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場面緘黙症
伊藤 有毅

監修医師
伊藤 有毅(柏メンタルクリニック)

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専門領域分類
精神科(心療内科),精神神経科,心療内科。
保有免許・資格
医師免許、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医

場面緘黙症の概要

場面緘黙症(ばめんかんもくしょう)は、学校など特定の社会的状況において話すことが一貫してできなくなる状態のことです。
2〜4歳に発症することが多いですが、まれに大人になってから気付くケースもあります。
人口の0.2〜0.5%に発症し、男児よりも女児にやや多くみられます。

場面緘黙症の医学的な判断は、アメリカの神経疾患の国際的な診断基準(DSM-5)で以下の5項目が定められています。

  • 他の状況で話しているにもかかわらず、学校や園などの特定の社会的状況で話せない
  • 症状が学業や職業における成績、もしくは対人的コミュニケーションを妨げている
  • 症状が少なくとも1ヶ月(入学の最初の1ヶ月に限らない) 持続している
  • 症状は社会的状況で要求される知識や、話す楽しさが不足していることが原因ではない
  • 症状は小児期発症流暢症などのコミュニケーション症ではなく、自閉スペクトラム症や統合失調症などの経過中にのみ起こる状態ではない

場面緘黙症の特徴は家庭などでは普通に話せるのに、学校や園などで話せなくなることです。
人見知りや恥ずかしがり屋とは異なり、話しているのを人に聞かれたり見られたりすることに強い不安や恐怖を感じて、人前で話せなくなります。

場面緘黙症は、自閉スペクトラム症や統合失調症などの精神疾患の併発症状として発現することもあります。
その場合、医学的には他の精神疾患が上位診断となり、場面緘黙症とは診断されません。

場面緘黙症は他の精神疾患や性格特性との鑑別が難しく、見落とされることも多いです。
しかし気づかないまま放って置くと、学習力の向上が難しくなったり、成人後の社会機能に悪影響を及ぼしたりする可能性があるため、適切に治療する必要があります。

場面緘黙症

場面緘黙症の原因

場面緘黙症の原因は言語面や神経発達面の障害、生まれつきの気質、環境の変化などが関係して発症します。
以前は両親の精神疾患や過保護などが原因だと言われていましたが、因果関係ははっきりしていません。

場面緘黙症の前兆や初期症状について

場面緘黙症の初期症状は入園や入学、転居など、環境が変化したときに突然人前で話せなくなることです。
新しい環境における発話の難しさやストレスが原因となって発症することが多いです。

人見知りや恥ずかしがり屋の子どもは、新しい環境に入っても1ヶ月ほど経てば慣れて話せるようになりますが、場面緘黙症の子どもは話せない状態が1か月以上続いたり、リラックスできる場面でも話せない状況が続きます。

また話せないことだけでなく、人前で食事が摂れない・トイレに行けないなど行動面の抑制症状が同時に出現することもあります。

場面緘黙症の検査・診断

場面緘黙症は症状や不安の程度、コミュニケーション行動、発達面が判断できるアセスメントツールも使用して、結果から得られた情報と併せて診断します。

場面緘黙症の子どもは医療機関や相談機関の検査室で話せないケースが多いため、アセスメントツールは保護者にておこなう必要があります。
検査室で検査できそうな場合は、言語面や発達面などの検査(絵画語彙発達検査やWISC-Ⅳ知能検査など)を追加でおこないます。

場面緘黙症の症状の検査

場面緘黙症の症状の程度を把握するには、場面緘黙質問票(SMQ-R:Selective Mutism questionnaire-Revised)を使用します。
質問票の項目は全部で16項目あり、保護者が子どもの状態を回答します。

不安の程度やコミュニケーション行動の検査

場面ごとの不安や発話の状態を把握するために、安心度チェック表や発話状態チェック表を使用します。
友人や教師とコミュニケーションが上手く取れない場面や、子どもの不安が大きくでる場面などについてチェックします。
保護者だけでなく教師からの情報を記載することもあります。

発達の検査

津守式乳幼児精神発達診断検査や日本語版子どもの行動チェックリスト(CBCL/4-18:Child Behavior Checklist/4-18)という質問紙に保護者が回答し、子どもの社会的能力や問題能力を確かめます。
自閉症スペクトラム症のスクリーニング検査である、広汎性発達障害日本自閉症協会評定尺度(PARS:Pervasive Developmental Disorders Autism Society Japan Rating Scale)も用いられます。

場面緘黙症の治療

場面緘黙症の治療では主に行動療法と遊戯療法がおこなわれます。

治療の方針は検査で十分な情報を得た後に、子どもの特性をよく観察しながら保護者との相談のうえで決定されます。
治療の目的は子どもが特定の場面で少しずつ話せるようにすることであり、学校や園での対応が必要なこともあります。

行動療法

行動療法では、不安の低い場面から徐々に高い場面へ話す機会を増やす治療(段階的エクスポージャー)がおこなわれます。
家族との会話で発話ができる状況のなか、少しずつ第三者が交じる状況にするなど、段階的に子どもが人前で話すことに慣れるように促します。
成功体験を積むことで子どもが自信を持ち、徐々に話しやすくなるように支援します。

遊戯療法

遊戯療法は安全で楽しい遊びの環境を通じて子どもの不安を軽減し、自然なコミュニケーションを促進する治療です。
子どもと一緒に遊ぶなかで、徐々に言語的なやり取りを増やしていきます。
子どもがリラックスしやすい環境をつくることで、コミュニケーションに対する抵抗感を減少させる効果があります。

場面緘黙症になりやすい人・予防の方法

場面緘黙症は、言語面や神経発達面に障害がある子どもに発症しやすいことがわかっています。
場面緘黙症の予防法はありませんが、発症した場合は成人後にできるだけ症状を残さないように、幼児期から適切な治療を受けるのが大切です。

言語面の障害

場面緘黙症は言語面の障害によって言葉を表出するのが苦手な子どもに起こりやすいです。場面緘黙症の子どもの約5割が、表現性言語障害や音韻障害などの言語障害があるとわかっています。

神経発達面の障害

場面緘黙症は、対人関係やコミュニケーションなどの社会性の発達が遅れている子どもに発症しやすいです。
場面緘黙症の子どもの約7割が、自閉スペクトラム症や注意欠如多動症などの神経発達面の障害を併発していると報告されています。


関連する病気

  • 不安障害
  • 自閉スペクトラム症
  • 小児期発症流暢症
  • 注意欠如多動症
  • トラウマ性緘黙
  • けいれん性発声障害
  • 失声症
  • 吃音小

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