症になりやすい人・予防の方法

自閉スペクトラム症になりやすい人の傾向は、現時点でわかっていません。 妊娠中の母体が感染症にかかった場合や、赤ちゃんが低体重で生まれた場合、出産前後に酸素が足りなくなる状況があった場合などは、自閉スペクトラム症の発症リスクが高まる可能性があると考えられています。

自閉スペクトラム症は、先天的な脳の発達の違いによって起こるため、現在のところ確実な予防法は確立されていません。 しかし、妊娠中の健康管理や生活環境に気を配ることで、赤ちゃんの発達への悪影響を抑えられる可能性があります。 具体的には栄養バランスのとれた食事や、十分な睡眠を心掛け、アルコールやたばこを控えましょう。 感染予防対策も徹底し、風しんなどの感染症の予防にも努めてください。

出産後は子どもの様子をよく観察し、気になることがあれば早めに医療機関へ相談しましょう。

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