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パニック症
前田 佳宏

監修医師
前田 佳宏(医師)

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島根大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科に入局後、東京警察病院、国立精神神経医療研究センター、都内クリニックにて薬物依存症、トラウマ、児童精神科の専門外来を経験。現在は和クリニック院長。愛着障害やトラウマケアを専門に講座や情報発信に努める。診療科目は精神神経科、心療内科、精神科、神経内科、脳神経内科。 精神保健指定医、認定産業医の資格を有する。

パニック症の概要

パニック症(パニック障害)とは、なんの前触れもなく自律神経症状が出現したり、激しい不安に襲われたりする症状を繰り返すこころの疾患です。これらの症状が発作的に出現することを「パニック発作」といいます。
パニック症は人口のおよそ1~3%が罹患しているといわれています。また、女性が男性のおよそ2倍いるといわれており、典型的には、青年期に突然あらわれるといわれています。
パニック症の原因は今のところはっきりしていません。しかし、これまでの研究から脳内の不安に関する神経系の機能異常に関連していることがわかっています。そのため、パニック発作で医療機関を受診しても身体的な異常はみられないです。

パニック症の原因

パニック症の原因は完全には解明されていませんが、以下のような原因が複雑に絡み合っていると考えられています。
生物学的要因
脳内神経伝達物質の異常、脳の機能異常、遺伝的要因
心理的要因
性格傾向、過去のトラウマ
環境的要因
ストレス、生活環境の変化、身体的要因
その他の要因
予期不安と回避行動

神経伝達物質のひとつであるセロトニンが低下すると、ドパミンとノルアドレナリンのコントロールが不安定となります。2つのバランスが崩れることで、不安感や恐怖感などのパニック症を引き起こすといわれています。
また、脳の扁桃体は恐怖や不安に深くかかわっていることが知られています。扁桃体が過剰に活性化することで、パニック症などの不安障害があらわれるとの研究結果もあります。
さらに、慢性的なストレスや過労、睡眠不足などはパニック発作を引き起こすきっかけになることがあるので注意が必要です。

パニック症の前兆や初期症状について

パニック症では、前兆や初期症状といったこころのサインが出ていることが多いです。それぞれ解説します。

パニック症の前兆

パニック症では、明確な原因は分かっていませんが、パニック発作は突然起こります。パニック発作には「予期不安」と「回避行動」といった特徴的な症状があり、発作を引き起こすきっかけになる場合があります。
予期不安とは、過去に経験したパニック発作が再び起きるのではないかと強い不安感を覚えることです。
回避行動とは、不安や恐怖を引き起こす可能性のある状況や場所を避ける行動です。パニック症を罹患している患者さんは、過去にパニック発作を経験した場所や状況を避ける傾向にあります。
具体的には、以下のような状態になる可能性があります。

  • 発作が起きる前に可能性を常に考えて心配する
  • 混雑した場所、公共交通機関、エレベーターなどの場所を回避する
  • 一人で外出を控えたり、遠出することを控えたりするなど

上記の状態は日常生活にも影響を及ぼすため、予期不安や回避行動があらわれたら注意が必要です。

パニック症の初期症状

パニック発作の症状は数分以内にピークに達し、通常数分~数十分程度で自然におさまります。
パニック発作には以下のような症状があります。

  • 頻脈や動悸
  • 胸の痛みや不快感
  • 冷感(悪寒)や熱感(のぼせ)
  • 発汗
  • 吐き気や腹部の不快感
  • 身震いや震え
  • めまいや気が遠くなる
  • 呼吸困難や息切れ
  • 窒息感
  • しびれ、または、ぞくぞくうずく
  • 非現実感・離人症状
  • 自制心を失う恐怖や気が狂う恐怖
  • 死への恐怖

パニック症は発作が繰り返し起きることで、生活に支障をきたすことがあります。
パニック症かもしれないと思ったときは、症状が悪化する前に精神科を受診しましょう。

パニック症の検査・診断

パニック症と診断するため、身体的な疾患を否定する必要があることから、以下のような検査を行います。

  • 血液検査
  • 画像検査(X線撮影、CT検査など)
  • 心電図検査など

上記の検査を訴えのある身体的な症状に合わせて行います。
検査で異常がない場合には以下の診断基準に当てはまるか確認します。

1.パニック発作のうち少なくとも1つは、以下に述べる1つまたは両者が1ヶ月またはそれ以上続いている

  • さらなるパニック発作またはその結果について持続的な懸念または心配(例:抑制力を失う、心臓発作が起こる、「どうかなってしまう」)
  • 発作に関連した行動の意味のある不適応的変化(運動や不慣れな状況を回避するといった、パニック発作を避けるような行動)

2.その障害は、物質の生理学的作用または他の医学的疾患によるものではない

3.その障害は、以下のような精神疾患ではうまく説明されない。

  • 社交不安症
  • 心的外傷後ストレス障害
  • 強迫性障害
  • 分離不安症

パニック症の症状が疑われる場合は、早めに精神科を受診して相談するようにしましょう。

パニック症の治療

パニック症の主な治療方法は以下の2つです。

  • 薬物療法
  • 認知行動療法

それぞれ解説します。

薬物療法

パニック症で用いる薬物療法は、抗うつ薬と抗不安薬です。
抗うつ薬の中では、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が有効といわれています。SSRIは主に脳内で神経伝達物質セロトニンの再取り込みを阻害し、セロトニンの働きを増強することで抗うつ作用をあらわす薬です。
抗不安薬の中では、ベンゾジアゼピン系のものを使う場合があります。脳の興奮を抑えることで不安、緊張、不眠などを改善する薬です。

認知行動療法

認知行動療法とは、自分の「考え方(認知)」や「行動」のパターンによって症状が続いてしまう悪循環に気づき、考え方や行動の幅を広げ柔軟にしていくことで、不安や落ち込みなどの「感情(気分)」の症状を解決していく心理療法です。
パニック症の認知行動療法では、強い感情をともなう認知をとらえていきます。
たとえば、動悸がすると「心臓がどきどきしているのは、心臓発作で死ぬということを意味する」と脅威的に考えてしまい、強い不安をともないます。
この「動悸→心臓発作→死」という考え方(認知)を修正することを通して、「心臓がどきどきして死んでしまうのではないか」という不安を少なくしていきます。(認知の再構成)
認知行動療法は、考え方のパターンを変えることで感情や行動を改善して、ストレスや精神的な問題に対処するため、パニック症に対して有効な治療方法です。医師や臨床心理士などの専門家による指導のもと行われますが、訓練することで自分自身で取り組むことも可能です。

パニック症になりやすい人・予防の方法

パニック症になりやすい人、万が一パニック発作が出現したときや出現しそうなときの対処方法について解説します。

パニック症になりやすい人

パニック症になりやすい人には、以下の特徴があります。

  • 完璧主義な人
  • 几帳面で責任感が強い人
  • 感受性が高い人
  • ストレスの多い生活を送っている人
  • 過去のトラウマ(虐待や離別、孤独感など)がある人

なお、上記の特徴がある人はパニック症を発症しやすい傾向やリスクを高める要因になる可能性はありますが、必ずしもパニック症を発症するわけではありません。各々の状況や環境が複雑に絡み合うことで発症すると考えられています。

パニック症の予防の方法

パニック症は発症するメカニズムが分かっていないため、発作が出たときや出そうなときの対処方法を理解すると、焦らず自分に合った方法で対処できます。

  • 深呼吸を意識する
  • 気分転換を図る
  • 安全な場所に移動する
  • 親しい人に連絡する

上記の行動により、精神的な落ち着きを図りつつ、症状を軽減できる可能性があります。
また、どのような場所や状況でパニック発作が起こるか理解しつつ、発作が起こったときの対処方法を理解しておくと、焦らず行動することが可能です。

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