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解離性障害・転換性障害
伊藤 有毅

監修医師
伊藤 有毅(柏メンタルクリニック)

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専門領域分類
精神科(心療内科),精神神経科,心療内科。
保有免許・資格
医師免許、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医

解離性障害・転換性障害の概要

解離性障害・転換性障害は、以前にヒステリーや神経症と言われていたものが含まれ、身体には明らかな異常はない、しかし身体面や精神面に症状がある、そしてそれらは、原因として心理的なストレスや性格的なものが考えられる、ということが特徴です。

元来、人の意識、記憶や体感、知覚などを含むアイデンティティ(自我の同一性)は、一つに整理・統合されています。「解離」とは、こうした感覚を整理する能力が一時的に失われた状態であり、主に意識や人格の統合などの精神面に症状が現れる場合に解離性障害と分類されます。精神的なストレスや葛藤が身体的な症状に「転換」され、運動や感覚の機能などの身体面に症状が現れる場合を転換性障害と分類していました。しかし最近は精神疾患が細かく分類される傾向にあり、解離性障害を解離症群、転換性障害を機能性神経症状症や解離性神経学的症状症と分類したり、変換症/転換性障害と言う用語も提唱されたりしています。ここではより浸透している解離性障害・転換性障害を使用しますが、今後の疾患名や分類とは異なる可能性があります。

解離性障害

通常、解離と言う状態はストレスやトラウマに対する防御メカニズムとして機能し、精神的苦痛を軽減するために発生します。しかし、強いストレスなどが原因となって、個人のアイデンティティが一時的に喪失、分離、崩壊した場合に解離性障害が考えられます。解離性障害には以下の主なタイプがあります。

  • 離人症/現実感喪失症
    離人症とは、自分を外から眺めているような奇妙な離脱感、現実喪失感とは、現実を夢として見ているようにリアリティなく感じることですが、日常生活に重大な影響はありません。ただし、ほかのほぼすべての精神障害において離人感や現実感喪失を起こしうるとされています。
  • 解離性健忘
    普通の物忘れでは説明できないほど、ストレスに満ちた出来事の記憶に空白があったり、まったく思い出せなくなったりした状態です。重要な情報や出来事も記憶できていません。過去の全生活史についての記憶の一部またはすべてを失い、家族や仕事を残して普段の環境から姿を消してしまう解離性遁走(フーグ)を含むこともあります(いわゆる蒸発)。全く別の場所で全く別の人間として生活を始めているところを発見されることもあります。
  • 解離性同一性障害
    以前は多重人格障害と言われていたもので、個人のアイデンティティが複数に分裂し、異なる人格が交代で支配する状態です。ある人格が出現している間は、別の人格の記憶がない場合もあり、生活上の支障をきたすこともあります。

なお、トランス症(現在の周囲の状況や刺激への著しいこだわり、運動や姿勢の制限、限られた言葉を繰り返して話しコントロールできない状態)や、憑依トランス症(個人のコントロールの主体が外的な憑依アイデンティティとなった状態)も解離性障害に含むことがあります。

転換性障害

転換性障害は、精神的なストレスやトラウマが身体的な症状として現れる精神障害です。これらの症状には、運動、感覚、認知症状が含まれており、視覚障害、聴覚障害、回転性めまいまたは非回転性めまいや、非てんかん性発作、発話障害、麻痺または脱力、歩行障害、運動障害、認知症状などを伴うことがあります。症状は身体的な原因では説明できず、心理的な要因に起因します。

解離性障害・転換性障害の原因

解離性障害・転換性障害の主な原因は、幼少期のトラウマや虐待、極度の心理的ストレスやトラウマです。ストレスフルな現実から逃避し、精神的な苦痛を軽減し、ストレスから解放されようとします。過去に身体的または性的虐待を経験したことがある人々にも見られます。

解離性障害・転換性障害の前兆や初期症状について

解離性障害の前兆や初期症状

  • 記憶の欠落
    重要な出来事や個人的な情報を忘れることがあります。
  • 時間の喪失
    時間の感覚が失われ、ある期間の出来事を覚えていないことがあります。
  • 現実感の喪失
    自分自身や周囲の現実感が薄れることがあります。
  • 異なる人格の存在
    解離性同一性障害では、異なる人格が交代で現れることがあります。まったく別の性格を持つこともあり、他人格には本人の渇望したイメージである、自由奔放さや強さ、甘えられる存在を代理する者が主であることが特徴で、幼児や異性の他人格がみられることもあります。

転換性障害の前兆や初期症状

ストレスフルな状況やトラウマに直面した後に突然現れ、身体的症状は医学的な原因では説明できません(器質的異常はない)。具体的には以下のとおりです。

  • 視覚障害:盲目、視野狭窄、複視、視覚変容、幻視
  • 聴覚障害:聴力喪失、幻聴
  • 回転性または非回転性のめまい:静止時の回転やめまい
  • 上記以外の感覚障害:感覚の喪失、締め付けられる感じ、ちくちくする感じ、ほてり、痛みなど
  • 非てんかん性の発作:けいれんなど
  • 発話障害:構語障害、発声障害、構音障害
  • 麻痺または脱力:身体の一部が動かせなくなる
  • 歩行障害:歩き方が通常と異なり、よろよろしたりふらふらしたりします。歩けないことや立てないこともあります
  • 運動障害:舞踏病、ミオクローヌス、振戦、ジストニア、顔面けいれん、パーキンソン症状、ジスキネジア
  • 認知症状:記憶、言語などの認知能力における障害

これらの症状がみられるときは、精神科の医療機関を受診しましょう。

解離性障害・転換性障害の検査・診断

病歴の聴取と面接

患者さんの過去のトラウマ経験、ストレス要因、家族歴、生活歴などを詳しく聴取します。解離性症状(記憶喪失、異なる人格の存在感、離人感など)や転換性症状を確認します。

心理テスト

  • 解離体験尺度
    自己報告形式のアンケートで、解離症状の頻度と強度を評価します。
  • 構造化臨床面接
    解離性障害の詳細な評価を行うための半構造化面接です。解離の5つの症状(健忘、離人感、現実感喪失、同一性混乱、同一性変容)を評価します。
  • ミネソタ多面人格目録
    たくさんの質問に対して「そう」「ちがう」で回答してもらい、その結果を総合的に解釈して人格を多面的に測定します。

精神科面接

精神科医や心理士が患者さんと面接し、転換症状(麻痺、失調、感覚異常など)が存在し、これらが意識的に作り出されたものではないことを確認します。また、身体的な疾患を除外するために神経学的な検査を行い、ほかの神経学的な疾患(てんかん、脳腫瘍など)によるものではないことを確認します。MRI検査やCT検査、神経伝導速度検査などが行われることもあります。

解離性障害・転換性障害の治療

簡単に治療可能なものではなく、有効な薬も確立していないため、けっして焦らず、長期的な目で見て、じっくりと治療に取り組んでいく姿勢が大切です。転換性障害の約30-50%に解離性症障害の合併が認められ、約90%でうつ病、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、不安障害などのほかの精神科疾患が併存していると言われています。

心理療法

認知行動療法
過剰な思考パターンや行動を修正します。
EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)
トラウマの治療に用いられます。

薬物療法

抗うつ薬や抗不安薬が使用されることがあります。

解離性障害・転換性障害になりやすい人・予防の方法

解離性障害・転換性障害になりやすい人

  • トラウマの経験がある人
    幼少期に身体的または性的な虐待や重大なストレスを経験した人々。
  • 遺伝的素因
    家族に精神疾患の既往がある場合、リスクが高まります。
  • 高いストレスレベル
    日常生活で高いストレスを感じている人々。

予防の方法

  • ストレス管理
    ストレスを適切に管理するためのスキルを学び、実践します。
  • 心理療法
    トラウマやストレスに対処するための専門的な支援を受けることが重要です。
  • 周囲の環境
    規則正しい生活をして、安心できる環境の構築が重要です。ストレスに対処する方法を身につけることも重要です。
  • サポートネットワークの構築
    医師・心理士や家族・友人、支援団体と良好な関係を築くことで、精神的な安定を保ちます。


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