目次 -INDEX-

妄想性パーソナリティ障害
前田 佳宏

監修医師
前田 佳宏(医師)

プロフィールをもっと見る
島根大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科に入局後、東京警察病院、国立精神神経医療研究センター、都内クリニックにて薬物依存症、トラウマ、児童精神科の専門外来を経験。現在は和クリニック院長。愛着障害やトラウマケアを専門に講座や情報発信に努める。診療科目は精神神経科、心療内科、精神科、神経内科、脳神経内科。 精神保健指定医、認定産業医の資格を有する。

妄想性パーソナリティ障害の概要

パーソナリティとは、物事のとらえ方、考え方や行動のパターンの全体を指します。考え方や行動のパターンが、一般的に期待される範囲を超えて極度に偏り、社会生活に支障を来す場合に、パーソナリティが障害されていると考えます。
このパーソナリティ障害のなかにいくつかのタイプがあり、妄想性パーソナリティ障害もそのなかの一つです。

妄想性パーソナリティ障害は、周囲の方への強い不信感や根拠のない疑いを特徴とします。このため他者との関係を築くことが難しく、社会生活に支障をきたします。
パーソナリティ障害は、一般の方のなかでもある程度高い割合で存在すると考えられており、それぞれのタイプは人口の1〜2%に認められるとされています。妄想性パーソナリティ障害に関して、米国では人口の2〜4%に認められると推測されています。

妄想性パーソナリティ障害の原因

妄想性パーソナリティ障害の原因は、はっきりとはわかっていません。
幼少期の精神的、身体的虐待などが関与している可能性も考えられていますが、妄想性パーソナリティ障害について詳しく調べられた報告や研究は少ないのが現状です。

妄想性パーソナリティ障害の前兆や初期症状について

妄想性パーソナリティ障害の患者さんは、周囲の方を信用せず、根拠がないのに人が自分に害をなそうとしている、または騙そうとしていると考えます。
その自分の疑いを裏付ける証拠を探すために、人の言動を細かく調べ、吟味します。また、悪意のない言動に対して、自分は傷つけられたと感じとり、攻撃的になることもあります。

これらの症状は幼少期から明らかになることがあり、周囲から奇妙に見られたり、付き合いづらいと感じられたりして、しばしば孤立してしまいます

症状の具体的な例

  • 友達の些細な一言を、自分をけなしたり陥れたりしていると考える
  • 理由もないのに、自分が攻撃されるかもしれないと常に感じている
  • 親しい方でも、秘密を打ち明けたり個人の情報を教えたりしない
  • 手伝いを申し出られたときに、1人で仕事をすることができないと思われていると考える
  • 根拠もないのにパートナーの浮気を疑い、常にその行動などを問いただす
  • 傷つけられたと感じた場合、いつまでも相手を許さない
  • 周りの方が否定的な反応をすると、それを自分の疑いを裏付けるものと考える

受診すべき診療科

妄想性パーソナリティ障害の症状が日常生活に支障を来している場合、精神科を受診してください。
ただし、本人が病識を持ちにくく、周りの方が問題であると考えてしまうため、受診につながらないケースも多くあります。

妄想性パーソナリティ障害の検査・診断

診断のために、精神科の医師や臨床心理士による面接、心理検査などが行われます。これにより、パーソナリティ障害と判断された場合、さらにタイプを分類し妄想性パーソナリティ障害と診断されます。

パーソナリティ障害の診断

パーソナリティ障害の診断には、国際的に認められた基準が用いられており、主に以下の基準が使用されています。 

DSM-5
(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)
 精神疾患の診断・統計マニュアル第5版

ICD-11
(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems)
 国際疾病分類第11版

今回は米国精神医学会が発行しているDSM-5に基づいて解説します。診断基準(特徴的な症状のセット)として以下の6つの項目が挙げられます。

  • いつもの思考・行動パターンが社会の標準からずれている
    これは以下の項目のうち2つ以上で現れる。
    ・認知(物事のとらえ方や考え方)
    ・感情性(感情の種類や強さ、不安定さ、適切さ)
    ・対人関係機能(人との関わり方)
    ・衝動の制御(自分の行動をコントロールする力)

  • この思考・行動のパターンに柔軟性がなく、家庭、職場など生活のあらゆる場面で認められる
  • この思考・行動のパターンによって日常生活に支障をきたしている
  • この思考・行動パターンが長い間続いており、少なくとも10代後半~20代前半に始まっている
  • ほかの精神の病気による症状ではない
  • 頭のけがや病気、薬物の使用などが直接の原因ではない

これらのパーソナリティ障害の診断基準を満たした場合、次にどのタイプに分類されるかを検討します。

妄想性パーソナリティ障害の診断

妄想性パーソナリティ障害の診断は、診断基準の項目を一つ一つ、当てはまるかどうか確認します。
以下のうち4つ以上の項目が当てはまるとき、妄想性パーソナリティ障害と考えられます。

  • 他者が自分を利用している、傷つけている、または裏切っていると、十分な理由もなく疑っている
  • 友人や仲間の誠実さや信頼について根拠のない疑いにとらわれている
  • 情報が自分に不利に使われるのではないかと考え、他者に秘密を打ち明けたがらない
  • 悪意のない言葉や出来事に、誹謗、敵意、または脅迫的な意味が隠されていると誤解する
  • 侮辱、中傷、または軽蔑されたと考える場合は、恨みを抱く
  • 自分の性格や評価が批判されたと考え、即座に怒りをもって反応したり、反撃したりする
  • 疑うべき十分な理由もなく、自分の配偶者またはパートナーが浮気をしているのではないかと繰り返し疑う

妄想性パーソナリティ障害の治療

妄想性パーソナリティ障害の治療は、特有の治療ではなくパーソナリティ障害全般の治療法に準じて行われます。精神療法(心理療法)が中心となり、必要に応じて薬物療法が行われます。

精神療法(心理療法)

パーソナリティ障害の治療では、精神療法が重要な役割を果たします。
精神療法は、患者さんが治療者と協力して、自分の思いや気持ちを整える、問題への認識を深め、対処法を築き上げる、といった作業を進めることによって、問題を克服しようとする治療法です。

ただし、妄想性パーソナリティ障害の患者さんはとても疑い深く、不信感が強いことから、協力しお互いを尊重し合う関係を築くことが難しいことがあります。

認知行動療法(Cognitive Behavior Therapy:CBT)

精神療法の一つに、認知行動療法があります。
現実の受け取り方やものの見方をしなやかにやわらかくときほぐし、極端な不信感や妄想的な考え方を、現実に沿ったものの見方に変える練習をする精神療法です。考え方に変化がみられるようになったら、問題を解決する方法や人間関係を改善する方法を模索し練習を重ねます。

薬物療法

現在、パーソナリティ障害そのものに対して効果が認められた薬はありません。症状の一部を和らげる目的で、以下の薬を使用することがあります。

  • 抗うつ薬:強いこだわり、不安などを軽減する
  • 抗精神病薬:妄想、支離滅裂な思考や発言、興奮、攻撃性などを軽減する
  • 気分安定薬:気分を落ち着かせる、衝動性をコントロールする
  • 抗不安薬:不安な気持ちを和らげる

薬物療法はあくまで補助的な役割であり、精神療法と組み合わせて用いることが必要です。

妄想性パーソナリティ障害になりやすい人・予防の方法

子どものときに虐待を受けたりひどく傷つく体験をしたりした方や、強いストレスにさらされてきた方に起こりやすい傾向があります。
原因がはっきりとしていないため予防することは難しいですが、次に挙げるような方法が有効である可能性があります。

  • 周りの方との適切なコミュニケーションについて学ぶ
  • ストレスの原因となっているものから離れる
  • 早めのカウンセリングを受ける

ただし、本人は自分には問題がないと考え、周囲が悪い、自分を傷つける、と思い込んでいるため、こういったことを早期に行うのは難しいことが多いです。自分の問題に本格的に取り組むまでには長くかかることがあり、焦って無理に勧めるのはよい結果につながらない可能性もあります。

周囲の方も長期的な視点で関わっていく必要があります。負担が大きい場合には、相談できる方や周りを頼ることも重要な対処方法です。

関連する病気

参考文献

この記事の監修医師